第18話 イベントに向けてレベル上げ1

 それは数日前のこと。

 童輪は自分の部屋でスマホをいじっていた。

 仰向けのまま天井にスマホを向け、画面をポチポチしている。

 この体勢は正直肩は凝るし、腕も痛くなる。

 けれどそのまま眠れるので良いのだが、流石に苦しくなって来たので起き上がると、ピコン! と軽快な音がした。

 見ればスマホの上部にメッセージが届いたことを伝えるポップが表示されていた。


「祭理から?」


 相手は祭理だった。

 SNSアプリROADを開くと、新着メッセージが届いていた。

 祭理のアイコンをタッチする。堂々と[祭]! とアイコンが設定されているので分かりやすかった。



祭:ちわーっす


祭:童輪どうしてる?


祭:暇でしょ?


祭:暇なんだよね


祭:それならビッグニュースだよ!



「何がビッグニュースなんだろう」


 童輪は首を捻る。

 しかし考えるのも億劫なので、直接ストレートに尋ねた。



童:何がビッグニュースなの?


祭:PCOでイベントがあるんだって


祭:あっ、PCOっていうのはプレシャスコード・オンラインの略だね


童:それは知ってるよ


祭:知ってたんかーい


童:まあね。それでイベントって?


祭:今度対人戦イベントが始まるらしいよ


祭:童輪、参加してみたら?



「対人戦イベント?」


 そんなのがあるなんて全然知らなかった。

 しかし当たり前だった。

 何故なら公式放送を観ていない童輪にその情報が伝わることはないのだ。


「対人戦イベントって何するんだろ。もう少し詳しく聴かないと」


 童輪は気になったので、祭理にメッセージを送る。ポチポチスマホをタッチすると、祭理からもすぐに返信が返って来た。



童:もう少し詳しく教えて


祭:了解


祭:とは言えまだ確定じゃないけどさ


祭:簡単に言えばイベントに参加しているプレイヤーをガツガツ倒したらOKってやつ


童:雑だね


童:っていうかそれだけ?


祭:それだけだよー


童:・・・意味あるの?



 もちろんイベントなのだから何か意味はあるはずだ。

 とは言えお互いに殺し合いがしたいみたいな、そんな趣味は流石にない。

 童輪は苦言を呈してしまったが、流石に公式もそんなサイコな意味でこのイベントを用意してはいない。

 ちゃんと報酬も出るらしいが、童輪にはあまり刺さらない。



祭:あはは、確かにそれだけだとヤバめだよねー


祭:でもさ、報酬はあるんだよ


祭:な、な、な、なんと! 公式放送で取り上げられちゃうんだよー!


祭:どう、燃えたきたでしょ? 燃えてきたよね?



 何にはしゃいでいるのか、全く伝わらない。

 ポカンとした顔でスマホを見つめる童輪は「公式放送?」と初耳ワードだったので、ポツリと口にした。



童:それに出ると何か良いことでもあるの?



 あまりに漠然としたことを聴いてしまった。

 すると数十秒の間を置いてから、祭理からメッセージが返る。しかしながら、何故か怒られてしまった。



祭:あるに決まってるでしょ!


祭:っていうか観てないの?


童:観てないけど?


祭:あちゃー。これだから……まあいいや


祭:公式放送に取り上げられると良いことがあるんだよ!


祭:ナビゲーターの人達に褒められる


祭:配信に乗るからお金も貰える


祭:注目されてチヤホヤされる


祭:新築ねっ。成り上がるには良い場所でしょ!


童:いや、別に成り上がりたいわけじゃないけど?


祭:はぁー、これだから童輪は



 何故だろう。祭理に溜息を突かれてしまった。

 何だか不愉快だった。しかしこれ以上やり合おうという気にはなれない。

 それよりもせっかく教えてもらったイベントについて真剣に考える。


「さてと、イベント如何しようかな。参加しても良いけど……よし決めた!」


 ポチポチとスマホをいじる。

 メッセージを送信し、祭理に伝えた。



童:それじゃあ参加してみるよ


童:教えてくれてありがとう


祭:いいよー


祭:だけどやるからには勝ちに行くよね?


童:もちろん。そのつもりだよ


祭:よっしゃ頑張れ!


祭:私もイベント終わったら参加できるから


祭:健闘を祈るぞ!


童:はいはい



 そこでメッセージは途切れた。

 とは言え参加することになってしまった童輪はスマホから目を離すと、正眼に構える。


「うーん、まあ楽しそうだね」


 公式放送は如何でも良い。

 だけどイベントには参加してみたかった。

 それもそのはず、ここで良い結果を出せばこれからのモチベーションにも繋がるし、たくさんのプレイヤーと繋がれる可能性がある。それは良いことかもだし悪いことかもましれない。

 しかし童輪は祭理にせっかく教えてもらってこともあり、参加表明を決意する。


「とは言え、今のレベルだと絶対勝てないよね」


 どうせやるなら勝ちたい。そう思っても不思議はない。

 そのためには少しはレベルを上げた方がいい。

 必ずしもプレイヤー同士の戦闘ではレベルが高いと正義と定義はできないが、それでも少しでもレベル差を埋め合わせておくのは悪くない。

 そう思った童輪は早速ログインすることにした。レベル上げをして、イベントに向けて調整しようと、いつにもないやる気を見せるのだった。

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