第13話 ステータス

(……クレア、大人しいなー。そういう性格ってわけじゃなく、単に私と仲良くおしゃべりする気分じゃないって雰囲気)



 軽く準備を整えて、遊雷ゆうらいはクレアと共に町を出た。それから暗闇のダンジョンの地下一階に潜ったのだが、遊雷がクレアに話しかけても「へぇ」とか「そう」とかばかり言っている。質問すれば色々と答えてはくれるものの、雑談にはあまり反応しない。


 クレアが復活したのは良いが、残念ながら打ち解けられたわけではないらしい。



(添い寝しただけじゃ仲も進展しないか。当然っちゃ当然だ。女の子と仲良くなりたくて仕方ないドゥーティー男子じゃあるまいし、じっくり行こう)



 クレアのことはさておき、暗闇のダンジョンの魔物は、遊雷にもクレアにも関心を示さなかった。遭遇しても、まるで同じ魔物仲間を見かけたかのように素通りしていく。



「ねぇ、クレア。普通なら、魔物は人間を襲うっていう認識で合ってる?」


「合ってる」


「じゃあ、私たちが襲われないのは、私もクレアも、魔物の仲間だと思われてるから?」


「だと思う」


「私たちが魔物を攻撃したら、連中は私たちを襲ってくるかな?」


「さぁ……」


「試してみていい?」


「好きにすればいい」


「わかった」



 遊雷は、たまたま見かけた黒いゴブリンに向けて苦痛付与ペインを放つ。



「ぐぎゃ!?」



 黒いゴブリンが血を吐いて倒れた。死んではいないようだが、もはや立ち上がる気力はない。



「……うーん、この魔法、やっぱり殺しはしないみたいだけど、威力が高すぎたな……」



 瀕死の状態でピクピクしているのが哀れなので、遊雷は闇の刃でその首を切り落とした。魔物は黒い霧になって消滅し、赤黒い小石が残った。



「あ、魔物って死んだら消えるんだ……」



 遊雷としては、ダンジョン内で魔物を殺すのは初めて。地球では考えられない現象を不思議に思う。



「……全ての魔物が霧になって消えるわけではない。地上の魔物は死んでも消えず、素材などを残す。

 ダンジョン内の魔物は黒い霧になって消えて、後には魔石が残る。魔石は加工すると魔法具作成などに利用できる。

 ただ、この階層で得られる魔石にはあまり価値がない」


「へぇ、そうなんだ。クレア、教えてくれてありがと」


「別に……」



 クレアの素っ気ない態度と口調に、遊雷は苦笑するばかり。



(ツンデレかな? 素っ気ないけど、実は優しい、とか?)



「ちなみにさー、クレアって自分のステータスってわかる? 戦闘力とか魔力量とか」


「わかる」


「おお、良かった。私だけ見えてるわけじゃなかった。クレアのステータス、教えてくれない?」



 クレアが、ここで少し迷うそぶりを見せる。


 ステータスは簡単に人に教えるものではないらしい、と遊雷は察する。



「……それが、命令なら」



(命令したいわけではないんだけど……クレアなりの線引きがあるのかな。他人のステータスは知っておきたいし、仕方ない)



「……じゃあ、命令ってことで」


「わかった。なら、教える」



 クレアが開示してくれたところによると。



 名前:クレア

 種族:アンデッドヒューマン

 性別:女

 年齢:18歳

 レベル:47

 戦闘力:30,200

 魔力量:35,000

 スキル:剣術 Lv.6、身体強化 Lv.5、炎魔法(闇) Lv.6、風魔法(闇) Lv.4、闇魔法 Lv.1

 称号:魔女の従者、反逆者



「なんとなく察するけど、属性魔法の後に闇ってついてるのとか、闇魔法を身につけたのとかって、アンデッド化の後?」


「そう」


「だろうね。詳細はまた後にするとして……クレアって、人間の中ではどれくらいの強さ?」


「あたしは二等級」


「……等級はいくつある?」


「一等級から七等級。一等級が一番強い」


「一等級と二等級の戦闘力の目安は?」


「二等級は戦闘力三万から十万。一等級は十万越え」


「二等級、結構幅があるんだな」


「幅があるというより、一等級が別格なだけ。十万を越えるには大きな壁を超える必要があるとされていて、一等級の人間なんて世界に二十人くらいしかいない。そして、だいたいの二等級の戦闘力は三万から五万の範囲。五万から十万は、準一等級と呼ばれることもある」


「へぇ……」



(その基準で言うと、戦闘力八万台の私は準一等級か……)



