第43話 【納剣】からの【抜剣】

 森の中は木々で鬱蒼としていた。少しでも踏み入れれば盛り上がった根っこに躓いて転んでしまう程だ。

 そんな中、獣道をひた走る二足歩行の恐竜型モンスターが居た。

 名前はフラワラプトル。本来首の周りに咲いた花の睡眠性の香りをバラまいて眠ってしまった獲物を捕食するかなり凶悪で好戦的なはずのモンスターが、何故か全速力で逃げていた。

 それもそのはずで、フラワラプトルを全速力で追いかける少女が二人も居たのだ。


「こらぁ、待ってよね!」

「フェスタ、待ってくれるわけないよ。そんな武器を背負ってたらね」


 フラワラプトルを追いかけるのはフェスタとグリムだった。

 グリムは普通に走っているだけなのだが、フェスタは大剣を背負って走っていた。

 本来重たいはずの大剣も背負ってしまえば重さはゼロ。その特性を活かし、運動神経抜群のフェスタが追走する。

 とは言え何故ここまで逃げられるのか。それは近付く度にフェスタが……


「追いついたぁ!」


 ズドーン!


 フェスタは木々に絡まった蔦を使って飛び掛かると、背中に背負っている大剣を素早く抜いた。

 重さを利用して素早く下りると、地面に振動が響き渡り、埋まっていた小さな小石が余りの速さと威力でフラワラプトルに命中する。


「ギュギャァ!」


 太腿に命中したフラワラプトルは嗚咽を漏らした。

 あまりの痛みに動きが鈍るが、遅れれば大剣の餌食になる。

 モンスター本来の恐怖心が出ていて、逃げることしかできなくなっていた。

 つまりは圧倒的にフェスタとグリムの優勢で、そのせいもあり流れ作業になっていた。


「ちょっとぉ! つまらないよー。そんな逃げないでよね」

「いや、モンスターは動物だよ。人間と違って本能に忠実だから逃げて当然だよ」


 グリムは冷静に分析したが、そんな分かり切っていることをフェスタ訊きたいわけじゃない。このまま逃げられ続けると、単調な作業になってしまうので、フェスタはとってもつまらない。

 大剣を素早く背中に背負うと、早速スキルが活きていることに満足していた。


「それよりフェスタ。随分と調子がいいね」

「うん。【納剣】と【抜剣】の両方が噛み合ってるよー」


 フェスタは唯一面白かったことがある。それが新しく手に入れた二つのスキルだ。

 この数日の間で新たに獲得した二つのスキル、【納剣】と【抜剣】は重たい〈戦車の大剣槍〉を扱いやすくしてくれていた。


「いやー、振り回すことを放棄したらこんなに楽になるんだねー」

「仕舞って切って、仕舞って切って。その繰り返しだもんね」

「【納剣】で素早く背中に背負って、【抜剣】でガツンと切り伏せる。もう、めちゃスカッとするよねー」


 フェスタは楽しんでいた。

 あまりに単調だけどやっていることは結構エグい。

 フラワラプトルの気持ちを察すると、グリムも怖くなってきた。


「スキルの試しも無事に済んだし、そろそろ引き上げる?」

「ううん。結構削ったんだから、さっさと倒しちゃおうよ!」


 フェスタは執拗にフラワラプトルを追うことにした。

 こう言いだしたフェスタを止めるのは面倒だ。

 グリムもレベル上げのために付き合うことにして、「分かった」と軽い相槌をすると、逃げたフラワラプトルを追いかけた。


(とは言っても、数分もあれば流石に逃げているよね)


 フラワラプトルを見逃してからおよそ三分程度が経過していた。

 流石に恐竜の脚だったら、これだけ時間が有れば休みなく走って追ってから逃れているはずだ。だから見つけるのも至難の技、かと思ったのも一瞬だった。


「あっ、居た!」


 思った以上にすぐに見つかった。

 フラワラプトルは太腿に命中した小石のせいで動きが鈍っていたのだ。

 そのせいで止まらざるを得なくなってしまった。しかしこれはチャンスとばかりにフェスタは飛び出した。


「おっ、動いてないなら。せーのっ!」


 動けないで立ち止まるフラワラプトルは突然の急襲に付いていけない。

 首を振り返った時には大剣が目の前にあり、急いでその場を退避しようとするが、ガッツリダメージを受けた。

 けれどHPを半分削る程度で収まり、フェスタは「チッ」と舌打ちをした。

 本当は一撃で倒す予定だったのに失敗だ。


「あー、もう。外しちゃった」

「でも良い感じで削れているよ」


 グリムはフェスタに追い付いてきた。

 隣に立つと、背中に大剣を丁度背負う瞬間だった。

 如何やらフラワラプトルは倒せていないらしい。警戒度を全開にし、一切目を逸らすことなく、口からダラダラ唾液を垂らしていた。


「後は任せても良いかなー? これだけ距離を離されると近付くの大変で……」

「うん。これだけ削ってくれたらねっ!」


 グリムが今度は飛び出した。

 するとフラワラプトルは首を少し下げ、肺に空気を溜め込む。

 咆哮が来る前兆と見たグリムは体が硬直する前に仕留めることにした。

 出していた利き足に力を加え、体を一気に前に押し出す。


「咆哮は喰らわなければ問題ないんだよ。だからね、せーのっ!」


 フラワラプトルが咆哮を始めようとした瞬間、大鎌を振り上げて首を狙った。

 バシュン! と首を跳ね飛ばすと、即死判定が出て無事に討伐できた。

 粒子に変わると、二人の経験値になった。如何やらかなり美味しい敵だったらしい。


「やったねグリム!」

「うん。フェスタもお疲れ様!」


 パンッ!


 二人は熱いハイタッチを交わした。

 調子がかなり良く、調整も完璧。

 これならイベントも駆け抜けられそうで今から楽しくなってきた。

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