第5話 立ち入り禁止の洞穴

 グリムは森の中をひたすらに歩く。

 しかし何故か分からないが、モンスターに悉く出遭わない。

 こんなことあるの? と疑いたくなる中、グリムは額を抑えて歩いている。


「モンスターがいない。まさかして、私。運悪い?」


 そんなことは考えたくない。

 だけどこうもモンスターと遭遇しないのは、もはやバグなのでないだろうか?


 グリムはそれくらい悩んだ。

 達成感も緊張感もなく、鳥の鳴き声すら聞こえない中、森を歩いていると少し珍しいものを見つける。


「おっ!」


 グリムは声を出した。

 目の前に何か見え始めたので少し走ってみる。

 そこは崖のようで、この先は行き止まり。森はここまでのようで引き返す。それも手の内の一つ。

 けれどそれは辞めることにした。

 目の前に、新たなダンジョンが姿を現したのだ。


「洞穴?」


 崖に穴が空いていた。

 これは一体何が起きたのか。

 そんなの考えたくても一発で分かる。多分風化か何かを起こしてできた自然物由来の名残だ。


「洞穴だろうけど、まさか洞窟じゃないよね?」


 崖とはいえ、草木も生い茂っていた。

 表面は苔むしていて緑色。

 とは言え崖の上の方は苔むしていないし、光が反射してもいないから湿ってはいない。

 顔を洞穴の中に覗かせてみたが、涼しみを感じる。なんか良い感じの雰囲気に、もしかしたらとビビった来た。


「なんかこっちに行けと、メンタルの中の私が騒いでいる」


 MENを上げた結果、もしかしたら直感力まで強化されているのか。

 それとも単にポジティブシンキングになり、不安や恐怖心が掻き消されているのか。

 事情は分からないが、とりあえず自分の行動に任せてみる。

 グリムはそんな方針で、明らかにヤバめ雰囲気が立ち込める洞穴の中に一歩足を踏み入れた。その瞬間、全身を悪寒が駆け抜ける。


「うっ!」


 全身が寒くて身震いした。

 洞穴ってこんなに寒いのか? と一瞬の出来事に体が付いていけなかったし、脳もバグはそうになる。

 だけどその冷徹なまでの寒気は一瞬の出来事で、それ以降は無くなる。

 まさかして体が適応してしまった? などとくだらない妄想は捨ててしまい、この洞穴がやけにヤバめな雰囲気からマジでヤバめな雰囲気へと一気に格上げされた瞬間だった。


「でも行くしかないんだよね?」


 何故そう思うのかは一切が不明。

 それでもグリムは前へと進み、洞穴の中に入った。


 だけどグリムはこの時知らなかった。

 草むらの影、そこに棒切れが落ちていた。

 その棒切れは立て札になっていて、風や地面の沈下で倒れてしまったのだ。


 問題はそこに書いてある文言。

 普段のグリムなら警戒するはずだった。


[この先立ち入るべからず]


 しかし立て札は残念なことに倒れていて、見えなくなってしまった。

 グリムはまるで気がつくことは無く、初心者には絶対に向かないような極悪ダンジョンへと躍り出ていた。




「涼しい」


 ピチャピチャと洞穴の天井から水滴が落ちてくる。

 グリムは全身が涼しい。それどころか寒気までしてくる。

 明らかに入っては行けない洞穴だったのでは? と気がつき始めてはいたものの、もう少しもう少しと先を目指して歩いてしまう。


 その間奇妙なことが起きた。

 誰もいないはずなのに視線を感じる。

 睨まれているようでも、立ち入るなと剣幕に晒されるわけでたい。むしろ、やっと来たと言いたげに、グリムのことを監視しているような気分になる。


 それにモンスターもいなかった。

 こんなにジメジメとしたひんやり洞穴ならば、モンスターの一匹や二匹いても良いのに全く見当たらない。

 グリムはキョロキョロ視線を配り、モンスターの気配を探るも、適正スキルを持っていないので分かるはずもない。


 暗い洞穴の中、光り輝く苔、通称光苔ひかりごけを頼りに慎重に歩き続ける。

 時々剣の切っ先で地面をコンコンして威嚇もしてみる。

 が、全部無駄になってしまい、グリムは虚しい気持ちになった。


「帰ろうかな」


 流石にここまで来ると嫌でも気がついてしまう。

 この洞穴には何もない。しかも洞穴ではなく、深い洞窟で、今のグリムのレベルではこの先に行ったらあまりにも危険すぎると、全身を恐怖が包み込む。

 それすらMENが高いおかげで全て吹き飛ばすと、仕方なく引き返すことにした。


「うん、戻ろう」


 踵を返し渋々戻ろうとした。

 その時、ふと視線が止まる。

 一点を見つめ、「あれは?」とついつい口を動かす。


「こんなのあったんだ。気が付かなかった」


 見つけたのは洞穴かと思っていた洞窟に、ポッカリと空いた脇道。

 丁度人が一人通れそうな隙間が空いていて、その先から自然のようなものを感じる。


「不気味だな。別に何も見えないのに、誰か待ってる?」


 脇道は真っ暗闇。光苔も生えておらず、奥の様子はさっぱり見えない。

 目を凝らし、顔を近づけみた。

 でもさっぱりなようで、グリムは唇を尖らせる。


「仕方ない。ここまで来て何も無しは流石に堪えるからね」


 グリムは脇道に体を滑り込ませた。

 蟹のように歩かないと通らないので、ゆっくりゆっくり、壁に手を付きながら歩いてみる。

 暗い上に何がいるのか分からない。

 もしもこんなところでモンスターに出会して、襲われてにしまったら助からない。

 武器も取り出せない中、グリムは祈るように慎重に進んだ。


 一歩ずつ、一歩ずつ蟹のように歩く。

 手を前に出して正面の壁を手探りで触りながら、奥へ奥へと向かっていくと、段々脇道が細かったのに太くなってきた。

 

「これってもしかして?」


 脇道のゴールが近い。

 グリムは嬉しくて足早になる。

 蟹のように丁寧に進みながら、太くなった脇道を突き進むと、ふと視界に光が溢れる。


「明るい! もしかして外に繋がってる?」


 そう期待したものの、正体は大量の光苔。

 ようやく蟹歩きから解放され、何か得られるものがあったと期待したグリムだったものの、げんなりして背中を丸めた。


「ん?」


 かと思えば少し違う。

 視線の先に何か見える。

 金色に光っていて、少し苔が生えているもののあの形を間違えるはずはない。


「もしかして宝箱!」


 グリムは嬉しくなった。

 初日にして金の宝箱を見つけることができたと喜ぶ。

 苦労して恐怖心に打ち勝つことができて良かったと、胸を撫で下ろしたグリムだったが、ふと寒気を感じたのは嘘じゃないと察した。







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【ステータス】


■グリム 

性別:女

LV:2

HP:50/50

MP:25/25


STR(筋力):27

INT(知力):26

VIT(生命力):24

MEN(精神力):102

AGI(敏捷性):22

DEX(器用さ):58

LUK(運):25


装備(武具)

メイン1:〈普通の剣(ショートソード)〉ATK:10

メイン2:


装備(防具)

頭:

体:〈普通のシャツ〉

腕:

足:〈普通のパンツ〉

靴:〈普通のシューズ〉

装飾品:


スキル(魔法を含む)

【精神相殺】



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