帰宅3
シャワー室は入口の近くにある。入口から5番目の扉がシャワー室だ。シャワー室のドアを開けて中に入り木の蔓(ルナリー作)のカゴに服をポイッと投げ入れた。
「これ、そろそろやばいよなぁ。」
所々破れているなけなしのカーテンはもはやカーテンと言っていいのか分からないくらい破れていた。
今気にしても意味が無いからと、カーテンをしめてシャワーのハンドルを捻る。固定されたシャワーヘッドからは温かいお湯が出た。
「ふぅ、暖かい…」
生き返るようだ。特に今日みたいな砂漠が舞台の戦場であれば尚更である。
シャンプーやリンスなどそんな高級品はないので石鹸で代用する。石鹸だけでは髪がダメになるがリンスの代わりにレモン汁を髪に塗ればOKだ。
「なんでも使えるレモンは最強だね。うんうん。」
レモンはたまにマスターが連れていってくれる市場で買い込んでおいたものを使っている。柑橘系の果物は美味しいし使い道も沢山あるから買っておいて損はないのだ。
石鹸を全て洗い流し終えたあとハンドルを逆方向に捻りシャワーを止める。そして予めタオル掛けにかかっていた大きめのタオルを手に取り身体を拭く。誰かが叩いたのかヒビが入っている大きな鏡には身体を拭いている自分が写っている。それは当然としてやはり一番目に入るのは腰の辺りにある大きめの縫い跡だ。もう何年も前に縫われたこの跡は今でも私の身体に残っている。
「……まぁこれが爆弾だ、なんて皆に言えるわけないんだけどね。」
そう、爆弾だ。ちなみに今でも遠隔のボタンを押せば起動する。これが私が前線にでてはいけない理由に関わってくるのだけれども。
『お前は俺を、このグループを逆らうことを許さねぇ。それはお前が俺にとって必要な人間だからだ。いくら他の
ちょうど9年前に言われたな、そういえば。10歳の誕生日の時だ。あぁ、そうだ。その日はマスターに爆弾を埋め込まれた日でもあるな。
痛々しく残るソレを右手でそっと撫でるとゴツゴツとしたなにか角張ったものが手にあたる。嫌でもソレが入っているとわかってしまうのがまた嫌なのだ。
「……マスターに従っていればいい、それだけでみんなが救われるのなら、」
マスターのために私は命をかけるのだ。マスターの……ため……に。
「嘘吐き。」
本当は自分の明日のために。自分がーーーために。無駄に理由付けをしているだけに過ぎないというのに。ただ生きていたいからあの子たちを利用して、いる?マスターの言うことを聞いていれば私は、私だけは生きていられるから?
「……ははっ。やっぱり、私はあの子たちが思うような理想の人間なんかじゃないよ。」
所詮はそこら辺にいる人間と同じなのだ。自分が可愛くてしようがない。ただの……
「醜い。醜いなぁ……」
せめて、ガワだけは綺麗のままでいさせてほしい。私がくたばるその時までは。
「…はぁやっぱり、自分のことなのに未だに自分がわかんないや……」
鏡に手をついて鏡に映る自分をみつめる。鏡の中には同じポーズをした醜い私の姿が映っている。
気持ち悪い。自分の心の中がなんにもわからない。ぐちゃぐちゃなのにそれでもお姉ちゃんと言われ続けるのはなぜか騙しているような気分になる。
「はぁ、まぁいいや、早くでよ。次の人が待ってるだろうし。えっと、次の風呂は……クラウスか。この時間なら外の見回りかな。次の見回りはアレンとエレナか。あの2人、仲悪いから心配だな。」
下着だけは綺麗に畳まれている下着入れ(これもルナリー作)から適当に選んで取り履く。砂で汚れているからあまり今日着た服はきたくないのたがまぁそんなことも言っていられないのでそのまんま服を着た。あまり関係ないが私は下から履いていく派だ。パンツ→ズボン→下着?→薄い服→ジャケット?みたいな感じである。
そんな今はちょうど下着(上)のボタンを止めているところだ。
そう服を着ている最中である。それにも関わらず、いや扉に入浴中という札があるのにも関わらず!無礼にも部屋の中に入ってくるものアリと。
扉の外からは全力疾走で廊下を走っているであろう音が聞こえる。大きな足音だ。不思議なくらい、ね。
ダンッッッッッ!という音がして脱衣所の扉が勢いよく開かれる。そして。
「姉さん!!!!!」
怒りかなにかの影響で拳が強く握られている。間違いなくあの要件であろう。
「…どうしたの、アレン。」
「エレナが!エレナがほんっっっとにムカつくんだけど?!そもそもコイツとは相性?が合わな…」
「はぁっ?!アレンのほうこそ!アンタムカつくんだけど?!姉ちゃん!こんなやつに騙されないでよね!大体さ、アレンは姉ちゃんに頼り過ぎってわけでアタシの方がアレンより大事な要件を…」
「う、うん。とりあえず…2人とも落ち着こっか。…ま、予想はしてたけどこれまた随分と、」
タイミングの悪いことだ。まさか2人とも来るなんて。ん、?ということは今誰が見回りして…る、んだ?
「一応…聞くんだけど、2人が今の時間帯の見回りでしょ?でもここにいるってことは誰が見回りしてるの?」
沈黙がはしる。エレナとアレンは互いにグチグチというのをやめて顔を見合せさぁっと血の気を引かせた。
「………」
うん。誰もいないのね!?うん!やばいね!
「えっと、そうだなぁ、うーんと、えーっと、べ、ベンッ!!!来てっ!大変なことになったから!」
今頃マイ銃の手入れをメインルームでしているであろうベンを大声で呼ぶ。
「ど…した…?!レイ!大変なことって?!」
ずささささぁというサウンドエフェクトが聞こえそうなくらいのスライディングできてくれたこちら身長182センチのベン。
「あ、うん、えっとね。今こういう状況で…かくかくしかじかでね、見回りをお願いしたいの!」
「お前の言うことなら喜んで!あ、あとえと、俺は…俺は何も見てないからな!」
捨て台詞のように吐き捨ててベンは爆速でそこを立ち去って行った。ん?と思ったがとりあえず2人を落ち着けることにした。…と、そこに私を呼びに来たであろうシュンが通りかかった。
「…おいレイ。時間だけど…ってなにそのカッコ。露出狂?新たなる癖でも発見したのかよ。」
何を言っているんだコイツはと少し思ってしまったが、すぐにそれを理解することになる。
「…って聞いてる?!姉さんって、あっ!え、ちょ、あの、?!」
「…ほんとだ。姉ちゃん。上上。服着ないの?」
エレナに言われてようやく気づいた。そういえば今服着てる最中だった、ということを。
「あ、あー、忘れてた。ごめんね。見苦しいものをお見せした。」
「いやまぁ俺はもう少しあったほうが好きだけど。」
「うーわシュンキッッモッ。あたしはそのままの姉ちゃんが好きだから!」
「はぁ?キモイって言われても普通だろ。な、アレン。」
「…いやうーん。俺もエレナと同意見ってことで。」
「初めてコイツと意見があったかも。なんか、なんかやだ。」
本人がいる前でそんな話しないでほしいんだけどなーとか思いつつも服を着た。
「よし、と。じゃあ2人ともいこうか。話を聞かせてもらうよ。」
これ以上シャワー室を占拠しておくとクラウスから何か言われるかもしれないので2人+1を連れて自室にむかった。
その頃のベンはというと…
(レイに頼まれた!頼まれた!っしゃあぁぁ!)
と、歓喜を心の中であげつつ真顔で巡回をしていたのであった。
ーーーーーーー
書きだめ投下の日。ここ書くのに苦労しました。話というかなんか、うん。シュンが怜とレイを使い分けているのには理由があってそれは普段は日本語では無い言語で話しているためです。ふたりでいる時は日本語を使っているので漢字になってます。
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