第4話(1)カフェテリアにて

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「……悪すぎませんか?」


 ある町のカフェテリアの店外に設置された席で、イオナがテーブルを挟んで向かい合って座るリュートに対して問いかける。


「何が?」


 新聞紙を眺めていたリュートが顔だけのぞかせて問い返す。


「何がって……」


「コーヒーの味は悪くないと思うぞ」


 リュートはテーブルに置いたコーヒーカップを軽く弾く。


「いや、そうじゃなくて……」


「天気も崩れる気配は無いが……」


 リュートは空を仰ぎ見る。


「いや、そうでもなくて……」


 イオナがリュートをじっと見つめる。


「ひょっとして俺のことか?」


「まあ、そうです……」


「顔はまあまあだと思うが……」


 リュートは顎をさする。


「そうではなくて……」


「スタイルも気を付けているぞ」


 リュートはお腹の辺りをさする。


「いや、だからそうではなくて……」


「ああ、視力は確かに良くないな」


 リュートは眼鏡の縁を触る。


「いやいや、そうでもなくて……」


「じゃあなんだって言うんだ?」


 リュートが首を傾げる。


「……自覚が無いんですね」


 イオナが呆れたような視線を向ける。


「だからなんだよ」


「リュートさんの性格が悪いなっていう話です」


「なんだ、そんなことか……」


 リュートは再び新聞紙に視線を向ける。


「そんなことって……怒らないんですか?」


「それって君が抱いた感想だろう?」


「はあ……」


「それをどうこう言ってもしょうがないからな」


「ええ……」


「大体だな……」


「はい」


「君からの評価や感想なんて心底どうでも良い」


「なっ⁉」


 イオナが唖然とする。


「君にどう思われようと関係ないってことだ。むしろ……」


「む、むしろ……?」


「それで君から愛想を尽かされた方が、かえって都合が良いってもんだ」


「そ、そんな……」


「やっぱり一人で行動する方が、俺の性には合っているからな」


「むむむ……」


 イオナが自らの両膝をがっしりと掴む。


「なんだ、立ち去らないのか?」


 リュートが首を傾げる。


「去りませんよ。どうしてそうなるんですか」


「なんとなくそういう流れだったからな」


「どういう流れですか。とにかくまだお供させてもらいますからね」


「え~」


 リュートが嫌そうな顔をする。


「そんな顔しなくても良いじゃないですか」


「そんな顔にもなるさ」


「リュートさんの人柄や性格はともかくとして……」


「ともかくってなんだよ」


「……限りなく最悪に近いってことです」


「酷い言われようだな」


 リュートは思わず苦笑する。


「だって聞くから……」


「そんな最悪に近い男についてくるのかい?」


「ええ」


「理解出来ないな」


「何故ならば……」


「何故ならば?」


「その仕事ぶりは勉強になるからです」


「そんなに勉強になるかい?」


 リュートが首を捻る。


「ええ、それはもう」


 イオナが頷く。


「どういうところが?」


「そうですね……常識に囚われてないところでしょうか?」


「はっ、常識ね……」


 リュートがイオナの言葉を鼻で笑う。


「なにがおかしいんですか?」


 イオナがムッとしながら尋ねる。


「勇者と冒険に出るパーティーメンバーを集めているんだぜ?」


「それは分かっています」


「いいや、分かっていないね」


「え?」


「君は冒険というものが常識の範囲内で収まると思っているのかい?」


「! そ、それは……」


「常識外れの連中を集めないといけないんだよ。その為には、常識に囚われない方法や手段を講じなければならない。もっとも常識なんて人それぞれだがね、まあ、それはいい……」


「ふむ……」


「ちなみに性格が悪いと思った一因はこの間の大賢者殿への仕打ちかい?」


「……まあ、そうです」


「ファインさんを引き抜く代わりに、薬師の仕事を手伝うアシスタントは手配したよ」


「本当ですか?」


「ああ、よく気がつく……“中年男性”をね」


「……やっぱり性格悪いじゃないですか」


「ふふっ……ん?」


 リュートは新聞のある記事に目を留める。


「どうかしましたか?」


「読み通りだ……」


「はい?」


「そろそろ行くぞ」


 リュートは新聞をテーブルに置いて、立ち上がる。


「え、え?」


「なんだ? 置いていくぞ?」


 リュートは手早く会計を済ませ、店を後にする。


「ちょ、ちょっと待って下さい!」


 イオナが慌てて追いかける。

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