第26話 いつもの

 朝食を終えたら、ユーライは単身で城下町へ。ギルカは相変わらず南区を拠点としており、大通りに二十人の盗賊たちが並べられていた。十人ずつの二列。全員男で、縄で拘束されている。



「なんだ、このガキ」


「魔物か?」


「魔物にしちゃ魔力もろくに感じねぇ、雑魚だろ」


「こいつがこの町のボス? ありえねぇだろ」



 盗賊たちが怪訝そうな顔でこぼす。


 ユーライはやれやれと肩をすくめ、溜息。



(隠蔽で魔力を隠しすぎるのも良くないのかな? 見た目が少女だから、威厳が足りない)



「てめぇら、うるせぇ! この方はグリモワの町を仕切ってるユーライ様だ! てめぇらが一生かかっても敵わねぇ最強の魔物だぞ! 死にてぇのか!?」



 ギルカが一発で連中を黙らせる。



(……レディースの総長みたいなこの威厳、私も身につけたいもんだわ。ただ、別に仕切ってるわけじゃないぞ? 勝手に住み着いて、なるべく快適な環境を作りたいだけで)



「……まぁ、頭ごなしに言われても不満を持つだけなのはわかる。とりあえず、私はこういう者だよ」



 ユーライは隠蔽魔法を解除。溢れる魔力がダダ漏れ状態になり、盗賊たちの表情が変わる。



「な、なんだこの威圧感……っ」


「ドラゴンでも見てるみてぇだ……っ」


「こいつは……やべぇ……っ」


「なんで今まで気づかなかったんだ……っ」



 全員、額に汗を浮かべている。



(……この世界の全員が高い魔力感知能力を持っているわけじゃない、むしろ魔力に鈍い者の方が多い、か。それでも、私の魔力は感じ取れちゃうんだな)



 盗賊たちが恐れおののいているところで、ユーライは続ける。



「私が何者かは、これでわかったな? ここで捕まったからには、私の言う通りに働いてもらう。といっても、やってもらうのは町の清掃とか管理だ。私のために命を散らせ、とか言うつもりはない。安心してくれ」



 雑用を押しつけられると知っても、盗賊たちから不満の声は上がらない。呼吸すら苦しそうだ。



「……ギルカ、これ以上のキョウイクも必要かな?」


「そうですね……。このままでも大丈夫そうではありますが、一応、軽めに一発やっておいてほしいところです。今感じてる恐怖なんて一過性のものなんで、ちゃんと深く刻んでおいた方がいいと思います」


「容赦ないなぁ……。その辺の機微は私にはわからないし、そうしておこうか」



 なんの話をしているのかわからない盗賊たちは、きょとんとしている。


 ユーライは少し可哀想だなと思いながらも、キョウイクをしておくことにする。



「……これから、あんたたちには私のために働いてもらう。もし、私の意に添わないことをしたら罰を与えるから覚悟しといて。それで、その罰の一端を、今から味わってもらうよ」



(出力調整は難しいんだけど……精神汚染、最弱レベルで)



 ユーライが魔法を発動すると、盗賊たちが恐怖に顔を歪めて泣き叫ぶ。



「おああああああああああああああああああああ!」

「やめてくれええええええええええええええええ!」

「くるなああああああああああああああああああ!」

「俺の腕があああああああああああああああああ!」

「目が、目がああああああああああああああああ!」



 なるべく弱めにしているつもりだが、元々の魔力量が膨大なため、それでもかなりの破壊力になってしまう。


 三十秒ほどで魔法を解除。


 盗賊たちは全身汗びっしょりになり、荒い呼吸を繰り返す。



「……というわけで、これからしっかり働いてくれよ? もし裏切るなら……死ぬより恐ろしいことがこの世にはたくさんあるってこと、教えてやるからな?」



 ユーライはにっこり微笑む。盗賊たちはひきつった顔でガクガクと頷いた。

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