政略結婚相手は推しキャラのイケオジだった〜妹に婚約者を寝取られた芋聖女は毎日推し活で胸いっぱいです〜

k-ing@二作品書籍化

第1話 芋聖女、妹に婚約者を寝取られる

 艶やかな声が部屋中に響く中、私は扉の前で立ち尽くすことしか出来なかった。


 隙間から見えるそこには私の知っている二人が裸で体を重ね合わせていた。


 幾度もなく動く婚約者と部屋中に響く妹の声。


 私は将来を共にする予定の婚約者を妹に奪われた。


 それでもどこか納得してしまう私はおかしいのだろうか。


 妹は私とは違い、見た目が華美で華やかな女性だ。


 そんな妹を私はいつも羨ましそうに見ていた。


 黒い髪に黒い瞳の地味な私には、全てを持っている妹に勝てるものは一つしかなかった。


 それは私が"聖女・・"と呼ばれる存在だったことだ。


 聖女は平和の象徴とも呼ばれ、膨大な魔力量と珍しい光属性魔法が使える。


 そんな聖女は地味な見た目で生まれるという特徴があった。


 歴代の聖女は皆私と似た容姿をしている。


 婚約者もそんな聖女の私を魅力的に思ったのか、政略結婚ではあったものの彼には惹かれていた。


 いつも優しく笑顔を向けていたが、それは私ではなくこの聖女としての力に対してだったと気づいてしまった。



 ♢



 私はあの日から何日か寝込んでしまった。


 受け入れたくない事実に、ただただベッドで横になるしかなかった。


 ブサイクな私の顔はきっと人に見せてはいけない顔になっているだろう。


 ――トントン


 扉のノックと共に心配した表情をした妹が入ってきた。


 今すぐに近くにある花瓶を投げたいが、そんな体力も精神も残っていない。


「お姉様ごきげんよう! 体調は大丈夫ですか?」


 何もなかったかのように、妹は私にカーテシーをして挨拶をする。


 その隣にはこの間体を重ねていた婚約者がいた。


 側から見たら義理の妹と歩いている婚約者なんだろう。


 でも、関係を知っている私からしたら略奪した妹と馬鹿な男にしか見えない。


 貴族はいつも気高く堂々と。


 私はゆっくりとベッドから起き上がり、ふらふらな体でカーテシーをして挨拶を済ます。


 こんな状態でも、カーテシーを止めようとしないのが今の現状だ。


「今日はお姉様にお願いがあって伺ったんです」


「お願い?」


 妹は私に近付いて来て、耳元で悪魔の言葉を囁く。


「私、満月の日が来ないんです」


 満月の日とは月一回来ると言われる、女性特有の血が流れてくる日のことだ。


 満月が欠けて月がなくなる頃に血が流れ落ちたら、お腹の中に子どもができていないという証拠になる。


 満月の日が来ないということは、お腹の中に赤ちゃんがいるかもしれないということになる。


「だから聖女の力で確認して欲しいの」


 私はふらふらしながらも妹に手を引っ張られながら、別の部屋に案内された。


「早くお姉様にもお腹を触って欲しいな」


 ウキウキした妹と違い、私にはそれが地獄へのカウントダウンだと感じた。


「私の部屋に入って!」


 あの時妹と婚約者が惹かれあった部屋に連れてこられて吐き気が止まらなくなる。


 私の体は思ったよりもズタボロで壊れる寸前なんだろう。


 そんな私を見て妹は微笑みながらベッドに寝転ぶ。


「お姉様はやくはやく!」


 きっとここで手を当てたら結果がわかってしまう。


 その場で立ち尽くしていると、婚約者が手を掴んだ。


「姉なら妹の頼みを聞いてやれ」


 今まで手を握ってもらったこともない私の手は、妹の妊娠を確認するために掴まれる。


 私の知らない彼の手はとても温かかった。


 ゆっくり光属性の魔力を通す。


 明らかに妹以外の別の魂を感じる。


 そこには小さく光る新しい命が芽生えていた。


「ひょっとして……」


「お腹の中に新しい命が宿っているわ」


 私の声に妹は喜んでいた。


 きっと私の婚約者との子なんだろう。


 ズタボロの私はあまりにも状況が受け入れられないのか、その場で少しずつ意識が薄れていく。


 そんな私を心配する様子もなく、二人は嬉しそうに抱き合っていた。


「お姉様のものは全部私のものよ」


 ぼやけた視界には私の方を見てにやりと笑う妹がいた。



 ♢



「んっ……」


「ああ、起きたか」


 目を覚ますとベッドの横には父が座っていた。


 この国の宰相で王の側近でもある頭が切れる男だ。


「ローズが心配していたぞ。懐妊した妹に迷惑をかけるとは本当に使えない娘だ」


「すみません」


 私は父に愛されていないのは知っている。


 昔から優しく愛を向けられていたのは、妹のローズだけだった。


「しかもその相手がお前の婚約者だとはな。男の一人も立派に操作できずに何が聖女だ! 宰相の娘とは言えないほど頭が回らない子だとは思わなかったぞ」


 倒れたばかりの私の頬を父は強く叩いた。


 頬の痛みなのか、心の痛みなのかわからないもうわからない。


 もうこの場から消えたい。


 今すぐにでも死にたいと思うほど私は追い込まれていた。


 "婚約者を妹に奪われた惨めな聖女"


 私はこれからこうやって呼ばれるのだろう。


「これでも聖女だから、お前にはこの国のために新しい使い道がある」


 投げられた紙にはある人の名前が書かれていた。


「セイグリッド・シャーロン?」


「ああ、遠い国で関係を保つために政略結婚相手を探していたんだ」


 その言葉に嫌な予感がした。


 頭の中で警鐘が鳴り響く。


「うっ……」


 頭を抱えて苦しむ娘も気にせず、父は話を続けていく。


「相手はお前よりも20歳も上だが王位継承を放棄している王族だ。これでお前も使い道があってよかったな」


 それだけ言って父は部屋から去っていく。


 政略結婚に使われた私が、再び政略結婚に使われるとは思いもしなかった。


 死ねるなら今すぐにでもナイフを刺して空を飛んでいきたい。


 でも、聖女である私はある程度の傷であればすぐに治してしまう。


 死にたくても死ねないのがこんなに辛いとは思いもしなかった。


──────────

【あとがき】


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