第178話 学園祭 その2④
——— 滝沢蘭華です。
今日は、桜木……翠ちゃんに誘われて、放課後、中心街のアーケード街からはちょっと外れた路地に来ていた。
何やら「ケ・ベッロ」ってお店の店長に衣装の件で相談に行くとの事。
真壁さんも一緒だ。顔は前髪で隠しているけど正直、ちょっとドキドキしている。
翠ちゃんと真壁さんのやりとりを見ながら来たけど、以前、廊下でのやりとりを見たまんま、二人とも普通の高校生だ。
真壁さんは声とか低くてちょっと怖い感じもするけど、以外と
そうだよね。見た目はメチャクチャ格好良くても、所詮は高校生だ。
要所要所、中身の格好良さも見えるけど、それはどの人でも持っている格好良さで、特別な事なんて無い。
そんなこんなで、真壁さんが私に話し掛けてきた。ドキドキだ。
「そう言えば、滝沢さん、彼氏募集中って聞いたけど……まだ募集中?」
「え? あ、はい。募集中です」
「バスケ部の子なら紹介できるかも知れないけど……どう?」
「是非。キッカケさえ頂ければ」
「だったら、年下、同い年、年上、好みある?」
「出来れば……年下以外で。やっぱ弟居るから年下はちょっと……だね」
「年下以外か……じゃあ、チャラ男、穏やか系、お笑い系……それとオタク系、どれ良い?」
「お笑い系……かな?」
「おお! それなら、良い物件有りますぜ旦那」
「ぷっ……旦那って、なんですか」
「ゴメン、翠のノリで思わず」
「真壁さんって普段もこうなんだ」
「そだよ。ついでに耳に息吹きかけると『あん♡』って言う」
「おい! それは言うな」
「私もやっていい?」
「えー……三回までかな?」
「おい! 三回もいいのか……あん♡」
「ホントだ。『あん♡』って言った! ウケる~。かわいいー」
翠ちゃんは飛びついて耳に息を吹きかけた。
ハッキリ言おう。こいつらバカップルだ。
翠ちゃん羨ましいな。こんな楽しい彼氏いて。
後で先輩を紹介して貰ったんだけど、後々、同じ苗字になったのはまた別の話だ。
今日、翠ちゃんがショップに来たのは、文化祭の出し物を決める時に、三崎さんが「衣装は私が準備する」と言っていたのだが、江藤さんは、全く宛てにしていなかったらしい。
そもそも動いている気配が無い。というか準備にも全く顔を出さないのだ。
そこで、翠ちゃんが江藤さんに頼まれて、セレクトショ……はぁ?
「何このパネル……翠……ちゃんと……真壁……さん?」
「えへへ……実は、ちょっとお手伝いでモデルっぽい事やったんだよ」
「モデルっぽいって、モデルそのままじゃん! 凄い綺麗……カッコいい……」
そう言えば噂で聞いた事があった。
とんでもないモデルのパネルがある店があるって。
まさか翠ちゃん達だったとは……。
「アリガト♪」
そして慣れた感じで翠ちゃんは店に入った。
「こんにちわー」
「いらっしゃ……翠ちゃーん♪ お久しぶりー。待ってたわー」
「お久しぶりです」
「なぁに相談って」
「はい、実は——— 」
翠ちゃんは、店長と話を始めた。そして店の奥へ消えていった。
私は真壁さんと服を眺めていた。
服を選んだり選ばれたり、ちょっとだけ恋人気分でいたのは、翠ちゃんには内緒だ。
——— 暫くして翠ちゃんが戻って来た。ニコニコの笑顔だ。収穫はあったのは聞くまでも無いね。
※ ※ ※
「来羅ぁ、店長んとこ行ってきたよ」
「有り難う」
来羅は、例のギャル子の一人がウエイトレスの衣装を準備すると言っていたが、全く宛てにしていなかった。
彼女ら、準備してそうな気配が今日まで全く無かったのだ。
「店長に聞いたら、飲食店とかの開店の時に入る、オープニングスタッフ用の貸衣装屋さんがあるんだってさ」
「なるほどね」
「早速、電話したら、金曜日に届けてくれるって」
「助かるー。だいたい今日、水曜日だよ? もうギリギリだよ」
「幸い今の時期、あんまりオープンする店は無いらしいから、こちらからの依頼は有り難かったみたいだよ。ついでに、高校生だからって事で学割付けて貰った」
「貸衣装に学割ってあんの? フフ、さすが翠ちゃん。出来る子」
「えへへ。ついでに店長が来羅にモデルやらないか? って」
「それは……ちょと魅力的な話しだね。考えとくよ」
話に出て来た『オープニングスタッフ』って言うのは、出来たてホヤホヤのお店って、お客さんが殺到するでしょ?
そのためだけにアルバイト募集して雇っても、接客が下手だっりして開店早々、マイナスイメージが付くから、どの店も、最初は接客専門のプロに入って貰うんだそうだ。その人達を『オープニングスタッフ』という。
ただ、その店のイメージに合う、制服・衣装を皆揃えてる訳じゃ無いので、オープニングスタッフ用に、貸衣装屋さんが存在するとのこと。
今回は、この貸衣装屋さんを紹介して貰ったのだ。
※ ※ ※
——— そして学園祭前日。
実行委員の私は今、文化祭の準備用に2-C、Dが充てられた教室にギャル子達と居た。
ギャル子達……「達」と言うからには複数なのだが、具体的には十人だ。
ついでに彼女達の様相は、皆、校則違反ギリギリを攻めたオシャレをしている。
うちの学校、校則の内容は緩いんだけど、取り締まりは厳しいのだ。
なので、ギャル子達の様相は、他の学校と比べると結構、派手目だったりする。ただ、まかり形にも進学校だ。成績は普通の高校の学力よりはそこそこあるから人は見かけで判断できない。
ちょっと話は脱線したけど、学園祭の話に戻って、今日までトラブルらしい事は何も無く、順調に進んでいたが……。
「江藤さん、ごめーん。配膳係の衣装なんだけど、ツテ無くて準備できなかったー。ごめんなさーい。だから皆、私服でいいよね?」
三崎が平謝りして来た。予想通りでびっくりした。
多分、皆、私服で準備させて、翠のセンスを揶揄するつもりだった……そんなところだろう。
そんな彼女らを私は一言で一蹴した。
「衣装の事なら大丈夫。翠のツテにお願いして、もう準備してあるから」
「え?」
彼女らは唖然とした顔で私の顔を見ていた。
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