第9話(1)意識改革

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「ど、どうするんですか?」


 イオナが勇者パーティーの宿泊するホテルの廊下を歩くリュートに問いかける。


「聞いていただろう? アフターケアをするんだよ」


「ア、アフターケア?」


「ああ、そうだ」


「それはどういうことですか?」


「言葉通りの意味だが……」


「い、意味はなんとなく分かりますが……」


「君も見てればいい。ある意味……」


 リュートが立ち止まってイオナに視線を向ける。


「ある意味?」


「これもスカウトマンの大事な仕事だ」


「ええ?」


 イオナが目を丸くする。リュートが顎をさすりながら呟く。


「さて……やはりまずは彼女かな……イオナくん、俺は下のロビーで待っているから、彼女を呼んできてくれないか」


 リュートはイオナに指示する。


「……お待たせしました」


 ベルガがリュートの向かいの席に座る。


「ああ、お疲れのところ申し訳ありません。何か飲みますか?」


「いえ……それよりもなんでしょうか?」


 ベルガが問う。


「ちょっと反省点を洗い出そうかと思いまして……」


 リュートが肩をすくめて話しを切り出す。ベルガが頷く。


「ああ、そういうことですか……」


「そういうことです」


「……率直に申し上げても?」


「どうぞ」


 リュートが促す。ベルガが眼鏡をクイっと上げて言う。


「今回のクエスト失敗は、勇者さまの圧倒的なまでの求心力不足です」


「ふむ……それについては同意見です」


「クエスト開始の初期段階から、低レベルのモンスター相手にも取り乱し、味方には怒鳴り散らし、挙句の果てには自分は後方に下がって戦う素振りすら見せず、お前らなんとかしろという始末……」


「ほう……」


「その代わり逃走するときは、先頭を切っていましたけどね」


 ベルガが皮肉な笑みを浮かべる。リュートが腕を組む。


「う~ん……」


「ただ……」


「ただ?」


「私たちにも問題点はあります」


「問題点?」


「勇者さまも初めての戦闘だったのです。パニックに陥るのも無理はない……」


「ああ……」


「その点を考慮して、戦闘面のリーダーを事前に決めておくべきでした……皆がそれぞれ勝手な行動を取ってしまい、連携が上手く機能しませんでした。特に魔法を扱える、ユキさん、カグラさん、マイさん。彼女らへの指導をもう少し徹底しておくべきでしたが、コミュニケーションが十分ではありませんでした……若者の……異世界の方の考えていることはよく分からないというのは言い訳にしかなりませんが……」


 ベルガが俯く。


「……貴女も十分にお若いですよ。ここでは無理に先生として振る舞う必要はありません」


「!」


 ベルガが顔を上げる。


「変に壁を作らないでフランクな態度で接してみてください。そう、先生ではなく、先輩としてくらいの気分で」


「先輩として……」


「あの三人も緊張しているのです。ほどよくリラックスさせてあげれば、力も発揮出来るでしょうし、魔法使いとして自然に貴女のことを尊敬するようになるはず……指導ではなく、共に高め合うような意識を持っておけば良いのではないでしょうか。それは三人に限らず、他のメンバーに対しても同じことが言えるかと思います」


「なるほど……まずは私自身の意識を改革することですか……やってみます」


「頼もしいです」


 ベルガの答えにリュートは満足気に頷く。


「……ふん! ……ふん!」


「精が出るね」


 リュートがホテルの中庭で一心不乱に模造剣を振るアーヴに声をかける。


「あ! ど、どうも……」


 アーヴが会釈する。


「今日くらいゆっくりと休んだら良いのに」


「いいえ、今日だからこそ休んではなりません」


「そうかい?」


「そうです」


「何故?」


「自分がもっと強ければ、後れをとるようなことはありませんでしたから……」


 アーヴが悔しそうに唇を噛む。


「その心意気は大変結構なんだが……」


「?」


 中庭に降りてきたリュートがもう一本の模造剣を手に取る。


「どれ、少し相手をさせてもらおうか……」


「ええ?」


「遠慮は要らないぞ、多少の心得はある」


「し、しかし……」


 アーヴは困惑する。リュートの構えがあまりにもデタラメだからだ。


「来ないのなら、こちらから行くぞ!」


「‼」


 リュートがアーヴに斬りかかる。


「そらっ! そらっ!」


「くっ! くっ!」


 デタラメな構えから繰り出されるリュートの鋭い攻撃にアーヴは面食らう。


「どうした⁉ 騎士団の実力はこんなものか⁉」


「い、言わせておけば!」


「おっと!」


 アーヴが剣を振ると、リュートの剣が弾き飛ばされ、その首元に剣先が突きつけられる。


「あ……」


「いや、見事なカウンターだ。さすがだね……」


「いえ……」


 アーヴは剣を下げる。リュートが告げる。


「君はもっと自信を持つべきだね」


「え……?」


「魔法を自在に扱える者も希少だが、剣を巧みに扱える者も同等の価値がある……君は自信を持って良い。いや、持つべきだ。騎士や剣士がパーティーの中心を担うことは多い。このパーティーにおいても例外ではない。よって、君の自信が周囲に伝播する。そのことをよくよく心に留めておいてくれ」


「で、でも、自分より強い人は沢山いました。騎士団にも……」


「騎士団には並みの人間なら入れないよ。誇り高き騎士団だからね。そうだろう?」


「誇り……そうですね。頑張ります!」


 アーヴは自らの左胸に手を添えて力強く頷く。

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