第123話 大剣VS大斧
グリムが森に消えた後、池の周りでフェスタとDは互いに身を寄せ合う。
いつ何処から敵が襲来するか分からない。
互いに周囲を見回して気配に敏感になっていると、急に異変が起きた。
ガサガサ!
「ん?」
フェスタの前の前で葉っぱが落ちた。
風も吹いていないのに変だ。もしかして隠れた敵が居る?
そう思いDに視線を配りつつも、フェスタはジリリと歩みを寄せた。
「D、私が敵を倒すから、ちょっと待っててー」
「は、はい。フェスタさん、上です!」
フェスタはDに声を掛けた。一瞬だけ抜けることを了承して貰う。
けれど了承を得た次の瞬間、Dは叫んだ。
フェスタの丁度真上。ガサッ! と物音を立てると、前触と一緒にやって来た。
「おんどらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ギラリと光る巨大な斧。鋭くて幅広の刃がフェスタの脳天を狙っている。
あんな攻撃を受けたらひとたまりもない。
Dは気が付いた瞬間、〈運命の腕輪〉を使おうとする。
けれどフェスタは必要ない様子で、背中に背負っていた〈戦車の大剣槍〉を取り出す。
「そっちから来てくれるなんてラッキー」
フェスタは不気味に笑みを浮かべると、巨大な大斧を大剣状態で受け止める。
膝を確実に落とし、【抜剣】スキルで大剣を一瞬だけ頭上に持ち上げた。
ドシャァーーーーーン!
けたたましい金属音が響き渡った。
フェスタの腕にも痛みが伝わり、反動でHPが少し削れた。
レベルも20にまで上げていなかったらきっとHPもごっそり削られていだろう。
ろくにレベル上げもできていない中、一撃を耐えきっただけありがたく、後はこっちのものしたかった……がそれもできそうにない。
「あんれっ? ガキの癖に耐えやがったか?」
そこに居たのはふてぶてしいくらいの大男。
身長は優に百九十センチは超えている。
その上顎からは灰色の髭を生やし、体も焼けているのかやけに褐色。
けれど何より目を惹いたのはその筋肉だった。
一体如何やって木の上に居たのか不思議なくらいだ。
それほどまでに上腕と太腿の筋肉が飛び抜けて発達しており、少しだけ怯む。
だがしかし、それだけSTR(筋力)のパラメータが高いことに繋がる。
目に見えて分かる情報にフェスタが気が付くも、よくぞあの一撃を耐えきれたと、心底自分を褒めた。
「おじさんが急に降ってきた?」
「がはは! 確かにガキにとっちゃ俺はおっさんだろうよ。だがおっさんを甘くみんじゃあねぇぞ。俺の一撃を耐えきったことは褒めてやるが、こいつはどうだぁ? 受けてみやがれぇ」
大斧男性は大斧を持ったまま突進してきた。
しかしその速度は尋常じゃない。
一体何処にそんなAGI(敏捷性)を隠しているのか分からない程で、フェスタも勘で避けるしかない。
「うわぁお! って、そんらぁ!」
避けた瞬間、無謀になった背中に大剣を叩き込む。
しかし筋肉に阻まれ、HPは思った以上には減らない。
本当ならこの一撃で仕留められる筈だった。
でも上手くクリンヒットせず、折角のチャンスを技術で逃してしまった。
「あー、外しちゃったなー」
「くっ。背中を掠りやがったなぁ。まあいいぜ、それくらいはくれてやるよぉ。おんどうるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
大斧を振り上げ、大斧男性はフェスタを攻撃する。
しかしフェスタも再び大剣を構えると、お互いの刃がかち合う。
ズドーン! とけたたましい音を立てた。全身に衝撃が流れると、一瞬だけ立ち止まる。
「「うっ!」」
嗚咽を漏らし、足が全く動かない。
硬直時間にどれだけ差が出るのか。次、動き出しが早い方が勝つ。
フェスタも大斧男性も向かい合ったまま、グッと唇を噛む。
(動け動け動け動け。倒せ倒せ倒せ倒せ!)
フェスタは戦闘狂ばりに、攻撃する意思を見せた。
すると足が少しだけ軽くなる。
もしかしたら動ける? 大剣を握る手に力を加えると、硬直が解けた瞬間、フェスタは前に出た。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 【筋肉増強】だ!」
「甘い! 【筋肉増強】と【振動刃】だ!」
「うっそ!?」
フェスタは【筋肉増強】でSTRを底上げした。
これで向かい撃てるはず。そう思ったのも束の間で、大斧男性は同じく【筋肉増強】と【振動刃】を伝って、フェスタのことを襲った。
「くっ、全身がヒリヒリする……」
「がはは! 【振動刃】で振動を流し込んでいるからな。もう動けないだろ!」
「う、動けない……けど!」
フェスタは全身がヒリヒリしてしまい、足のつま先にかけて硬直が走る。
痛い痛い、痛すぎる! フェスタは感覚を失いそうになる勢いで、【振動刃】を堪えようとする。
だけどそんな暇もなく、フェスタは全身の筋肉を引き延ばし、バネを使って足掻いた。
「大槍モード!」
「大槍? ぐはっ!」
フェスタは〈戦車の大剣槍〉を大剣から大槍に変形させる。
すると握り方が甘いせいで、手首に負担が掛かる。
だけど大槍になった鋭い切っ先が大斧男性の懐に突き刺さり、嗚咽を漏らしてHPを半分以上削り取った。
「な、なんだ急に!? 一体何処から……」
「甘いねー。私の武器は変形するんだよ? 大剣と大槍。使い道は違うけど、奇襲には使えるでしょ? んじゃあ、硬直が終わるまでに!」
「だったら俺も叩き殺してやらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
お互いに硬直の繰り返しだった。
だからこそここで勝負を決めることにした。
一撃はしっかりとヒットしていて、もはや防御は貫通している。
だからこそ気合の勝負に持ち込まれ、フェスタも大斧の男性も鎬を削り合っていた。
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ、ぐあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」
凄まじい残響が森の中を駆け巡った。
喉を磨り潰すような、肺を握り潰すような痛みが走る。
これが死ぬ気。二人の間に言葉ではない何かが渦を巻くと、大槍と大斧がそれぞれの急所に的確に入った。
「「あっ……」」
もう声も出ない。肩を裂かれたフェスタと、腹部を抉られた大斧男性。
HPはミリも残っていないはず。だったのだが、地に伏せていたのは大斧男性だけだった。
「がはっ! な、何故だ。何故ガキだけが……」
「ふぅ。危なかった」
大斧男性はHPがもう無い。体が粒子になりつつあった。
けれどフェスタは少しずつHPが回復している。
何が起きているのか。何があったのか。全く分からないが、大斧男性は睨みつける。
「一体なにをして……あっ」
大斧男性が視線に捉えたのは、フェスタの口の中から零れる液体。
手の中には握り潰したガラスの瓶。地面にはコルクの蓋が落ちている。
「飲んだのか、回復ポーション」
「もちろん。前以って飲んでおいたに決まっているでしょー?」
いつの間に飲んでいたのか。もしかして対峙する前から勝負は決していた。
大斧男性は一杯食わされた気分に陥ると、嘆くように自然と敗北を噛み締めた。
地面に伏せたままログアウトを待つと、表情を見せないようニヤリと楽しさの余り笑みを浮かべるのだった。
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