友情と労い ~2人は師弟であり、親友であった。~

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「別れと新たなる旅立ち」

 寒い冬の夜にも関わらず、その屋敷は温かかった。


 8年間の勤めを終えた少女が、彼女を慕う同僚たちに囲まれて立っていた。


 同僚たちは、一緒に長い月日を乗り越えてきた少女との、在りし日の思いで話に話に花を咲かせている。

 皆、口々に彼女への感謝を伝え、褒め称える言葉を口にしている。

 少女の、これまでの働きを労うとともに、新たな門出を祝福し肩を優しく叩いた。


 やがて、屋敷の主人が、皆の前に立ち、お別れの挨拶をする。

 若い女主人は、一目で裕福だとわかる衣装に身を包んでいる。


 女主人は、親しい友人でもある少女を「素晴らしい女性」とたたえ、「この屋敷で過ごした時期、この上なく献身的で、有能なパートナーだった。」と述べた。


 少女はそれに応え、自身がこの「この場所には、ふさわしくない」としながらも、かつて主人が、道端で行き倒れていた少女とその家族を拾い、金銭的な援助をしてくれたことに感謝を述べる。


 そして不意に、主人は少女に、一族の家宝である「至高の宝石」を授けると述べた。

 女主人は少女の後ろにまわると、青い宝石のネックレスを、少女の首にかける。


 まったく知らされていなかった少女は、驚き、涙を流しながらその宝石を受けた。


 女主人は「同胞を信じ、故郷を愛し、生涯をかけて、この町の発展に尽くしてきた」と少女を称えた。


 感極まった様子の少女を、女主人は「親友よ」と呼び、少女を弟子に選んだことは「自分にとってだけでなく、この町の人たちにとって最善の選択だった。」と称賛した。


 これは、一族でもごくわずかの人にしか与えられていないものだと話した。


 少女が、スピーチする番になった。



 少女は自分について、「私は、素晴らしいことをする、“素晴らしい人”の旅路の一部でした。」と、女主人を見ながら述べる。


「このサプライズに、まったく気づいていなかった。

 今日ここに呼ばれたのは、マスターと屋敷の何人かで、お互いに乾杯して、素晴らしい旅路だった、と言うためだと思っていました。」


「マスター、私が家族に頼っていると常々おっしゃったのは、まさにその通りですが、同じようにあなたと、この部屋にいる大勢の方々に、私は頼ってきました。」


「マスター、本当に色々なことがあなたのおかげです。あなたの友情に感謝しています。あなたの家族に、本当に、本当に感謝しています。」


「マスター、“心から出たものは心に入る”という言葉があります。

 あなたは、私たちの心に忍び込んだ。


 マスターと、マスターのご家族全員が。

 そして、私たちの心の中に住み続ける。」

 

「ああ、まさか、私に、こんなことが、起きるなんて。」



「マスター、私は息をする限り、あなたを支えます。

 うちの家族全員が、そうです。

 そして、分かっています。」


「それは、お互い様なんですよね?」


 二人は固く抱き合い、キスをした。


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友情と労い ~2人は師弟であり、親友であった。~ 読んで頂けたら、うれしいです! @KEROKERORI

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