第25話 贅沢
未来について少しだけ思いを馳せた、翌朝。
「ユーライ様。昨晩、盗賊を捕まえたんですが、どうしましょうか?」
ユーライが食堂で朝食を摂っていると、普段は城に入ってこないギルカがやってきて、そう尋ねてきた。
町に知らない奴が入ってきたらとりあえず捕まえてくれ、と指示していたので、それを遂行してくれたらしい。
なお、当初はビビりまくりだったギルカも今は落ち着き、ユーライと普通に話せるようになっている。ただ、普段城に入ってこないのは、まだギルカ以外のメンツがユーライを恐れて近づこうとしないから。ギルカ一人で城に住むつもりはないらしい。
「盗賊かぁ……。聞くだけで気分が落ち込むよ……」
盗賊が忌避される存在である理由を、ユーライは既に知っている。リピアたちを襲ったのも、結局は盗賊だった。盗賊とは、ああいうことを平気でできるのが普通なのだ。
元盗賊であるギルカを町で働かせ続けるのも良くないように感じた。ギルカも危険な存在かもしれない、と。
しかし、リピアたちの一件を話したところ、ギルカは怒り、おれたちはそこまで落ちたことはしない、と断言していた。盗賊として悪事を働いていたのは事実だが、ただ弱者をいたぶるような真似はしないそうだ。
結局、ギルカたちをそのまま町で働かせることにした。その選択は、今のところ間違っていないとユーライは思えている。
「捕まえた盗賊、何人くらい?」
「二十人。まぁ、おれ一人で片づけられる雑魚でしたが」
「ギルカは強いからなぁ……。ギルカ基準の雑魚は当てにならないよ」
ギルカの戦闘力は三万五千程で、クレアよりも高い。ただ、ギルカは魔法系のスキルを持たないので、二人を戦わせたらどちらが勝つかは不明。
クレア曰く、あたしは盗賊になど負けない、だそうだが。
「おれ基準じゃなくても、大した連中じゃありませんよ。おれの手下どもでも倒せるくらいです」
「そっか……。まぁ、労働力に追加したいかな。まだまだ清掃も管理も行き届かないし。そいつら、ちゃんと働いてくれそう?」
「おれが力で従えて無理矢理働かせることはできますが、不安は残りますね。いつ裏切るかわかりません」
「裏切らないようにするにはどうすればいいと思う?」
「隷属魔法の使い手がいればそれを使うか、おれなんかよりも圧倒的に強い力で支配するか……でしょうか」
「ふむふむ。隷属魔法の使い手なんていたっけ?」
この場にいるクレア、ラグヴェラ、ジーヴィを順に見ていくが、使える者はいなさそうだ。
「むしろ、そういう凶悪な魔法はユーライが使えるのでは?」
クレアに問われて、ユーライは首を横に振る。
「私は使えないよ。つーか、なんで、凶悪な魔法なら私が、みたいな話になるんだか」
「ユーライは自分の扱う魔法がどれだけ凶悪なのか、理解していないの?」
「……お察しはしているさ」
精神汚染をしたギルカ以外のメンツは、今でもユーライの顔を見ると体をぶるぶる震わせながら脂汗をかき始める。完全にトラウマになっているらしい。
どうも、相当に心の強い者、あるいは聖属性の加護を受けていた者でないと、一生もののトラウマになるようだ。
「ユーライ様があの魔法を使えば一発で従うようになると思いますが、どうされます?」
「んー……そうだな。それで話が済むなら、そうしようか」
「ありがとうございます。その後はおれに任せてもらえば大丈夫なんで、一発だけお願いします」
「りょうかーい。ご飯食べたら行く」
「はい。それでは、おれはこれで」
ギルカが去っていく。それを見届けてから、ユーライは食事を再開。
「このまま盗賊ばっかり集まると、盗賊の町になっちゃいそうだな」
ユーライがぼやくと、クレアが顔をしかめる。
「……あたしとしては好ましいことではない。盗賊は世界にとって害悪。町で働かせるより、片っ端から処刑したいくらいだ」
「……気持ちはわからないでもないけど、盗賊相手だからって無差別殺人は良くないよ。それは、魔物やアンデッドだからって無差別に殺そうとするのと似たようなものだよ」
「……かもしれない。ただ、今後、この近辺に盗賊は増えると思う。まともに警備する人間がいないのは事実だから、犯罪者には都合がいい土地」
「……それは困る。治安が悪いのは良くない」
「幸いというか、これから厳しい冬になるから、数ヶ月はあまり集まらないと思う。けれど、春になったら状況が変わる。対策は考えた方がいい。ここに住み続けるのなら、という話ではあるけれど」
「……まぁ、しばらくはここに住むかな。他に行く当てがあるわけでもない」
(平穏に暮らしたいだけなのに、色々と考えることがたくさんあるなぁ……。平穏に暮らすっていうのが、私が思うより贅沢なことなのかもしれないけどさ)
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