第3話 芋聖女、推しが可愛すぎて悶えます
「セイグリッド様、お口を開けてください」
私はパンを手に取るとセイグリッドの口元に持っていく。
「あのー、メークイン令嬢距離が近いので――」
「あっ、すみません。つい推し活の影響で」
「推し活って……何ですか?」
記憶を取り戻した私は別人のような感じがした。
メークイン令嬢の記憶と過去の記憶である芋子の記憶。
あっ、決して名前が芋子ってわけではない。
農家の娘で特にじゃがいもが有名だったから、あだ名が芋子になっただけだ。
推し活のためにバイトをたくさんしていたため、その影響で過労死にでもなったのだろう。
その時の記憶はないからどうやって死んだのかも全く覚えていない。
メークイン令嬢の記憶が残っているからこそ、妹や元婚約者に対して苛立ちも感じるが、今となっては感謝しかない。
それでも彼らに対して復讐心が全く消えたわけではない。
ただ、今は隣にいる推しに全力投球だ。
無理やりパンを口元に持って来られて、戸惑っている姿とか最高です!
「ははは、坊ちゃんが魔物以外に戸惑っているのは初めてですね」
「セバス、どうにか止めてくれないか?」
遠くにいるセバスは笑ってこちらを見ている。
この屋敷にはセイグリッドとセバス、それに御者のクリスしか住んでいないらしい。
クリスも元々セイグリッドの護衛として幼い頃から過ごしていた。
二人ともその影響なのか、特にセイグリッドの呪いの圧力を感じていないらしい。
私も聖女の力と推しへの愛で何も感じなくなった。
むしろ、あのピリピリ感が恋しくなる。
あれはきっと一目惚れする時に感じる、電撃が走ったってやつだろう。
ゲームの中で初めて見た時と同じだった。
それだけセイグリッド様はかっこいい。
「セイグリッド様は今日何をなさるのですか?」
「今日も春に向けて魔物の討伐に向かおうと思う」
「私も付いて――」
「女性をそんなところに連れて行けるわけないだろ!」
この国の夏は猛暑で冬は大雪が降るぐらい環境の変化が激しいらしい。
今は冬の終わりのため、暖かくなった春頃に出てくる魔物の討伐をしている。
「セイグリッド様は私のこと妻と認めているんですね」
こういう時は推して推して推したら、いつか願いは叶うと信じている。
前世で必死に推し活していたからこそ、今セイグリッドに会えている。
この世界に転生させてくれてありがとうと聖女として神に祈りたい。
「あなたみたいな強引な女性を初めて知りましたよ」
「ふふふ、セイグリッド様はまだまだ女性の本気を知らない初心な人のようね。私も元気な子どもをうめるように頑張りますね」
にこりと笑うと、セイグリッドは頬を赤く染めていた。
あんなにロマンスグレーのイケオジが、こんなことで顔を赤くしているとは……。
可愛いの一言しかない。
「女性がそのような言葉を簡単に口にしてはいけません!」
「これも妻の役目ですよ」
そう言ってセイグリッドに再びパンを食べさせる。
このままでは埒があかないと思い、渋々セイグリッドも食べ出した。
セイグリッド様。
長年推し活をしていた私の愛はこんなものじゃないですからね!
それにしてもパンをモグモグしている姿が愛しいです。
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