第11話(1)火の四天王

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「うわあー!」


「きゃあー!」


「た、助けてくれー!」


 街の人々が慌てて逃げ惑う。


「リュ、リュートさん! 私たちも逃げないと!」


 イオナが声をかける。


「う~ん?」


 ある建物の二階のベランダにいるリュートは呑気に酒を飲んでいる。


「な、何をやっているんですか⁉」


「そんなの見れば分かるだろう? 一杯やっているんだよ」


「お、お酒を飲んでいる場合ですか⁉」


「飲まなきゃあやってられないよ……」


「ヤケにならないでください! 早く避難を……!」


「どこにだい?」


「ど、どこにって……」


「闇の帝王軍が本気になって攻め寄せてきたんだ。はっきり言ってここら辺一帯に逃げ場はないだろうね……」


 リュートは持っていたグラスを周囲に指し示す。


「だ、だからといって……」


「君もどうだい?」


「け、結構です!」


「そうか」


「そうですよ! 本当に避難しないと……!」


「そういうわけにもいかない」


「な、何故⁉」


「俺にはやるべきことがあるからね……」


「や、やるべきこと?」


 イオナが首を傾げる。


「ああ、スカウトマンとしての大事な仕事だ」


「ス、スカウトマンとしての⁉」


「そうだ」


「ここでお酒を飲むことがですか?」


「酒はおまけさ、見届けないといけない」


「見届ける?」


 イオナが首を捻る。


「来たぞ……」


 リュートが視線を向ける。その先にはゴブリンの集団がいる。


「ひゃっひゃっひゃっ!」


 ゴブリンたちが笑い声を上げながら迫ってくる。足がかなり速い。イオナが驚く。


「みょ、妙に動きのいいゴブリンたちですね⁉」


「闇の帝王の軍勢に属しているんだ……いわゆる精鋭部隊みたいなもんだろう」


「マ、マズいのでは……⁉」


「まあ、見ていな……」


「ええ? あっ⁉」


 小太りの勇者たちが現れる。


「さて、お手並み拝見と行こうか……」


 リュートがグラスに口をつける。


「ふん、ゴブリンどもが! 調子に乗るなよ!」


 小太りの勇者が叫ぶ。


「ああん?」


「なんだあ? お前は……?」


「俺は勇者だ!」


「……」


 ゴブリンたちが黙り込む。小太りの勇者が首を傾げる。


「な、なんだ?」


「……あひゃっひゃっひゃっ! 勇者だってよ!」


「あんなの初めて見たぜ!」


 ゴブリンたちが笑い出す。


「な、舐めやがって!」


 小太りの勇者が剣を抜いて斬りかかる。


「おっと!」


「ぶっ⁉」


 勇者の攻撃はあっさりとかわされてしまい、小太りの勇者は転んでしまう。


「まずはお前を血祭りに……」


「ひっ……!」


「坊ちゃま!」


「!」


 シャルがそこに斬りかかり、何匹かのゴブリンをあっさりと切り捨てる。


「こ、このガキ! け、結構やりやがるぞ⁉」


「ふん……!」


「うわっ⁉」


 そこに炎が吐き出され、シャルは慌ててそれをかわす。


「ふん、かわしやがったか……」


「あ、あれは……⁉」


「『フレイムゴブリン』だな……闇の帝王の配下の『四天王』の一角だ……」


 驚くイオナに対し、リュートが説明する。


「ほ、炎を吐くゴブリンなんて⁉」


「極めてレアだな……だからこその四天王なんだろう……」


「シャ、シャル君が危ないですよ⁉」


「勇者の心配もしてやれよ……」


「ぼ、坊ちゃま!」


 シャルが小太りの勇者を守るように構える。


「はん、二人まとめて丸焦げにしてやるよ……!」


 フレイムゴブリンが口を大きく開く。


「はっ!」


「! ま、眩しっ……!」


 戦場に眩い光が放たれる。ユキが声を上げる。


「レプさん!」


「ああっ!」


「ごはっ⁉」


 フレイムゴブリンの懐に入ったレプが水晶玉で、フレイムゴブリンの腹部を強烈に殴りつける。フレイムゴブリンが思わず体を屈ませる。


「はあっ!」


「ぶはっ⁉」


 フレイムゴブリンの下がった顎をレプが鋭いアッパーカットをかます。フレイムゴブリンが仰向けに派手に転ぶ。ゴブリンたちがそこに群がる。


「お、お頭!」


「だ、大丈夫ですか⁉」


「ちっ、や、やってくれるじゃねえか……」


「ゴブリンらしく群れてくれたね……オッカちゃん! 遠慮なくお願い~」


「ウオオオオッ!」


「⁉」


 ドラゴンと化したオッカの吐き出した火炎に包まれて、フレイムゴブリンやその周囲にいたゴブリンたちは一瞬で灰と化した。


「ユキさんの光明魔法で相手の視界を奪い、そこをレプさんが強襲、固まったところにオッカちゃんの火炎放射……良い連携攻撃だな……」


 リュートが満足気に頷く。

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