第154話 ユーレイン伯爵の屋敷

「本当にあったな屋敷が……」

「ある日突然……伯爵家が謎の失踪を遂げ使用人ともども消失したっていう貴族の屋敷……らしいわよ? 何年も前から放置されていたって言うけど言うほど朽ちてはないのね? 立派な屋敷……」



 アイン、レリアーレは森の草木を掻き分け……薮を抜けると、突然屋敷の前に出た。

 ここはギルドから情報にもらったユーレイン伯爵の屋敷。人里離れた辺境の地に存在する消失した貴族の放置された屋敷である。



「まず、情報のおさらいね。ユーレイン伯爵。医薬の研究に尽力した貴族で、主に薬草栽培の技術が国に認められて爵位をもらったっていう方ね。こんな森の奥に屋敷を構えたのは、薬草栽培に適しているから……屋敷の真ん中には中庭があってそこで特殊な薬草が栽培された。そして貴族家が滅んだ今でも放置された薬草が中庭にあるって噂されてる。今回の依頼品の1つ……『サテラの花』もユーレイン伯爵が栽培していたとされる特殊な薬草の1つで……私達の目的の素材よ」

「つまり、それを取ってくるだけって話だ」

「うん……でもね。この屋敷には噂があって……」



 屋敷の前に立ち、建物を一瞥する2人……ちょうどその時——



——ガサガサ!!



「「——ッ!?」」



 隣にあった薮で一際大きな音が鳴る。アインとレリアーレが驚き、音の出所を凝視する。


 そこには……



「はぁ……やっと抜けた?」

「そのようですね。マスター」


「なんだぁ……カエちゃんとフィーシアちゃんかぁ……」

「もう2人とも驚かせないでよ!」



 黒い外套姿の2人組——カエとフィーシアの姿があった。

 見知った人物の登場にアインとレリアーレは安堵した。



「なんだとはなんだ。勝手に人を置いてって、勝手に驚いてるのは2人でしょう? まったく……」


「あはは……ごめんごめん」

「うふふ。森を歩くのはお姉さん達の方が上手だったってことかしらね?」


「だったら、置いてくなよ……酷い話だな」



 カエは外套にまとわりつく葉っぱを払いながら呆れて物申す。彼女達は、アインとレリアーレに置いていかれ、遅れること数分——この場にたどり着いたのだ。



「それで……なんの話をしてたの?」


「えっと、リアと今——この屋敷についての情報をお浚いしてて……」


「それは全員揃ってからしてくださいよ」


「ごめんってカエちゃん。普段は2人で依頼をしてるモノだから……つい慣れがね」



 そしてカエは、2人が話していた内容を問う。



「じゃあ……リア。続きを……」

「——ッ。えっとぉ……どこまで話したかしら?」

「ほら……この屋敷の噂!」

「あ〜そうだったわね!」



 レリアーレは手をポンッと叩くと……



「ゴホン——」



 咳払いを1つ。皆の意識を集めた。


 その時……


 ここまでにこやかな表情の彼女だったが、注目を浴びると同時に無表情となる。

 前傾姿勢で故意に顔に影を作り、垂れた前髪から覗く彼女の瞳は不気味に輝く。



「実は……この屋敷〜〜」



 声を振るわせ、わざとらしい演出を交える。



「あの、何してるのリア?」

「カエちゃん! 静かに!! こういうのは雰囲気が大事なんだから!」

「ふぅ〜〜ん? めんどくさい。帰ってもいいかな?」



 これに呆れたカエだったのだが、苦言を挟めばレリアーレに叱られてしまった。

 カエの心は帰りたムードを形成するのだった。



「みんな聞いて! 実はこの屋敷は〜〜」



 だがレリアーレはそんな空気は何のその、再び本題に戻った。


 そして……



「——人間を食うのよ!」


「「「……え?」」」



 誰もがこの発言で声を漏らした。

 言い切ったことで満足したレリアーレが「ふふふ〜♪」と笑う生意気な表情を皆が黙って見つめたのだ。











 ——ギギギッッッ!!



