第39話 乙女
* * *
「あー……人が死んでいくー……」
ユーライは霊視を発動させることで、兵隊の生死を判別している。
スケルトンと魔物の軍勢が活躍してくれるのはありがたいが、続々と兵士が死んでいくのは、見ていて気分の良いものではなかった。
「なんで攻めて来るのかなぁ……。放っておいてくれれば、私は大人しくしてるのに……」
苦い思いを抱きながらも、ユーライは攻撃をやめない。死ぬのは嫌だから。
「……あ、アクウェルと三人の仲間? がスケルトンすっ飛ばして向かってきてるな。私だけを狙ってる? まぁ、スケルトンはいくら倒しても意味ないしな」
アクウェルの戦闘力はやはり高いらしい。スケルトンなど全く意に介さず突き進んでいる。
フォレストウルフもアクウェルにぶつけてみるが、これも全く意味がない。魔改造でかなり強化しているのだが、聖属性には歯が立たないようだ。
「ここまで来そう……。そのときは戦うしかないか……。クレア、頑張ろう」
「そのときには。でも、どうだろう。下には、まだギルカがいる」
隠密状態のギルカがどこにいるかは、ユーライにはわからない。ギルカのスキルレベルが高いせいか、霊視にも、第三の目にも映らない。
やがて、アクウェル一行が城門付近に近づく。
「とりあえず、私の秘密兵器出しとくか」
傀儡魔法を使い、下に待機させていたワーウルフ一体を動かす。
瞬殺された。
「うげっ、全然ダメじゃん。アクウェル、強いなぁ……」
他にも十体ほど用意はしていたのだが、ユーライは、もう無駄だと思って出すのはやめた。
「クレアの言う通り、あれはいまいちだったな」
「仕方ない。アクウェルを相手にできるほど、技の練度も高くなかった」
念のため、ペインや精神汚染も仕掛けてみるが、効果がなかった。聖女の守りなのか、本人の耐性なのかは、わからない。
「……あ、でも、アクウェルが倒れた。血も吐いてる」
アクウェルの進撃がとまり、その場に崩れ落ちる。
次の瞬間、その首が飛んだ。
アクウェルの仲間たち三人が絶叫をあげ、既に死体となったアクウェルに駆け寄る。
「……ギルカの仕業、だよな?」
「そう」
「ギルカって、もしかしてめちゃくちゃ強い?」
「あの隠密スキルはとても厄介。さらには、ギルカ自身、卓越した戦闘技術と、相手の隙を見定める優れた観察眼を持っている。ギルカをとめるのは、魔物退治ばかりしている者には不可能と言って良いくらい」
「……味方で良かった」
「本当に」
* * *
(……聖剣術の使い手、か。呆気なかったな)
ギルカは隠密状態を保ったまま、アクウェルの死体を眺める。
アクウェルの周りには、彼の普段のパーティーメンバーだろう三人の女性が集まっている。弓使い、槍使い、魔法使いの三人だ。年齢は二十歳前後。ただのパーティーメンバーではなさそうだという雰囲気も、三人の言葉からうかがえる。
「アクウェルアクウェルアクウェル! なんでどうしてこんなのおかしい嘘でしょアクウェルが死んじゃうわけないよね!?」
「ははは……こんなの嘘だ……夢だ……目が覚めたら、また元気な姿のアクウェルに会える……」
「首……首を戻せば、まだ大丈夫……大丈夫だもん……。ほら、回復魔法だよ……? アクウェル、痛みは引いてる……?」
(恋人同士だったのか、単に片想いだったのか……。まぁ、アクウェルもなかなかの色男だから、そういう関係になるのもおかしかないか。そんで、この三人も殺しちまっていいか?)
隠密スキルを駆使し、相手の隙をついて殺す。それがギルカのスタイル。
ただ、この殺し方には、
素材の堅さは無視できないため、使用にはかなりの技量が必要とされるが、ギルカはその技量を持っている。斬鉄くらいは己の技術だけでも可能だ。
(殺しちまうのは簡単だ。全く警戒してねぇ。それどころか、ここが戦場だってことも忘れてやがる。全く、乙女だねぇ、こいつらは)
ギルカは右手に持った一閃鬼を振り上げる。殺すのはたやすい。ただ、殺すには惜しい人材なのも確か。
(……ユーライ様の精神操作を使えば、こっちの手駒に変えることも難しくない。聖女の加護が強力とはいえ、ユーライ様が直接触れれば加護もぶち抜けるだろ)
ギルカは睡眠薬の粉を取り出し、混乱の極みにある三人に振りまく。
状態異常に対抗する魔法を使われていたら厄介だったが、三人ともあっさり眠ってしまった。
(……こいつらの中じゃ、まだ本番はこれからって感覚だったのかもな。狡猾な人間との戦いは、あまり経験してこなかったんだろう。あるいは、相性のいい敵とだけ戦って、いい気になってたとか、かな)
ギルカは周囲を警戒しつつ、眠っている三人を町の内部に運ぶ。
なお、城門は開けっ放しなので、入るのは容易い。侵入も容易いのだが、城門を壊されては困るので、この戦いでは開けっ放しにしておくことになっている。
首を切ったアクウェルの体は必要ないようにも思ったが、ユーライがアンデッド化の力で復活させられることも考え、一応確保しておいた。
(ユーライ様にとって一番厄介な敵は片づけた。さぁ、向こうはどう出るかな?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます