第49話 大鯰、釣れたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 フェスタが上がってこない。【水泳】のスキルもないし、【水中呼吸】のスキルも当然覚えていない。

 このまま長時間池の中に居るのは危険だ。

 とは言えグリムも持っていないのでどうするべきか。一瞬の判断だったが、即決して池の中に飛び込もうとした。

 しかし水面にブクブクと泡が浮かぶ。もしかしたらと思い警戒するが、顔を出したのはフェスタだった。


「ぷはっ!」


 フェスタは水面から顔を出して息を荒げる。

 肩を上下にさせていた。相当疲れが溜まっていた。


「フェスタ! 大丈夫?」

「う、うん。でもさー、コレって超マズいよー」

「マズいってなに? なにか居たの?」

「もちろんいたよ。アレがこの池の主。やっぱりナマーズ池のナマズはこっちに居るんだよ!」


 フェスタが池の中で何を見たのかは分からない。

 けれどこの言い分、信じ切って良いはずだ。

 グリムはフェスタの言葉を確信だと捉え、コクコク首を縦に振った。


「分かった。それでどうしたら良いかな?」

「それが分からないから困るんだよー」


 確かにいくら釣ろうとしても持って行かれたら意味がない。

 となれば何とかして池の中で倒し切る? いやそれは無理だとすぐに判った。

 だって相手は魚。こっちは適正スキル無しの低レベルプレイヤー。そんなレベル以外の戦況的優位格差がある以上、陸で倒すしか手段はなかった。

 となればやれることは限られる。グリムは奥歯を噛み締めて、フェスタに伝えた。


「次掛かったら対処する。冷たいかもしれないけど、そこで待機できる?」

「もっちろん。むしろこの池の水、温いんだよね」

「温い?」


 となればきっと底まではいけない。

 必ずもう一度、近いうちに体を冷やしに戻って来る。

 ナマズだろうが何だろうが、モンスターはモンスター。倒せない相手じゃない。


「とは言っても、次がいつ来るか分からないね」

「うっ……ってことはずっとこのまま?」

「それは流石に……無いと信じたいよ」


 またしても待ちになる。そう決め込んだ二人はげんなりした。

 しかし次の瞬間だった。油断しかけていたその時、急にグリムの仕掛けていた釣竿に大きな反応があった。

 糸が引っ張られ、竹がしなる。このままだと持って行かれて二の舞だと感じた瞬間、グリムは咄嗟に釣竿を引き寄せたが、逆に池の中に引き込まれそうになった。


「う、うっ、負けないよ。腰を落として、重心を下げて、引っかかりを作って体を留める。それができないと持って行かれる」


 グリムは必死に耐えた。釣竿を持って行かれたら作戦もない。

 元よりないものが余計に無くなるのは良ししようと奮闘する。

 その間フェスタはできることを探す。見れば池の中に黒い影があった。


「オオナマズ!」

「フェスタ出番だよ。下から叩いて、陸地に上げて!」

「はっ!? そんなことできないよー。第一この大剣は重い……なるほどね」

「そう言うこと。分かったならやって。こっちもそうは持たないよ」

「分かってるよー!」


 グリムのお願いにフェスタは快く引き受けた。

 十分に息を吸い込むと池の中に消える。

 その間グリムはとにかく時間を稼ぐことだけに尽力した。


 池の中は暗かった。だけど黒い影はあまりに大きくて見つけやすい。

 視認性が悪い中で、その影を追うことは容易も容易すぎて逆に怪しい。

 けれど姿形は虚ろに浮かんでいた。形は完全にナマズ。如何やらナマーズ池の主で間違いなさそうだ。


(確かグリムの指示は下に潜りこんで陸地に押し上げろだったよね。結構な無茶難題だけど、やるしかないねー)


 幸いなことにナマズは動いていない。

 釣糸に喰らい付いたのに引き込めないせいだ。

 グリムが頑張ってくれてると知ってか、これは負けてられないと一気にやる気が込み上げて来て、ナマズの下へと一気に潜水する。


(うっ、水圧が……なんて言ってる暇は無いよね)


 オオナマズの下に潜りこんだフェスタ。ここまで気が付かれてはいない。

 後は如何にかして陸地に押し上げる。もちろん普通に手で如何にかできるとは思っていない。

 だったらグリムと息を合わせるのが得策。幸いお互いに呼吸は整っていた。


(それじゃあグリム。行くよー!)


 背中に背負っていた大剣を一気に引き抜いた。

 【抜剣】が発動し素早くしかも軽やかに大剣を抜くが、まだ攻撃はしない。

 チャンスは一瞬。おまけに水中だからデバフの重さもない。

 これならとんでもない威力の大技が叩き込めると踏み、意気揚々と下から突き上げた。


「(せーのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!)」


 フェスタの振り上げた大剣は間違いなくオオナマズの腹を押し上げた。

 水流が渦になり、とんでもない破壊力を生み出すと、体がくの字にひしゃげる。

 パッキリ折れたからだ。フェスタの狙い通りで釣針もまだ引っかかっている。

 これならグリムなら釣り上げられるはずだった。

 そのまさかで、グリムはこのチャンスを逃すまいと、一気に釣り上げる。


「軽くなった。今なら行けるね。せーのっ!」


 グリムは体重を後ろに掛けて倒れ込むようにして釣り上げる。

 けれどそれだけじゃ釣り上がらない。まだ抵抗が掛かっていた。

 ならばと近くの木の後ろに回り、太い木の幹に回した。


「足りない力は地形で補うんだよ。ほら、もう釣り上がってよ」


 グリムはもうじき上がって来ると読んでいた。

 グリムの直感は絶対に当たる。その確信通り、オオナマズは水面に姿を現すと、勢い余って飛んだ。

 巨体が落ちて来る。陸地に向かって降って来ると、けたたましい地ならしが鳴り響いた。

 地面が揺れて振動が轟々と掻き立てる。


 ドシーン!


 グリムは地面が揺れて体がよろけた。

 それでも体幹の強さで堪えると、〈死神の大鎌〉を装備して迎え撃つ。


「なかなかの巨体だね。これがこの池の主なんだね」


 目の前には釣り上げられたばかりのオオナマズ。

 大剣で抉られた痕が微かに残っていて、フェスタは無事に役目を果たしてくれた。

 けれどまだ足りない。一人では手に余る相手にフェスタが戻って来るのを待つグリムはその間時間を稼ぐことに尽力した。

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