凛子 ~不倫の定義~
齋木カズアキ
出会い
恋愛経験が極めて少ない(或いはほぼない)にもかかわらず付き合う相手を高望みで選り好みし、踏み出す一歩を躊躇していた若かりし頃。
未だに独り身の現実は、その時代の自分の行動を後悔する時間を嫌と言う程与えた。
その理由は歳を(大いに)重ねたからこそ、常々思うコトがあるからだ。
十人並み、或いはそれ以上の外見を持っていると自負する(勘違いも含む)輩は、恋愛に大きな夢を抱き、誰でも相手に対して理想の顔やスタイルを強く追い求める傾向にある(ハートより見た目に走りがちということ)。
例えば思いがけず異性に「好きです、付き合ってください」と告白されても、その気がないと「他に好きな人がいるんで」とか、つれなく接する場合は「タイプじゃないんで」と簡単に断ってしまう。
確かに一理あるが別の道もあると今なら考えられる。
メスに対して処女かどうかを重要視する動物は人間以外はほぼ存在せず、野生動物のオスにとっては確実に自分の子孫を産むかどうかが大事であり、逆に経産経験のあるメスの方が人気があると聞いたことがある。
究極の理想像を処女と例えるなら、見つけ出し交際許可を勝ち得たとしてもその時点では自分の子孫を残すかどうかは未知数だ。
しかし逆に告白された場合、その時点で自分には好意を抱いているという免疫があり、余程イメージとかけ離れた現実でない限り子孫を産むかどうかには拒否されるリスクは少ないと言える。
自分の究極の理想的相手を必死に探し求めても、その後も努力義務を強いられ無理が祟り破綻するリスクが高い。そもそも究極の相手は見つけた時点が最高得点でありその後の大幅な得点の上積みは望めない可能性が大きい。
その点、もしも相手の好意を受け入れたなら、女性はもっと好かれようと努力を惜しまないだろう。交際当初はタイプではなかった相手も、内面的な美しさも醸し出すようになり、案外究極の女性になりえるかもしれない。
告白に対する「交際OK」が必ずしも全てそうなるとは限らない。しかし相手と接触してみなければ人となりは判らないのだから、それなりの時間を費やして「自分には向いてない」と判断した時点で別れを決めても遅くはないと思う。次の恋愛対象者が現れた時、その経験は良くも悪くも役立つはずだから決して無駄な時間ではないと思う。
言い方は悪いが究極、恋愛経験は『数打ちゃ当たる』ということだとこの年齢になって悟った次第である。
音無凛子はボクの妹頼子の高校生時代からの親友。彼女の実家は近所ではなかったが同じ市内の住人で、何度か自宅を訪れていた。彼女とはその頃から面識があるが面と向かって話した記憶はない。妹の部屋に向かう際に挨拶をした程度だ。
現在の彼女はもちろん既婚者(旧姓は青柳)。20代始め、妹とつるんでウチの近所にあったスナックでアルバイトをしていた際に現在の夫と出会い、一年後そのままゴールインした。二人の子供の母親でもある。
ボクはその当時妹からある事実を聞かされていた。
『凛子はお兄ちゃんが好きなんだって』
凛子の容姿は際立って美しいとは言えないが毛嫌いする程醜悪でもない。いわゆる『タイプではなかった』ので、交際することはやんわりと断った。
話は長くなったが、ようするに「お兄ちゃん、凛子と付き合う?」と妹に迫られた時に前述の考えに至っていれば、彼女と結ばれるかどうかは別にしても現在とは全く違う人生がボクの前に広がっていたのかもしれない。
ということだ。
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