第99話 暴走

 * * *



 リバルト王国とノギア帝国の国境付近にある城塞都市、ラムテン。


 ユーライたちが到着したとき、町は異様な雰囲気に包まれていた。


 一体何が起きたのか、魔物が町中を徘徊し、無数の死体が転がっている。さらに、中央部にある城の庭から、異様な闇の魔力を感じた。


 

「……これ、何が起きたんだ?」



 ユーライは町を囲む外壁の上で呆然とする。クレア、リピア、ギルカ、ディーナも、異様な町の光景に絶句。フィーアだけはどこか愉快そうに微笑んでいる。



「町が魔物に襲われて壊滅! という単純な話でもなさそうですけど、大変なことが起きたようです! わたくし、なんだかわくわくしてきました!」


「……フィーア。ちょっと黙ってて。えっと……何が起きたのかわからないけど、リフィリスはどこ? もしかして、あの黒い気配がリフィリス?」



 ユーライに似通った禍々しい魔力。とても勇者が発するものとは思えない。しかし、その奥底にリフィリスらしい聖の魔力も残しているように感じられた。


 ユーライとしては、一番の関心はリフィリスのこと。ただ、リピアは町に生き残りがいないか気になり、ユーライに調査を依頼。ユーライは少し調べてみたが、残念ながら生き残りは見つけられなかった。人間の捜索に関して高い能力を持つ魔物もいるようだ。



「ごめん、リピア。町の人のためにできることはない。リフィリスの方へ急ぐよ」


「わかった……」



 ユーライは町の中に巨人系の悪鬼を召喚し、すぐに城の側まで移動。


 そして、リフィリスを見つけた。


 リフィリスは真っ黒な気配を漂わせながら、一人で力なく座り込んで泣きじゃくっていた。



「リフィリス!」



 ユーライが声をかけると、リフィリスが顔を上げる。



「ユーライ……。来ちゃ、ダメ……」


「リフィリス……?」



 リフィリスが立ち上がる。次の瞬間、ユーライの目の前に移動していた。


 ユーライが反応する前に、リフィリスの拳がユーライの心臓部に突き刺さっていた。



「リフィ、リス……?」


「ごめんなさい」



 ユーライの体が急激に熱を持つ。聖属性の魔力で焼かれているのだ。



「リフィリス!」



 ユーライはリフィリスの腕を掴み、吸収を発動。魔力を吸い上げていく。



(なんだこの魔力量……。私ほどじゃないにしても、数十万はあるんじゃないのか……? それに、聖と闇、両方の性質がある。リフィリス、一体何をされた……?」



 魔力量が多く、聖属性も混じっているため、すぐには魔力を吸い切れない。


 ユーライは傀儡魔法も使い、リフィリスの動きを止めようとする。しかし、それは弾かれてしまった。


 ユーライの体に火がつく。聖なる炎は、ユーライの体を激しく蝕む。



「魔王様に触れるな」



 地面から土の棘が生じて、リフィリスの体を遠くへ吹き飛ばす。リフィリスの体がどうなっても知らないという勢いで攻撃できるのは、やはりフィーアだ。


 フィーアはさらに、リフィリスを土で覆っていく。そして、圧縮してリフィリスを押しつぶそうとする。



「フィーア! リフィリスを殺すな!」


「あれは魔王様の敵です。魔王様の敵は殺します」


「フィーア!」


「……安心してください。あれは、ちょっと見ない間にとんでない化け物に変貌したようです。わたくしの力でも、ぎりぎり拘束しておくのが精一杯です」



 分厚い土の塊が、今にも弾けそうな状態で蠢いている。以前のリフィリスだったなら、既に潰れて死んでいただろう。



「ユーライ! 火が!」



 リピアが水魔法でユーライの体にまとわりつく炎を消そうと試みる。しかし、水では消えない性質のようで、火は燃え続ける。



「……大丈夫。リフィリスが離れれば、私の力で消せるよ」



 吸収魔法で魔力を吸い尽くせば、炎はすぐに消えた。ただ、胸には穴が空いているし、焼かれた跡も残っている。


 リピアが回復魔法でユーライの傷を治してくれる。即座の完治はしないが、痛みは引いていく。


 ユーライたちの前に、クレアとギルカが立つ。



「……ユーライ。あの子はユーライの敵になってしまったみたい。殺すしかないのかもしれない」


「……自分の意志で戦ってる様子じゃありませんが、自身をコントロールできないんじゃ、しかるべき措置が必要です」



 二人は剣を抜き、構える。



「待って……。リフィリスは殺したくない……。リフィリスの意志じゃないなら、私がどうにかする……」



 精神操作や認識阻害を使えば、まだ可能性はある。


 ただ、リフィリスがあそこまでの魔力を持ってしまったのでは、ユーライの魔法でも弾かれてしまうかもしれない。


 殺す、あるいは、距離を取るしかないのかもしれない。



(同郷の仲間なのに……。一緒に世界を見ようって約束したのに……)



 ユーライは歯噛みする。



「……リフィリスが暴走しているのは、たぶん私が側にいるせいだ。もしかしたら、クレアとリピアがいることも良くないかもしれない。一旦離れよう。

 リフィリスが落ち着いたら、ギルカがリフィリスから話を聞いてみてほしい。フィーアは、何かあればギルカとディーナを守ってくれ」



 ユーライの頼みに、それぞれが頷く。


 そして、ユーライ、クレア、リピアが一旦離脱。どこまで離れれば良いかわからなかったので、悪鬼を使いつつ町の外まで出た。



「リフィリスも、この町も、何が起きたんだ?」



 ユーライは壁の外に降り立つ。リフィリスももう暴走しないだろうと安心していたのだが。



「ああ、もう! これだけ離れてもダメなのか!」



 ユーライたちに向けて、五体の天使が飛んでくるのを察知。


 ユーライとクレアは戦闘体勢を取る。



「どうすればリフィリスを助けられる? もう戦うしかないのか?」

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