第166話 骨折り損ねた音

 グリムの思考が回り回る。

 床に一切の足跡を残さずにどうやって扉を開けたのか。

 否、そんなことが可能なのか。もちろんできるはずだが、ここはもっと簡単に行く。


 現実で考えすぎている。

 ここはファンタジーゲームの世界。

 そう難しく考えなくても、物事は上手く回る。


「そうか。シルキーが何故死んだのかじゃなくて、どうして死んだのか考えるべきだった。仮に物理的な手段だった場合、シルキーはなんらかの外傷で覚えている筈。ってことは、それが無いとすれば……シルキー、今いるよね?」


—・・・ ・—


「そっか、いるんだね。D、こっくりさんの紙とコインを持ってて」

「わ、分かりました!」


 Dにこっくりさんの紙とコインを持って貰った。

 これで少なくとも、まともな会話になる。

 グリムは口を開くと、シルキーに訊ねた。


「シルキー、シルキーは殴られたとかして死んだの?」

『え?』

「それだけ思いだして欲しいんだよ。書斎で意識を失う直前、なにかあった?」

『え……あ・り・ま・せ・ん。た・ふ・ん・で・す・け・と……あ・の・そ・れ・か・な・に・か?』

「ってことは痛みは無いってことだね。もしくは痛みがより深かったかだけど……でもこれで予想は立った」

「「予想が立った?」」


 グリムはある程度の推察から予想が立った。

 もしかして、いや、もしかしなくても、ここはファンタジーだ。

 物理的な手段を用いていない。もしくは化学薬品も使っていない。

 とすると難しいが、この屋敷の中にはシルキーの他にもいることになる。


「グリムさん、予想って言うのは?」

「それはね……」


 グリムはある種の推察から答えようとする。

 すると地下室の奥の方。

 そこからコロンと不気味な音が聞こえた。


「えっ、今のなに?」

「なにか来たね。シルキー、見える?」

『あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ』


 シルキーのコインが動いていない。

 震えて動かすことができていないのだ。

 グリム達は嫌な予感がする。ゴクリと喉を鳴らすと、グリムはソッとフェスタとDの腕を引いた。


「二人共隠れるよ」

「「隠れる?」」

「一度様子を見る。向こうに隠れようか」


 グリムは困惑するフェスタとDを引き寄せた。

 まずは様子見のため、近くの部屋に隠れようとする。

 扉を開けようとドアノブに触れると、鍵は一切掛かっていないので簡単に開いた。

 軋む音を立てると、カビ臭さを立ち込めさせ、グリム達の鼻を劈いた。


「うっ、臭うねー」

「は、はい。ハンカチを巻いてなかったら、大変でした」

「二人共少し静かにして。なにか来るよ」


 グリムはフェスタとDに黙って貰った。

 息を飲み、一体なんの音が聞こえたのか。

 目を凝らして見守ると、グリムは眉根を寄せ、【観察眼】と【看破】を併用使用する。


「私の予想が正しければ……」

「なにが見えるのー?」

「フェスタさん、静かにしましょう。グリムさんが頑張ってくれ……うっ!?」


 Dの顔色が急に青ざめた。

 如何やら【気配察知】が発動したらしい。

 しかも嫌な気配だったせいか、気分が崩れ、体調が悪くなる。


「D?」

「今のは一体……何だか嫌な気配です」

「そうだね。確かに嫌なものが近付いている気がする」


 その証拠に、シルキーが動かすコインがプルプル震えていた。

 恐怖心の方が勝ってしまい、精神が粉々になりそう。

 今にもコインが紙から落ちてしまいそうで、グリムは優しく手を置いた。


「大丈夫だよ、シルキー」

「そうだよ。なんとかなるさー」

「フェスタさん、根拠の無い自身はシルキーさんや私には向かないと思いますよ」

「そう? それじゃあシルキーを怖がらせる相手をぶっ潰す。で、どうかな?」

「「怖いよ、フェスタ」怖いですよ、フェスタさん」


 グリムもDもフェスタのポジティブなシンキングを否定はしない。

 だけど、フェスタは満面の笑みを浮かべている。

 その明るさが助けてくれる。グリムは誰よりも分かっているからか、肩にソッと手を置くと、「ありがとう」と呟いた。


「まあ、それは良いんだけさー、なんだろう? 変な音しない?」

「変な音って?」

「ポキポキ鳴る音っているのかな・ ほら、こんな感じで」


 フェスタはそう言うと、指をポキポキ折って、音を鳴らした。

 そんな音が聞こえるのか。グリムも耳を澄ましてみる。

 ……よく分からない。だけど何か聞こえるような気もして、グリムは目を凝らした。


「そろそろ来るよ」


 グリムがそう言うと、全員が黙った。

 心臓の鼓動が強く聞こえた。

 なにが出て来るのか。警戒していると、ポキポキと異様な音が混ざる。


「えっ?」

「ほら、やっぱり聞こえた」


 確かに骨が折れるような音が聞こえた。

 ポキポキとか細いが確かに耳にすると、地下室の奥の方から白っぽい何かが姿を現す。

 その姿をジッと追うと、グリムは「えっ?」と首を捻った。


「生きた者の気配? なんじゃ、誰かおるのか?」


 それは一人でに喋り出した。

 如何やらDと同じで、【気配察知】のスキルを持っているモンスター……いや、アレはモンスターなのか?

 今まで、モンスターが明確なスキルを持っていた様子は無い。

 グリムは怪しむも、それよりも気になるのは姿だった。


「あの姿、なんだ?」

「グリムさん、どんな姿が見えているんですか? 私には薄っすらとしか見えなくて……」

「そうだね。あれは、スケルトンだよ」

「す、スケルトン?」


 グリムが見たのはスケルトン=骸骨の怪物だ。

 だけどただ見回りをしているスケルトンなのか? グリムにはそう見えない。

 シルキーが怯え切っている。おまけにスケルトンは衣服を身に纏っている。

 格式高い……否、高級で派手な衣服を身に纏うと、手にした怪しい札の張られた杖を手に、グリム達の気配を追っていた。


 その度に骨が軋む音がする。

 ポキポキと骨を鳴らし、存在感をアピールする。

 目立ちたがり屋なスケルトン。グリムは睨みを利かせると、怪しいスケルトンの動向を追うしかできないのだ。

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