第58話 PCO公式配信4

 今日も配信が始まった。

 パーソナリティーはアイとミダ。

 いつもの二人が揃うと、画面の向こう側でもコメントが安定した。



信号機は黄色が好き:おっ、始まった!


アワアワ:今日は早いですね


メンチカツ:まさかこの間のイベントの反省か?www


ファルコ11:確かにw


ニャーぷる:私は面白そうだったけど


サラダ油三助:きょうはアレか? いつものアレか?



 コメントが盛り上がる中、コホンと一つ咳払いをした。

 アイとナミダは互いに目配せをすると、配信を始めることにした。

 いつもの調子でアイが笑顔を浮かべると、一気に花が咲いた。


「皆さんこんにちは。ナビゲーターのアイです。それから!」

「同じくナビゲーターのナミダ」

「始まりました、PCO公式配信。はい、パチパチパチパチ……と言うことで、今回は新イベント第一回モンスターズ・ペアの結果発表です!」


 高らかにアイが宣言した。

 するとコメント欄が一気に沸き上がった。



信号機は黄色が好き:やっぱりかー


パリパリな梅:でもあのイベントなー


メンチカツ:蓋を開けてみるとだったわwww


寅島二郎:参加してないわ


アワアワ:楽しみ。どんな結果だったんですか!


氷結:ファイアさんやブリザードさんは出て無いんですよね



「前評判は微妙。むしろ不評」

「それ言っても良いのかな?」

「本当のこと。結果として参加人数も少なかった」


 ナミダは今回のイベント、モンスターズ・ペアがあまりにも不評だったことを気にしていた。

 確かに前評判で二人一組は厳しい条件だ。

 けれど蓋を開けてみると、実際は大きく異なっていた。

 今回は有力プレイヤーも心機一転総入れ替えして、本当に面白いことになったのだ。


「やっぱりみんな興味ある」

「でも本当に面白いことになったよね。やっぱり間違っては無いかったんだよ」

「実際そうだった。だからこうなった……はい、映像」

「はい。それじゃあまずはこの方から!」


 アイは映像の入ったフォルダーを開いた。

 するといつ何処で撮影したのか分からない映像が出て来る。

 巨大な骨の姿をしたサソリ。砂漠エリアで戦う二人の少年少女が果敢に飛び掛かり、少年が盾で動きを止める間に少女が踏み込んで斧で蹴散らす。

 これぞ求めていたものだと言わんばかりの長回しで、遠目からでも分かるくらい善戦していた。


「オレンジさんがしっかり守って、相棒のデュナミナさんが攻める。上手な戦い方だね」

「うん。だけど惜しいのは真っ向から受けること。本当はボーン・スコーピオンは尻尾を警戒するべきなのに」

「だけど回らせないようにしているよ。だからこの戦いからも有りになるんだよね」

「そういうこと」


 アイとナミダが開設する通り、オレンジとデュナミナは善戦し、ボーン・スコーピオンを足止めしていた。

 けれど上手い具合にあしらわれ、ずっと苦戦する様子が映し出されていた。



名無しの7時:これから伸びて来るな


拍手魔人:マジかよ。こんな強いのが居たのかwww


歴戦の見習い兵:若いな


○○を見つめる会会長:デュナミナちゃん可愛い!



 コメント欄も盛り上がった。いつもと違うプレイヤーの群に興奮気味だ。

 それから次に表示されたのは今回のメインだった。

 アイの推し。グリム達の活躍だが、目を見張る戦いぶりが一つあり、前面に押し出されて表示された。


「だけどなによりも目を見張るのは……」

「やっぱり《死神》、グリムさん達ですね」


 グリムとフェスタの映像が表示される。

 目の前にはとてつもない強者の雰囲気を放つモンスター。

 名前はクレセントタイガー。先程まで表示されていたモンスター達よりも一回り大きくて、威圧的で、好戦的な姿を見せつけ、果敢に他のプレイヤーを薙ぎ払っていた。



信号機は黄色が好き:な、なんだなんだ!


拍手魔人:こんなの勝てるかよ


歴戦の見習い兵:バケモンだ


エタノール:カッコいい


ファルコ11:怖っ……蹂躙じゃねえか


深夜25時の人:嘘だろ。まさかコイツに勝つのか?



 コメント欄が一気に流れた。

 目で追えない量のコメントが流しそうめんのように流れて行ってしまい、そのあまりの強者感に気圧されていた。


「確かに恐ろしいモンスターです。ですが!」

「この二人、いや三人が負けるはずない」


 映像は次に切り替わっていた。

 そこにはシロガネも合流し、三対一の構図が浮かぶが、まだまだ勝てそうにない。

 コメント欄が不安で一杯。けれど次の瞬間には、グリムとシロガネの圧倒的な力量の差にクレセントタイガーが押されていた。



ファルコ11:嘘だろ。まさか負けるのかよ!


名無しの7時:どんな力の差だ


深夜25時の人:勝てないと思ってたのに


アワアワ:カッコいい!



 コメント欄も意外だったらしい。

 まさか勝てる何て想像もしていない様子だ。

 それが嬉しくてアイも興奮気味になる。


「やっぱりこの方達は強いですね。私も嬉しいです」

「アイ、推しは良いけど、贔屓はNG」

「そうでしたね。でも、これは私が推している証拠ですよ」

「それは誰が見ても分かる。けれど本当に強い。まるで呪いのアイテムのデバフを無視している」


 アイとナミダが言う通り、グリム達はとにかく強かった。

 コメント欄も大いに盛り上がる。

 いつもとは違うプレイヤーの数々を紹介し、モンスターズ・ペアの前評判の悪さも払拭した。かなり良い具合の配信ができたと思い、出演者も視聴者も楽しいひと時を終えるのだった。

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