第132話 付き纏う少女達
カエはお茶会の最中、とんでもない光景を目にする。
白い円卓の上。ぷかぷかと浮かぶ画面。
そこには白い幹がひしめき合う風景が視覚情報として写し出されている。しかし、その森の中心……そこには何故か少女4人の姿があった。フラワーズの少女達である。
始めは、彼女達のことをそこまで気にしていなかった。単に敵情視察かのように、薬草採取の進捗を伺う。その程度の感覚だ。
しかし……
楽観的なのも束の間——
『まぁ、彼女達にとっては地元だし、踏み込んでいい範囲は熟知している筈さ。西の森にさえ近づかなきゃね』
アインのこの言葉を聞くまでは……
ドローンカメラを飛ばしていたのは数機に渡ってだが……少女4人が写ったのは、フラーダの街から西に位置する場所だ。それも白い幹の木々が印象的でカエの意識には強く残っていた。これがアインの発した『西の森』との単語を聞いた瞬間には大きく刺激されたわけだ。次の瞬間には、何枚も並べた画面の内、西の森だとされる風景を写した一枚にカエの視線は飛びついていた。
そんな時だ——
『——ッ!?』
大きな巨体の生き物に追われるフラワーズの姿を捉え、カエの顔色が変わった。
『フィーお茶会は終了だ。ガールズのところへ行くよ』
お茶会の終了を言い放ち……
『あの子達……このままじゃ、死にますよ?』
少女達の状況をアイン達に伝えた。
そのあとは……
お茶会の片付けをフィーシアに任せ、カエが先行し我先にと少女達のピンチに駆けつけた。何故ならそれが1番早いからである。
アインとレリアーレも魔力を使った疾走によりそこそこのスピードを出すことは可能だが、カエはその2人を置き去りにすることができる。それも、木々がひしめき合う樹海の中でもだ。そしてそんな樹海の中を駆けるカエの視界に白い幹の木々が混雑しはじめると、それを捉えていた。森の奥——遥か彼方に赤髪の少女が地面に尻餅を付き、近くには巨漢の魔物がいた。その手に持った石の剣を振りかぶり、今まさに少女を潰そうとしている場面をだ。
『——ック!? こうなったら——ッ突っ込め!』
まだ、カエからは距離がある。そして、赤髪の少女【アカネ】が石剣の餌食になるのも秒読みの段階だ。カエはこの時、時間を稼ぐために少女達に貼り付けていたドローンを飛ばし、魔物の視界に故意に飛び込ませた。すると、魔物の気を引くことに成功。この間にカエは距離を詰め、石剣を持つ手を目にも止まらぬ剣速で切り落としたのだ。
こうして、カエはフラワーズのピンチに駆けつけた。
幸いにも、少女達は大した怪我もなく無事。精々、軽い打撲だけで、後から追ってきたレリアーレの回復魔法で完治した。
そして、その後——
見習い冒険者【フラワーズ】の面々だが……冒険者であるアイン、レリアーレにこっ酷く叱られる。それもそのはず、見習いは危険なエリアに近づくことを禁止され、町の外に出ることですら大人の同行が規則である。
それも、勝負と題してだ。あまりにも軽率。彼女達は勝手が過ぎたのだ。
ただ……
「——ッうわぁぁああ〜〜〜ん! みんなが無事でよがっだぁ〜〜あ!!」
「……ちょっと、リア?!」
「「「「…………」」」」
叱責も僅か数分——レリアーレが安堵し号泣することで、それどころではなくなった。アインは必死に彼女を慰め、フラワーズの面々は面食らい、大人の癖に号泣するレリアーレにドン引きした。少女達の中でも泣き虫であるラピスであっても、この時ばかりは涙を引っ込めている。しかし、それほど心配させてしまったのだという事実は、しっかりと少女達の中に刻まれた。
今後、彼女達が変に規則を破ることはなくなることだろう。
したがって……
ギルドへの報告だが……これはアインの手で行われた。レリアーレは目の端を赤く腫れあげて宿に引きこもってしまったからだ。ただ、フラワーズの説教はアインとレリアーレがしたため、彼女達が西の森に踏み込んだことは内緒にし、魔物【オーガ】の討伐をした報告だけを伝える。あまりフラワーズを悪くギルドに報告してしまうと、彼女達の冒険者資格は取り下げられてしまう。これを警戒しての措置だ。フラワーズは確かにルールを破ってしまった。しかし、彼女達に才能があるのも事実。今回のことは教訓として反省してもらい、フラワーズには立派な冒険者になってもらおうと、せめてもの情けであった。
そして数日後——
「ふふふ……私あの時、姉様に頼られたんだよ! 頭も撫でてもらった!」
「え!? ず、ず、ずるいです! ヴェールちゃん!」
「あはは〜〜いいなぁ〜〜」
「——ムフフ! いいでしょう!」
「……フン! 甘いわねヴェールちゃん! 私はお姉様にお姫様抱っこしてもらっちゃったんだから!!」
「——え!? どういうことアカネちゃん! 詳しく! 場合によっては笑えないからね!」
「あ、あ、アカネちゃん! そ、そんなこと!? は、は、は、破廉恥です!!」
「ふふん! 何とでも言いなさい! シーちゃん、ラピスちゃん!」
フラワーズの少女達はとても愉快である。数日前には死にかけたというのに……そんなことは無かったかのようにはしゃいでいた。
