第85話 ヒント
大天使攻略の方法に、ユーライは悩む。
「とりあえず……町を壊すか。壊したくなんてないんだけど……」
ユーライには破壊の力があるが、創造の力はない。
だからこそ、余計に町を破壊することに抵抗がある。
自分では造れないもので、たくさんの人が尽力して造り上げたものを破壊するのは、気が引けてしまう。
「……もったいないよな。なんでこんなことさせるんだよ……」
ユーライは五メートル級の悪鬼を三体召喚。この三体にも、隠蔽魔法をかけておく。
「町を破壊しろ」
悪鬼たちが動き出し、町を破壊し始める。
すると、大天使がようやく動いた。
指先が悪鬼たちに向けられて、不快な光が放たれる。それは悪鬼たちの位置を正確に掴んでいるわけではないようだったが、最終的には悪鬼たちを消滅させた。
「ちっ。あいつ、攻撃の気配には反応するのか。私が町を破壊するっていうのも止められそうだな……」
「わたくしがやりましょうか? わたくしであれば、たとえあの天使に攻撃されたとしても、しばらくは土の壁で防げます。大したダメージはありません」
ウキウキした様子で、フィーアが提案してきた。久々に破壊行為ができそうな気配に浮き足立っているようだ。
「……仕方ない。頼む。なるべく人を殺すな……なんて言ってもしょうがないな」
ユーライは、リピアにもらった指輪の力で、周囲の人間たちの状況も把握している。エマの言う通り、魂を抜かれてぐったりと横たわっているものばかり。
霊視で見ても、魂が天使の元に集まっているのがわかる。
既に死人ばかりの町で、人命に気を遣うなどあまり意味がない。
(
溜息をつくユーライに、フィーアが言う。
「魔王様。行って参ります」
「うん。頼む。まぁ、死ぬなよ」
「はい! 決して死なず、ひっさびさに暴れちゃいます!」
フィーアがユーライから距離を取り、破壊行為を始める。土の荊が建物を次々と崩していく。
大天使はフィーアにも反応して攻撃を始めるが、フィーアは土の壁でその攻撃を防ぐ。
魔物にとっては脅威である聖魔法も、普通の人間相手には威力が大きく減じる。この分なら、フィーアが儀式場である町を順調に破壊してくれることだろう。
ただ、フィーアにも体力の限界はある。早めに大天使をどうにかしなければならない。
「……ところで、ディーナはここにいても大丈夫か? 魂が吸われる感じとか、ない?」
「ボクは大丈夫。たぶん、魂を取られるかは、信心とかも関わるんだと思う。神様に全てを捧げるつもりでいる人が、今は犠牲になってるんじゃないかな……」
「なるほど。なら、ディーナとギルカは大丈夫か。けど、私の近くにいると危ないかもしれない。守りきれるかはわからないから、隠れておいてくれ。
いっそ、あっちのエマとエメラルダと一緒には行動しててもいい。あいつらも、私以外を傷つけようとはしないはずだ」
「うん……わかった」
「こんなところで死ぬなよ? お前がなんで私の監視役なのか知らないけど、死ぬために来たわけじゃないよな?」
「ボクは、まだ死にたくない」
「じゃあ、あとは自力で生き延びろ」
「わかった」
ユーライは頭を切り替え、大天使攻略に集中する。
(……しっかし、あれは本当にどうすればいいんだ? 私の魔法で効果がありそうなものなんてあるか?)
スキル:暗黒魔法 Lv.×××、闇魔法耐性、聡明、死なず、邪神との対話
称号:暗黒の魔女、魔王、神域の怪物、邪神の寵姫
暗黒魔法 Lv.×××:霊視、魂摘出、
考えてみるが、すぐに答えは浮かばない。
(人間相手には有効な魔法も、天使には効果が薄い。闇の刃でも引っかき傷程度。吸収で魔力を吸い取れば消滅するか? 流石に、今の私じゃあの魔力全部は吸いきれない。
闇の支配者は自分の力の底上げと、敵の魔法の制限。聖属性には効果が薄い。
暗黒の鐘は、無差別に人の精神を破壊して再起不能にする。危なっかしくて使い道がないんだよ……。
やっぱり闇落ちしかないのか……これも危なっかしいんだよな……)
倒す方法も、一つくらいは思い浮かぶ。
大天使の近くに行き、闇落ちを発動。吸収で魔力を吸いきるなり、
倒すことはできる。ただ、周りをどれだけ巻き込んでしまうかわからない。
(あの大天使が積極的に私を攻撃してこないのは不幸中の幸いか。たぶん、上手く制御なんてできてないんだろう。とにかくすごい天使を呼んだだけ。悪鬼召喚に似た雰囲気があるから、なんとなくわかる)
ユーライは大天使に近づきつつ、最終手段として邪神に声をかけてみる。
「おい、邪神。聞こえてるか? 聞こえてたら返事をしろ」
邪神との対話、というスキルがある。普段は使わないが、今は他に相談できる相手もいない。
『聞こえているぞ。面白いことになっているな』
「……全然面白くない。なぁ、あいつを倒す方法を教えてくれないか?」
『人にものを頼む態度ではないな?』
「……土下座でもすればいいか?」
『いいや。別にそんなものは求めておらん。面白いものを見せてくれれば十分だ』
「ああ、そ。それなら、私がここで死んじゃったら嫌だろ? 何か良い方法を教えてくれ」
『闇落ちを使えば、あの大天使でもすぐに屠れる』
「使いたくないんだよ。周りにも大きな被害を出しちゃうだろうから」
『魔王のくせに、随分とお優しいことだ』
「そうだよ。私は優しいんだ。世界の崩壊も支配も望んでない」
『ふむ。……我が全てを教えてしまうのもつまらぬ。ヒントをやろう。あの天使をお前の支配下においてしまえ』
「……は? 大天使を支配下に? どうやって?」
『それは自分で考えよ』
「相手は天使だろ? 精神操作とか、効くのか?」
『試してみれば良かろう』
「……天使に効く気がしない」
天使は普通の生物とは違う。ユーライには、それが直感的にわかっている。
精神操作で操れる相手ではない。
「……方法はわからないけど、あの大天使を支配下におくことが、私にはできるんだな?」
『可能だ。闇落ち以外で、お前の持つ全ての力を使えばな』
「私の全ての力……?」
『お前にはもう話した。わからなければ、闇落ちで片づければ良い』
「……意地の悪い邪神だ」
『親切丁寧では、邪神の名が廃る。……もう一つヒントを与えるとすれば、お前の世界で有名な悪魔を思い出すがいい。以上だ』
邪神の気配が消える。ユーライが呼びかけても、今はもう応えてはくれないだろう。
「あの天使を従えるなんて、本当にできるのか……? それに、悪魔を思い出せ……?」
大天使はフィーアを狙って攻撃している。フィーアはその攻撃を防いでいたのだが……攻撃の様子が変わった。
大天使は、周りの建物を破壊する勢いでフィーアを攻撃し始める。長引けば、フィーアも無事では済まないだろう。
「……とにかく、やるしかない。大天使を支配下において、私は平穏な生活に戻る」
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