第135話 望まずして生まれる英雄のフラグ

 街から遠く離れた樹海窟——緑が生い茂るこの地にて……



——ドォオオオオオン!!!!



 1発の爆発音ののち、巨大な爆煙が舞い上がった。 





 5分後……



「カエちゃん! ちょっとそこに座りなさい!!」



 激おこプンプンなレリアーレはカエを樹海のど真ん中、しかも地べたに座らせていた。それも正座で——



「——マスターを地べたに座らせるなんて!? 何事ですか!!」



 当然、この珍事に主人様至上主義のフィーシアは憤った。


 しかし……



「——フィーシアちゃんも!!」


「——ッビク!?」



 フィーシアの声を聞いてレリアーレは「キッ!」と視線を彼女に向ける。フィーシアの身体が思わず跳ねる。



「あなたもそうやって、マスタ〜マスタ〜って!」


「——ッだ、だって……マスターは、マスターで……」


「そうやってカエちゃんを甘やかすから、になるんでしょう! どうするのよ——!!」


「どうするって……そ、それは……」


「フィーシアちゃん!!」


「——ッビク!? は、はい!!」


「あなたも、座りなさい!!」


「——む! わ、私は……!」


「——す・わ・り・な・さ・い!!」


「…………はい……」



 レリアーレは、ものすごい剣幕でフィーシアに詰め寄る。普段のフィーシアなら、冷静沈着、物怖じすることはない。だが、レリアーレとはフィーシアの天敵。どこか苦手意識があるようで、カタカタ震えながら「はい」と言わせるにまで至った。


 フィーシアは渋々カエの隣にちょこんと座る。



 そしてなぜか——



「あのぉ〜リア? カエちゃん、フィーシアちゃんを怒るのはいいんだ。だけど……なんで俺まで座らさせられてるのかな?」



 フィーシアの反対では、アインも座らさせられていた。



「う〜んと……それは、なんとなくよ!」


「そうか、なんとなくか……なら、しかたない——って、なんでだよ……」



 そもそも、何故怒れるレリアーレを生み出してしまったかというとだ。



「アレ? これ、特に俺は触れられないのか……?」



 それは、直前にあった1つの大爆発だ。



「カエちゃん! アレは、やりすぎよ! たかだかスライム如きには!!」



 レリアーレは怒声を飛ばすと、ある一点を指差す。



「だって……“よもぎ饅頭”の奴がいけないんだ」


「“よもぎまんじゅう”……が何かは知らないけど、たかが緑色のスライムに地形破壊クラスの攻撃放ってどうするの!」



 レリアーレの指が示す場所は森が突然無くなり、陥没した地形が広々と広がりを見せていた。


 そして、これをなしたのは、何を隠そうカエだった。


 樹海窟の探索中——『良し、今日からお前の名前は“よもぎ饅頭”だ!!』と言って、捨てられていた緑のスライムを拾ったカエ——しかし……



『——ぷっきゃ〜〜!!』

『——ッ!!??』



 よもぎ饅頭は拾われる事を良しとしなかった。カエの両手で掬われた状態から、彼女の顔目掛け泥を吐きかけ、身体中にまとわりつく抵抗を見せたのだ。



『——ッキ!! よくも! このやろう!』



 カエは、なんとか“よもぎ饅頭”を身体から引っぺがすと、薮の中へと思いっきり投げ入れる。そして、懐から取り出したのは、筒状の装置。


 

『——オラ! 喰らえ!』



 なんの変哲もないロケットランチャーだが……その威力は、実物を大きく上回り、ゲーム補正の大爆発を生んだのだ。



『しゃあ! おらぁああ!! どうだ、参ったか!!』



 こうして、よもぎ饅頭はこんがり焼かれることで天命を全うした。


 しかし……



『カエちゃん? ちょっといいかしら?』


『……え?』


 

 背後からカエの肩をポンッと叩く人物が——レリアーレである。この時の彼女は、表情こそ笑顔を形成していたが、何故か印象は冷たく、瞳の奥底は深淵のように暗かった。


 そして次の瞬間には……



『——ちょっと、そこに座りなさい!!』



 これが、樹海のど真ん中で正座させられるに至った経緯だ。

 




「カエちゃん! いちいちこんなことで、ド派手に力振るうのは、お姉さんどうかと思うの!」


「いや、でも……ここ街から遠いし、人だって居ないことは探知済みだし」


「そういうこと言ってるんじゃないの! もっと、みの振り方を普段から考えてって言ってるの!」



 レリアーレの怒りとは、カエの人外パワーの使い所についてだ。スライム1匹のために、樹海の中にぽっかりと穴を開けた事象。このあまりの惨事は、例え誰に対して迷惑がかからないにしろ、やり過ぎてしまっているのは一目瞭然だ。



「カエちゃん達は力を知られたくないのよね? こんなこと普段からして、どの口が言ってるのよ」


「——ッう?!」



 レリアーレは、これについて怒りを露わにするのは『やり過ぎ!』との理由も当然あったが、アインとレリアーレの2人がカエ達に同行する条件の1つ——『常識を正す』との条件も絡んできている。そんな契約も絡んでくるが、それ以前に“お姉さん”として見過ごすわけにはいかなかったのだろう。



「もう……私、カエちゃん達は力を隠すことは無理なんじゃないかと思えてきちゃったわよ……」



 ただ、これはレリアーレの優しさからくる忠告だ。レリアーレにとって恩人とも呼べるカエ、フィーシアの2人が『力を隠したい』と言ってる願いのために、心を鬼にして物申すわけだが……近頃は、自信がなくなりつつある。


 エル・ダルートの街では、ドラゴン討伐に、街南方面の崩壊——フラーダの街では、盗賊団の壊滅に、オーガの討伐。既に2人の成し遂げた功績は、英雄クラスに片足を突っ込むに至っている。


 これで『力を隠したい』だと、ちゃんちゃらおかしな話だろう。一度ひとたび吟遊詩人の耳にでも入ってしまえば……もう、カエ達の要望は一瞬にして崩れ去るのは否めない。そんな光景が、すぐ目の前に——なんてのは冗談ではなかった。



「まぁまぁ〜リア? そんなの心配し過ぎだって——」


「なんで、カエちゃんは楽観的なの? もしかしたら、もう手遅れだってこともあるのよ!」


「まさか〜〜そんなことは……大丈夫だって♪」


「……むぅ〜〜本当かしら?」



 カエはこの時、楽観的にあっけらかんと否定したが……


 

 人はこれをフラグと呼ぶ——



 望まぬ英雄は、この時も淡々と生まれようとしていたのだ。









 





 所変わって……



 フラーダの街にて——




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