「私、戦闘力八万なんだけど、これって高い?」


「……高い。人類であなたに勝てる者はごくわずか」


「あと、魔力は九十万くらいなんだけど、これって多い?」



 クレアが目を見開く。



「……端的に言って、人類に到達できる範囲を大きく逸脱している」


「……そっか。私、戦闘力と魔力量がかなり離れてるんだけど、これって普通?」


「普通じゃない。そこまでかけ離れているのは珍しい」


「そもそも、戦闘力ってどんな基準?」


「詳しいことはわからない。ただ、攻撃における最大威力が大きく影響しているとは言われてる」


「それなら、防御力がやたら高くて、攻撃力が低い場合は、戦闘力が低めに出るってこと?」


「そう」


「なるほど……」


「……あなたの場合、攻撃の最大威力はまだギリギリ常識の範囲だけど、魔法関連の持久力が人類を大きく越えている……という具合になると思う」


「長期戦で有利?」


「そう。あるいは、一人で多数の相手をするのに適している」


「そっかー……」



(状況はなんとなくわかった。けど、まだ実感は沸かないな。実戦経験を積む必要がありそう。色々まだ訊きたいことはあるけど……)


「そういえば、私、いつの間にか遊雷とは別に名前がついてるんだけど、あれは何だろう? クレア、知ってる?」



 フィランツェル、という謎ネーム。何かしら意味があって名前がついたのだろうが、読んだ本の中に、これに関する記載はなかった。



「元々の名前以外に、ユーライには名前があるの?」


「うん。そう」



 クレアが再び目を見開く。



「魔物に個体名がつくのは……世界の敵、あるいは、神の敵となった証。魔王の称号と共に、名前が付与されると言われている」


「……なるほど」



(私は神様にロックオンされてる感じ?)



「そもそも、神様ってどういう存在? 実在するの?」


「実在は、していると思う。ただ、神と交信できるのは、特殊なスキルを持つ者だけ。あたし含め大多数はその声を聞いたことがない。

 時に地上の者たちを導いてくれるのが神様。でも、地上に現れて何かをしてくれることはない。何を考えているのか、実のところよくわからない」


「そっか……。良くわかんない奴に、私は敵認定されちゃったわけか。あーあ、面倒なことになりそうだ」



 話し合いながら歩いていると、再び黒いゴブリン三体に遭遇。


 遊雷は闇の刃で一匹をさくっと殺す。すると、ゴブリンたちは遊雷を敵と認識し、襲ってきた。


 その二体の首も闇の刃で切り落とす。


 魔石が三つ、地面に残った。



「この魔石、食べたらどうなる?」


「人間が食べるとお腹を壊す」


「魔物が食べると?」


「わからない」



(こういうの、魔物なら食べても大丈夫、ってのが定番かな?)



「食べてみるか」


「……ご自由にどうぞ」


「私が倒れたら背負って連れて帰って」


「……それが命令なら」


「ん。命令ってことで」



 遊雷は魔石を食べてみる。


 味は少し辛いのだが、不味くはないし不快でもない。


 噛み砕いて飲み下すと、体が少しだけ温まる感覚があった。



「……お腹は壊しそうにないけど、何かメリットがあるのかもわからないな。もっと強い魔物の魔石を食べれば何か変わるかも」


「そう……」


「私が大丈夫だったら、クレアも食べてみたら? 今ならたぶんいけるよ」


「……美味しいの?」


「ちょっと辛い」


「……あたしはいらないかな」


「辛いの苦手?」


「まぁ、うん」


「甘いものは好き?」


「まぁ、うん」


「そっか。じゃあ、明日にでも一緒に城下町に行って、そういうものを探してみようか」


「……それが命令なら」


「命令ってことで」


「わかった」



 引き続き、二人でダンジョン探索を続ける。


 実に緊張感がなかったが、魔物は襲ってこないので、のんびり構えることができた。


 ある程度地下一階を回ってみたのち、特に関心を抱くものはないとわかり、一旦入り口に戻る。


 そこから、転移の魔法陣に乗って、地下六階へ。


 なお、この魔法陣は、自分が行ったことのある階へ自由に行けるものであるらしい。本来、各階層のボスを倒すことで行ける階が増えるものなのだが、遊雷は地下六階生まれなので、地下二階から地下五階までは飛ばせる。


 地下六階に降りたら、二人でまたしばしダンジョン内を徘徊はいかい



(私、ここで生まれたんだよな……。そして、エレノアの遺体を見つけた……)



 遊雷が当時のことを思い出しながら歩いていると、どこかから悲鳴が聞こえてきた。

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