二章 《死神》がギルドを作ってみた

第61話 ちょっとしたアップデート

 真っ白で広い空間の中に少女が一人居た。

 カタカタとキーを打つ音が無心に響き渡る。

 ネオンパープルのラインが走るヘッドホンを被り、何処か気だるげそうな様子で作業に務めていた。


「ふぅ。疲れる……」


 ウトウトと眠たそうにする少女。

 少女の目の前には複雑なプログラムのコードがディスプレイに表示されたまま。

 他の誰にも解読不可能。それがフシギの刻む独自のコードだった。


「フシギ、御疲れさま」

「アイ……」


 そこにやって来たのはアイだった。

 フシギはクルリと首を捻ると、半月状の寝ぼけ眼を浮かべている。


「終わったんだよね?」

「もちろん」


 フシギは役目をちゃんと果たしていた。

 アイは凝視すると「なるほどね」とコードを読めているのか読めていないのか定かではない。けれど理解はしていたし、フシギの頑張りも伝わっていた。

 だからだろうか、笑みを浮かべてフシギを褒めた。


「凄いよフシギ。これだけの作業をたった一人で……」

「私しかできないから仕方ない。……もう帰っていい?」

「いいけど……アップデートの瞬間くらい見ようよ」

「今回はスキルの修正パッチも入っていない。やったのはちょっとしたことだけだ」

「それでも一緒にやろうよ。せーのっ」

「あっ、はぁ」


 アイとフシギは同時にEnterを打った。

 すると真っ白い空間を中心に、全体にコードが伝わり浸透していく。

 これでアップデートは順調に上手く行く。

 アイとフシギは一仕事を終え、満足してから真っ白な空間を後にした。




 フォンスから少し行った場所にある森の中。

 初心者が良く狩場にしているエリアで、グリムとフェスタは大鎌と大剣を振り回していた。


「「はっ!」」


 二人の武器が交互に空を切る。

 その先に居たのは二匹のグレーウルフ。

 鋭い爪と牙をギラつかせ、攻撃をしてくる姿は勇猛だった。

 しかし……


「そりゃぁ!」

「そんなんじゃ負けないよーだ」


 グリムもフェスタも余裕で相手取っていた。

 それもそのはず、グレーウルフのレベルは8なのだ。

 レベル差がありながらも果敢にグリムとフェスタに襲い掛かったのだが、残念なことに返り討ちに遭ってHPを削り取られた。


「「クゥン」」


 グレーウルフは倒されてしまった。

 粒子に変化して二人の経験値になった。

 けれどレベルが17と14のグリム達にはほとんど意味が無かった。

 あまりにもグレーウルフが可哀そうで、自然と謝ってしまう。


「ごめんね。私達のレベルが高くて」

「本当だよねー。あれから結構雑魚狩りしてたけど、おかげで結構強くなったよねー」

「そうだね。だけど少し味気ないかもしれないよ」

「うーん、つまんないなー」


 グリムとフェスタは武器を仕舞った。

 周りを一時的に喧噪に変えていた空気は何処へやら、静けさに変わり静観する。

 二人は周囲を見回すと、何も居ないことを確認して少し休憩する。

 軽い駄弁りを始めると、グリムの知らない情報をフェスタは投げた。


「そうだグリム。せっかくだからアップデート内容予測しようよ」

「アップデート内容?」

「そうそうアプデがあったんだよ。しかも今夜。それでさ、突然のアプデ発表だったから、なにがなんだか分からないんだよねー」

「そもそも私は深夜にログインしようとしないから、アプデの存在すら知らなかったよ」


 グリムは相変わらず流行に疎かった。

 それを見かねたフェスタは「全くグリムはー」と項垂れる。

 けれど優しいフェスタはグリムの知らない話を広げた。話の輪を広げ、面白い話に変えようと必死だ。


「それでさ、ぶっちゃけなにが変わったのかなーって」

「なにが変わったって……モンスターのレベルとか?」

「モンスターのレベル。うーん、それはさっき体感したけど?」

「例えばここはゲームなんだから、アプデの際にこれまでの先頭データをある程度追加して、ブラッシュアップしたとかないかな?」

「うわぁ、それやっちゃう? ってかそこまで話飛躍しちゃう?」

「楽しそうだね、フェスタ」

「楽しいよー。だっていきなりそんな面白い話を展開させるなんて、流石はグリム。目の付けところが素敵だねー」


 フェスタはグリムのことを褒めちぎった。

 しかしグリムの言っていることは間違っていなかった。

 さっき戦ったグレーウルフが成長補正を貰ってないだけで、他のモンスターは強くなっているかもしれない。楽しくなってきた。ニヤリとフェスタは笑みを零す。


「フェスタ、楽しそうだね」

「そりゃそうだよ! だって強いモンスターと戦うのってワクワクするでしょ? 戦った時のドキドキ感とか、勝った時の爽快感とか、道への探求心ってやつかな? グリムにもあるでしょ、冒険スピリッツ!」

「そうかもね。ふぅ、休憩も十分取ったから、そろそろ行こうか」

「そうだねー!」


 グリムとフェスタは十分休憩を取った。

 一休みを終えると、さらに森の奥へと向かってみる。

 いつものエリアだとグレーウルフばかり襲ってくる。けれど森の奥に行けば変わるかもしれない。その好奇心がグリムにも多少はあるので、フェスタを連れて悠々と向かうのだった。

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