第60話 珍しく学食で打ち上げ
童輪は講義を終え、食堂に向かっていた。
今日は弁当を作って来なかった。
たまには普段利用しない食堂を使っても良いと思ったのだ。
「学食なんて、この大学に入学してから一度も使ってないね」
まずは食券を買おう。その前に今日の定食を見ることにした。
Aランチが牛肉のオイスター炒めBランチがサバ味噌。
なるほど。それならAランチに使用。童輪がそう決めて食券を買おうとした。
お金を入れて食券のボタンを押そうとすると、背後から誰かがボタンを押した。
「えいっ!」
「あっ、ちょっと!」
振り返るとそこには祭理が居た。
ニヤニヤした笑みを浮かべている。
頭を抱え項垂れそうになったが、童輪はもう気にしない。
終わったことを言ったら意味が無いのだ。
「祭理。勝手に私の食べるものを決めないでよ」
「えー。良いじゃんかー」
「まあBランチになったのは許容範囲だとしても、次やったら怒るよ?」
「あっ、はい。ごめんなさい」
祭理を笑顔で睨みつけた。
すると威圧感からかあの祭理が震え出し、身震いして顔が引き攣った。
「それじゃあ私はなににしよっかな」
「なんでも良いよ。それじゃあ私は先に買って待っておくから」
「あっ、待って待って!」
祭理も急いで注文した。
食堂の中に駆け込んでくると、お互いに注文したメニューを受け取り、空いていた席に着くことにした。
「「いただきます」」
二人して丁寧に礼を払った。
童輪が注文したものは祭理が勝手に注文したBランチ。
対して祭理はガッツリ焼肉定食。ニンニクの臭いが非常に強く、鼻腔を劈いた。
「あむっ。うん、美味しい!」
「うんうん、最高だよねー。あむっ」
丁寧に煮込まれている。味もまずまず。悪く無い。
童輪は満足すると、ふと祭理が話しかけた。
何かと思えばPCOの話になる。
「ねえねえ童輪。PCO、初めて見てどうだった?」
「どうって? 悪く無かったよ」
「悪く無いんだ。それじゃあさ、デバフ装備なんだけど……」
「全然気にならないよ。むしろ楽しい」
呪いのアイテム=デバフ装備は童輪の肌に完全にマッチしていた。
イタい装備すぎて、正直そこだけ目を瞑ればかなり楽しい。
マイナスに働く〈死神〉シリーズもスキルを合わせれば完璧だ。
「正直スキルとの噛み合い方が抜群だからね。全くデバフ感覚が無いんだよ」
「そうなんだー。それってさ、かなり恵まれてない?」
「もしかしたらここまで相性の良さが噛み合う確率が低いから、呪いのアイテムは嫌悪されるのかもしれないね。体感して分かったよ」
童輪は〈死神〉シリーズのユニーク装備が強い半面、マイナスに掛かるデバフが強いことも懸念していた。しかしそれが自分のスタンスに嵌れば最大の効果を発揮できる。
それを踏まえれば相性の良さを考えてみれば自分だけじゃなく、祭理自身も似合っている。パワータイプで直情的なスタイルが祭理らしいのだ。
「祭理も〈戦車〉に合ってるよ」
「私も? うーん、膝と肘の負担がヤバいんだけどねー」
「それ以外だと完璧に合っているでしょ? それにスキルを使って身体能力を強化して見たら少しは変るんじゃないかな?」
「筋力を強化してあのレベルなんだけどねー。って待って待って!」
「うん、今気付いたよね」
祭理は自分で言って気が付いた。
スキル【筋肉増強】を駆使してようやく扱えるようになる〈戦車の大剣槍〉。
つまるところ最初の特化ステータスは正解だったらしい。
後で調べたところ、特化するよりもバランスを良くした方が良いらしいのだ。
「私達、ミスってたけどそれが正解になるなんてね。普通に考えて、運営側の想定外の行動だったんじゃないかな?」
「うーん。確かにねー。でもさ、修正パッチが入らないってことは、運営も想定通りってことでしょー? ってことはさ、このまま突き進めば……」
「うん。私達もそれなりに有名人になるかもね」
水を飲みサバの味噌煮を流した。
すると祭理は表情を濁らせる。
視線を外してポツリと呟いた。
「童輪、ほんとに興味無いんだ」
祭理は気が付いていた。むしろ公式配信をよく観ているおかげか、童輪の評価を知っていた。
運営のアイに推し認定されていることをいくら説明しても信じようとしない。
それならそれでいいと無視している。いつもの童輪に腹を立てるでもなく、公式配信を観て自分で気が付いて欲しいと祭理は思った。
「まあいいよねー。その方が童輪っぽいもん」
「私っぽいってなに? なにか私したのかな?」
「うーん。そのスタンスが童輪っぽいよー。あむっ」
祭理は笑って誤魔化した。
二人は食堂で昼食を食べながらPCOの話や講義の話をした。
なんだかんだ言って楽しかった。まるで打ち上げをしているみたいな気分になり、気が付けば食べ終わっていた。
「それじゃあ童輪、私は帰るよー」
「うん。私は午後の講義を一つ終えたら帰るから」
「それじゃあ帰ったら……」
「はいはい」
童輪と祭理は互いにハイタッチを交わす。
笑みを浮かべると、「また後で、PCOで」と熱く誓う。
大学生らしい変なテンションを謳歌すると、毎日が楽しく色付いた。
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