第82話 3×3 その1①
——— 春休みになり三月も終わりを迎える頃、我が家に、翔馬君と廉斗君を招待して夕飯を共にしていた。目的は明朝の「3×3」だ。
「今夜はお招き頂き有り難う御座います」
「大したお持て成しも出来ないからそんなに畏まられると恐縮してしまうんだが……」
「いえいえ、こうしてご招待して頂いただけでも夢のようです」
翔馬君はそう言いながら、鼻の下を伸ばしてキッチンで料理を作る奈々菜を目で追いかけていた。廉斗君も同じである。
「『夢のよう』って、エプロン姿の妹達が見れて嬉しいだけだろ?」
「まぁ……そうなんですけどね、あはは……」
今夜は子供達だけで夜を過ごす。
親達は桜木家で宴会中だ。布団持参で行ったので今夜は帰ってくるつもりは無い。
因みにマンションはオール電化なので火とガスの元栓を気にする事は無い。
なので親も子供達だけ残し安心して家を空けられる。
テーブルに食事が並べられ皆で頂く。勿論、奈々菜と藍ちゃんの手料理だ。
「「頂きます!」」
翔馬君と廉斗君は二人の手料理を前に気合いが入りまくりだ。
「しかしホント料理上手いですね」
「殆ど毎晩作ってるからな」
「へへへ……美味しい?」
「勿論! 今度、逆に不味い料理作れるなら食べてみたいくらい美味すぎ!」
「何その褒め方。でも不味い料理か……そう言われて考えてみると……結構難しいかも」
「おいおい、本気で考えるなよ。でも、家事やって勉強出来てスポーツも万能……俺、奈々菜の隣に立てる日来んのかな……」
凹む翔馬君に俺はフォローを入れる。
「全部に目ぇ向けんなよ。奈々菜が頑張ってるのは勉強だけだぞ?」
「そうなんですか?」
「あぁ、家事っつってもやってる事は料理だけだし、小さい頃から好きでお袋と一緒にキッチンに立ってたからな。これは努力ってよりは趣味だな」
「だね」
「スポーツは単に運動神経が人より少しいいってだけ。朝走ったりとか特別な事は何一つやってない」
「確かにそう言われるとそうでも無いですね……って、運動は殆ど才能じゃ無いですか!」
「ん? そうなるか?」
「だってテニスで優勝って、努力してないなら才能以外無いですよ」
「そうなるか?」
俺の話に感化されたのか、翠も藍ちゃんの話をし始める。
「藍も何でも熟すように見えて実は朝苦手で起きれなかったり、洗濯物畳むの超苦手で下着以外は全部ハンガーに掛け「お姉ちゃん!」
藍ちゃんは自分のみっともないと思う部分に触れられ、翠の話を遮ろうとする。
「ごめんごめん」
「もぉー、止めてよね!」
「料理は殆ど私がやるから、意外とやってないんだよ?」
なんかまだ話を続けようとするので俺はフォローを入れた。
「その割には普通に卒なく作るよな? そういや、いつだったかカツオ一匹丸っと捌いてたな……」
「へっへー♪ センスですよセンス。魚はお婆ちゃんに教えてもらったんだけどね」
藍ちゃんはオカズを頬張りながら得意気になる。
「カツオですか? アジとかサバじゃ無くて」
「そう。あの丸々っとしたカツオ」
「凄いよ藍ちゃん」
「えへへぇ♪」
機嫌も直ったようだ。
「そうそう、うちらの実家も家が隣近所でさ、んでもって目の前海なんだよ。今度の夏、行ってみるか? 勿論、互いの親の了解は欲しいけどな」
「是非お願いします」
「ふふふ、翔馬の為に、エッロい水着準備しとくね」
「ウぼふッ!」
翔馬君は口にしたスープを吐き出しそうになった。
※ ※ ※
——— 食事が終わり、食器の片付けをお兄ちゃんと翠ちゃんがする。
私は食後の飲み物を皆の前に置いて行く。
「美味しかったよ」
「うん。毎日食べられたら幸せだよなぁ……」
私は翔馬の隣に腰を掛けながら廉斗君の言葉に、反応する。
「ね、四月から、学校で誰も来ない場所でお弁当一緒に食べない?」
「いいけど……どっかあるの?」
「うん。お兄ちゃん達、高等部の旧校舎で食べてんだけど……」
そう言えば旧校舎の教室は全部鍵が掛かっている。
お兄ちゃん達、旧校舎でご飯食べてるって言ってたけど……鍵ってどうしてんだろ?
「ね、お兄ちゃん達、旧校舎の教室でご飯食べてるって言ってたけど、鍵ってどうしてんの?」
「ああ……実は翠が教頭から『病気大変だろうから隠れ家に使っていいぞ』って鍵預かってんだよ」
「そうなんだ。それじゃあ……私達は無理か……」
「ちょっと難しいな」
高等部の旧校舎に出向いて食べる事は出来る。
ただ、そこに行くには高等部の新校舎を抜けて行く必要がある。
中等部の子が高等部の校舎を歩く事は容易だ。
中高一貫校だ。普通に中高間で恋人が居て、出入りしている子も少なく無い。
ただ、私はそういう用が無い。しかもただ通り抜けて行くだけだ。
私と藍は学園内で知らない子は居ないと言うし……そもそも中等部の廊下を歩いただけで注目を浴びるくらいだ。高等部の廊下なんて歩いたら人集りが出来ちゃう……は、自意識過剰か。
「ダメか……良い考えだと思ったんだけど……場所無いね」
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