第4話(2)馬車にて
「……」
リュートが頬杖をつきながら、馬車の車窓から外を眺める。
「あ、あの……」
イオナが口を開く。
「……なんだ?」
「ここら辺には大きな町はないと思うのですが……」
「町どころか村もないな」
リュートが笑みを浮かべる。
「ええ?」
「集落がいくつかあるかな……」
「しゅ、集落?」
「ああ、村と呼ぶには規模がやや小さいからな」
「な、何故、こんなところに?」
「なんでそんなことを聞く?」
リュートが問い返す。
「い、いや、だって……」
「だって?」
「人材がいるとは思えないからです」
「どうしてそう思う?」
「じ、人口が少ないでしょう」
「それで?」
「人口が少ないイコール、母数が少ないということです」
「ふむ……」
「それでは望むべき人材に巡り合えるとはとても思えません」
「まあ、確率は低いな……」
「低いじゃなくて、限りなくゼロに近いですよ」
「随分な言い草だな」
リュートが苦笑する。
「でも、そうでしょう? それに加えて……」
「加えて?」
「若者が少ないはずです」
「ああ、近隣の町村に出稼ぎに行ったり、そのままそこに居着くのがほとんどだからな……」
リュートは首をすくめる。
「で、では……」
「君の見立て通り、これから向かう集落群は過疎化・高齢化の一途を辿っているよ。どこの地域も抱えている問題だな……」
「ど、どうしてそんなところに?」
「どうしてだと思う?」
リュートが再び問い返す。
「で、伝説の大魔法使いがいるとか!」
「違う」
「そ、即答⁉ 違うんですか?」
「そんな奴がいたら噂になるだろう」
「た、確かに……」
「仮にいたとしても……」
「いたとしても?」
「足腰が弱っているのがオチだ。そんな奴をメンバーに引き入れても意味が無い」
「む、むう……」
「他にないかい?」
「れ、歴戦の剣豪がいるとか!」
「全然違う」
「ま、また即答⁉」
「全然違う」
「お、同じこと言わなくても良いんですよ!」
「だからそんな奴がいたら嫌でも噂になるだろう」
「そ、それはそうですが……」
「大体いたとしても……」
「い、いたとしても?」
「剣をまともに振れなくなっているか、腹がぽっこりとだらしなく出ているはずだ。とても冒険の旅には連れてはいけないだろうな」
「は、はあ……」
イオナがリュートを見つめる。
「……なんだ?」
「随分と具体的ですね……」
「……気のせいだ」
リュートが顔を背ける。
「はは~ん♪」
イオナが笑みを浮かべる。
「……なんだ、その笑みは」
「ひょっとしてなんですが……リュートさん、昔、その手の噂をまんまと信じて、痛い目見たことあるんじゃないですか?」
「……ノーコメントだ」
「あ~図星だ~」
「そんなことはいいから、予想を続けろよ」
「う~ん、幻の殺し屋がいるとか?」
「違う!」
「ま、またまた即答⁉」
「……違う!」
リュートがイオナに顔を近づけて言う。
「か、顔が近いですよ! 強調しなくても良いですから!」
「そもそもなんだ、幻の殺し屋って……」
リュートが席に座り直し、ため息交じりで呟く。
「いやあ、そういうミステリアスな存在かなっと……」
「殺し屋なんかをパーティーメンバーに入れるなんて、よっぽどの物好きだろう」
「そ、それはそうですね……」
「はあ……」
「ろ、露骨なため息! な、なにかヒントを下さいよ!」
「……それだ」
「え?」
「君がわざわざ持ってきたそれだ」
リュートがイオナの鞄からはみ出している新聞を指差す。
「ああ、これですか? 駄目ですよ、カフェに置いてっちゃあ……」
イオナが新聞を取り出す。
「それがヒントだ」
「ええ、これが?」
「そうだ」
「ええ、でも……一面にはドラゴン討伐の記事がデカデカと書いてありますが……」
「この地域のことじゃないだろう」
「そうですよね……経済の動向ですか?」
イオナが新聞をめくって尋ねる。
「それも大事だが、こういう田舎には直接的には関係のないことだ」
「そうですよね……猫ちゃんが一杯子供を産んだって」
「そんなほのぼのニュースはどうでもいい……」
「これも違うんですか?」
「違う。大体だな、ドラゴン討伐とか誰の目にも付く記事に注目してもしょうがない……」
「は、はあ……」
「三面記事に注目して、初めて他に差が付けられる……着いたようだぞ」
馬車が止まり、リュートたちが降りる。
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