 屋敷の扉が開かれる。



「ふむ……中は、何の問題もナシ……か?」



 暗い屋敷内に一本の光が走る。今開かれるに至った扉から侵入した太陽光が描く光線である。

 その光の線を踏み抜き建物内へと最初に突入したのはアインだ。僅かな光源で見える範囲をキョロキョロと見渡し、周囲の安全を確認する。



「みんな! 大丈夫だ入っておいで!」



 大丈夫と悟ると、アインは手招きをして仲間を建物内へと誘う。レリアーレ、カエ、フィーシアの順でアインに続いて中へと入って行く。



「—— 暗闇を照らす光フラッシュライト!」



 レリアーレが呪文を唱える。すると、小さな光の球が屋敷のエントランスの天井目掛け飛翔し廃れたシャンデリアの横で輝いて見せた。シャンデリアに誂えたクリスタルが乱反射し、エントランス全体をクリスタル色で彩られた。



「いかにもな屋敷だな。不気味ではあるけど……少し好奇心が湧く?」



 カエは照らされた屋敷のエントランスを確認する。正面には大きな開き扉、左右には二階へと向かう大きな階段があり、吹き抜けのエントランス天井には大きなシャンデリアが飾られている。今はレリアーレの発動させた光源を生む魔法が隣に浮いていた。



「それで……この屋敷誰の屋敷だって言ったっけ?」

よ。カエちゃん」

「それもうじゃね〜か?」

? 何それ??」



 屋敷に踏み入ったカエは思うことがあった。レリアーレの補足を聞いた彼女は不気味な雰囲気と共に、ここが幽霊屋敷としか思えなくなる。


 そしてエントランスを一瞥する。



「まるでホラーゲームだなぁ……」

「ホラーゲーム?」

「ホラーゲームといえば屋敷だよね〜♪ この吹き抜けとなったエントランス。エモい」

「えも? 何を言ってるのカエちゃん??」



 ただ、幽霊屋敷と聞いても怯える以前にカエの心はワクワクしていた。このエントランスはホラーゲームを彷彿とさせゲーム好きのカエを興奮させたのだ。

 しかし、自分の知らない呪文を唱え始めるカエにすぐ隣にいたレリアーレは首を傾げて困惑している。



「ほら、2人とも興奮するのはそのくらいにして、本来の目的——忘れてないよね」


「目的? 何だったかな……」

「え? アイン? それ私にも言ってるの? 私悪いことした?!」



 アインは唐突に少女2人を嗜める。カエは煩わしそうに反応し、レリアーレは自分のどこに悪い要素があったのかと困惑するのだった。



「中庭にある薬草の採取とのことでしたが……このまま前進して進む方向でよろしいのでしょうか?」 



 ここで無言だったフィーシアが口を挟んだ。正面に見える扉を指差しアインに尋ねる。



「あぁ……それで良いと思うが……」


「では、早急にとってきましょう。マスターここでお待ちを……」

「……ん?」

「私がとってまいります」

「……え? フィーシア?」



 アインの答えにフィーシアは警戒もせず1人突き進んだ。正面の扉を目指して……

 カエはサポーターの突然の行動に困惑した。が、よくよく思い起こせば、ゲーム時代、素材採取のサポートもサポーターであるフィーシアの仕事だったと思い起こさせる。そこが原因の行動だろうか?

 


「待ってくれフィーシアちゃん? ここは未知の場所だ。1人で行くのは危険だ」

「大丈夫です。問題ありません」

「問題ないって……僕も一緒に行くよ! 手伝うから……」

「手伝う? 何をです? 肉壁ですか?」

「——違うよ!?」



 1人突き進むフィーシアをアインが追う。世にも珍しい光景だ。


 と、その時——





 ——バタン!!





「「……え?」」



 フィーシアとアインが先行し、正面の扉を潜ったところで思わぬ光景が……

 突然扉が閉まったのだ。側からこの光景を見ていたカエ、レリアーレは思わず驚きに惚ける。

 あまりにも扉が閉まった挙動が不自然だったのだ。風の風圧で閉まったかのような激しい音をエントランスに響かせたが、この屋敷を訪れる前はそこまで強風が吹いていたとは記憶にはなかった2人。頭に疑問が浮かぶのも当たり前だった。


 そして……


 さらなる疑問が2人を襲う。



「「——ッえ!?」」



 ただ扉が閉まっただけなら、アインとフィーシアは扉の向こうに居るに違いなかった。


 しかし……



「フィーシア?!」「アイン?!」



 カエとレリアーレが叫ぶ。


 すかさず扉を開いたのだが……


 まさかまさか……


 そこに2人の姿がなかったのである。


 






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