第53話 お盆だから爺ちゃんちに来た⑤

 ——— 爺ちゃんち二日目だ。

 昼は庭の草むしりをした。ついでに桜木家の庭もやった。向こうは女世帯だ。男手が少ないので大いに感謝された。

 草が長くて密集してれば機械の方が楽で早いが、庭の草はまばらでそれ程高さがない。

 それ用のアタッチメントも有るが、手慣れていない俺には危険な道具でしか無かった。

 なので手でむしった。

 草むしりはしゃがみっぱなしだ。足腰が良い感じで鍛えられ、中々良い筋トレになる。

 奈々菜は婆ちゃんと台所で一つ一つ皮を剥いたりヘタを取ったり面倒な食材の仕込みをしていたようだ。


 ——— 午後は疲れて昼寝だ。そして目が覚めると、翠と藍ちゃんが遊びに来ていた。

 奈々菜と今夜の祭りの話をしていたようだ。

 この土地のお祭りは小学校の校庭の真ん中にやぐらを立て、櫓を中心にして盆踊りを踊る。櫓と言っても高さは人の背丈ほどだ。

 そして校庭を囲むように周りには出店が並ぶ。

 俺と奈々菜は毎年このお祭りに顔を出していた。

 

「宗介は浴衣着てくの?」

「何時もは着ないけど、今年は翠も居るし、翠が着るなら着ようかな?」

「奈々菜ちゃんは?」

「私は勿論着てくよ。叔母さんのお古だけどね。藍と翠ちゃんは?」

「ウチら夏の実家って初めてなんだよ。だから水着ぐらいしか準備してなかったんだけど……」

「叔母さん浴衣二枚持ってたし、帯も二本あるから片方貸せると思うよ」

「ホント? まずはお婆ちゃんに聞いてみよ」


 ——— 暫くして、俺は浴衣に着替えて縁側に座って翠が来るのを待っていた。奈々菜も着替えが終わって俺に目の前に立つ。


「どう?可愛い? 似合う?」

「あぁ、可愛いよ。髪、誰にやってもらったんだ?」

「えへへー、ありがと。髪はお母さんだよ。流石にこれは自分じゃ出来ないよ」


 髪はアップにまとめられ、シンプルな髪飾りで留められている。頸が色っぽく、前髪も珍しく上げていた。

 おでこ丸出しでパッチリした目がより一層強調されて、我が妹ながら翠に匹敵……とまでは行かないがそう思える位に可愛いと思えた。

 少しすると藍ちゃんが浴衣を着て再び家にやってきた。


「再び藍ちゃん登場♪ どう? 似合う?」


 藍ちゃんが着ている浴衣は藍染め浴衣だ。藍ちゃんは名前を意識して、青い物をよく身に付けている。普段見慣れているせいか、藍色の浴衣は藍ちゃんにピッタリの色に見えた。

 顔が似ている奈々菜は特に意識している訳ではないが、赤っぽい物を選ぶ傾向がある。なので周りの人は『奈々菜の色は赤』という認識だ。不思議な事に『可愛らしさ』と『凛』とした雰囲気の違いのせいか、奈々菜が青を身につけてもなんとなく馴染ま無かった。逆もまた然りである。

 そんな奈々菜が着ている浴衣は白をベースとした茜染の浴衣だ。若干赤茶掛かった色合いは大人っぽさを演出させる。

 そして翠が後から顔を出す。


「えへへ……なんか自分じゃ無いみたいだよ」


 翠も藍染めの浴衣だ。

 俺は翠の可愛らしさ、美しさに見惚れていたが、祖父の一声で我に返る。


「なんだ翠ちゃんが。キシちゃん若返っだがど思っだ」

「なんか『普段の藍の色』って感じでちょっと違和感」

「大丈夫。全然綺麗だよ」

「うん。翠ちゃん綺麗」

「えへへ、ありがと。実は私達初浴衣だったよ」

「うん♪ 着物は着るんだけどね」


 ついでに俺の浴衣は紺色だ。


「でも、翠、その顔で行くの?」

「んーん、ウィッグは付けないと流石にね……」


 少し大きい手提げ袋からウィッグを取り出す。微妙にホラーな瞬間だ。


「宗介は?」

「あぁ、俺、子供の頃から顔出してるから皆俺の事知ってんだよ。それにこの辺の人たち全員皆顔見知りだから陰キャスタイルの方が不審者扱いになっちまう」

「私達行ったら私、目立っちゃう?」

「いや、初めての顔は『どっかの親戚来たか』ぐらいにしか思わないと思うから大丈夫だろ。藍ちゃんは奈々菜と同じ顔だし、奈々菜もソコソコ顔、覚えられてっから平気平気」


 空も大分暗くなって来た。


「んじゃ、出かける前に写真撮りまくるか」

「うん」


 四人は縁側に座ったり庭で並んだり、兄妹、姉妹、色んなパターンで写真を撮った。

 暮れ泥んだ光は影を無くし、写真は絵画のような仕上がりを見せた。スマートフォンでこんな写真が撮れるんだな。


「そろそろ行くか」

「おう♪」


 そして辺りも暗くなって小学校へ向かう。四人の下駄の音が暗闇に不規則に響く。

 街灯はあるがそれ程数が多い訳ではない。学校に近付くと、遠くからも下駄の音が聞こえてきた。

 そして小学校に着くと校庭の真ん中に櫓があって、その上には太鼓が大型の物が一台、小型の物が二個置いてあった。校庭の周囲には少ないながら出店が幾つかあり、海辺ならでは、海鮮系の食べ物の香りが蔓延して、食欲を唆った。


「いい匂い……じゅる」

「翠は相変わらず食べ物か」

「えへへ、だってここの海産物全部美味しいんだもん」

「確かに」


 奈々菜と藍は既に居なくなっていた。俺と翠は二人で出店を堪能した。

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