「でも、アカネ。顔真っ赤で、オマケに噛んでた」
「——ッッッ!? ヴェールちゃん! どうして、それを——!!」
「『だ、だ、だ、大丈夫でしゅ!!』……て? プププ……」
「——ヴェールちゃぁああああん!!!!」
「ご乱心アカネだ! にっげろ〜〜♪」
「——待ちなさい! ヴェールちゃん!!」
それも……
「あの〜〜君たち? 私の周りで騒ぐのはやめてくれないかな?」
カエを取り囲むように引っ付いて歩く。
実はカエ……ここ数日、少女達に付き纏われていた。
カエの周りをヴェールとアカネが追いかけっこよろしく駆けずり周り、ラピスは外套の裾をつまみ、シトロンは左手をつかむ。各々が騒がしく道中を共にした。
「——ッ!? ご、ごめんなさい。お姉様……ヴェールちゃんが揶揄うから……」
「姉様。ごめん。全部アカネがいけない」
「な、何ですって!」
「怒りの沸点が低すぎ。だ、大丈夫でしゅか?」
「——厶ッきゃぁあああ!!」
と、言うのも……
「こらこら君たち……喧嘩しないの。仲良くね」
「「——ッ……は〜い。お姉様!」」
「…………」
オーガから4人を助けてからというもの、彼女達からは『お姉様』と呼ばれるようになった。カエのことを至上の存在かのように敬いだしたのだ。
その時の勝負に至っても……
『そんなのお姉様の勝ちに決まってます! オーガを最も容易く倒してしまったんですから! 私達はお姉様に勝負を挑んだ時点で間違い、烏滸がましいにも程がありました』
『……そう? それでいいの?』
『問題ありません! ねぇ〜みんな!』
『『『——うん!』』』
『……ふむ。この無駄な数時間は何だったんだ』
アカネを筆頭に潔く負けを認めていた。
そして結局集めた薬草だが、カエが集めた量が若干ポイントが高かった。だが、もし仮にフラワーズがオーガに襲われることがなく、かつポイントを半分で計算する制約がなければ勝負がどうなっていたかわからない。フラワーズは確かに冒険者としての才能を兼ね備えているのだと証明される。ただ、カエは本気を出さずしてフィーシアは不参加での勝負ではあるが。
因みに、集めた薬草は全部、フラワーズにあげてしまった。カエは特に、お金に困っていないし、薬草だって
それからフラーダの滞在も数日が経ち、本日はいよいよ旅立つ日だ。
街の入り口を目指して、カエ、フィーシアは道を急いでいたのだが……フラワーズの面々に捕まってしまい、見送るためか付き纏われていたのだ。それも、キャッキャ、ワ〜ワ〜と愉快を内包した姿で、実に子供らしい反応である。
しまいに……
「時に、フィーシアちゃん?」
「……なんでしょうか? マスター?」
「“なんでしょうか?”じゃなくてね。ち、近いんだけど? 歩きずらい」
この時、フィーシアまでもがカエに身体をピッとり寄せて歩いていた。あまりにもガールズ達がカエとの距離が近いのが原因か、嫉妬してしまっているようなのだ。
「私は、マスターのサポーターです。いついかなる時もマスターを守る盾とならなくてはいけません」
「……そ、そうなの?」
「そうなんです」
「そう……」
彼女の言い分もよくわからない。結局、カエにとっては困った少女が5人引っ付いてきている事実は変わりなく、フラワーズだろうがフィーシアだろうが、歩き辛いのは変わらないのだ。ただ、彼女達は悪気があるわけではない。ここは、お姉さんとして今しばらくこの状況を享受していようとカエは考えた。
「——ッあ!? なら私も盾になる! 盾なら持ってるし、お姉様守る!」
「……わ、わ、私も……魔法で、お姉様をお守りします」
すると……カエとフィーシアの会話を聞いていたシトロンとラピスが反応した。フィーシアに続く。
「シトロン、ラピス……大変殊勝な心がけではありますが、不要です。マスターには私がいますから!」
「そうだよ! ラピスちゃん、シーちゃんだけずるい!! 私も炎剣で守る!」
「抜け駆けダメ——影の護衛は私!」
だが、これをフィーシアが突っぱねた。アカネとヴェールも声を荒げて合流する。
「いいですかアナタ達……マスターの護衛は並大抵な精神では務まりません。いかなる時でも、マスターに尽くし、守らなくてはならない。その覚悟を常に持ち忘れてはいけません。わかりましたか!」
「「「「——はい! フィーお姉様!!」」」」
「はい……お利口な子達ですね」
気づくと、フィーシアはサポーターのあり方をフラワーズに教授していた。いつからこんなに仲良くなったかはカエは知らない。だがそれは、妹に友達ができたように嬉しくはあるが……輝く少女達の瞳がフィーシアに注がれ、注がれる本人は誇らしく胸を張る。その光景を眼にするカエは、一定の呆気と羞恥に心を染めた。
「…………」
「——ッあ!? 待ってくださいマスター!!」
この隙に、道を急ぐ……カエの照れ隠し。
「——ほら! みんな! お姉様に置いてかれちゃう。追いかけよう!」
フィーシアがカエの後を追いかけ、その後をアカネの指示のもとフラワーズも追いかけていく。
実はフラーダの街の入り口ではアイン、レリアーレを待たせている。2人は旅の物資を買いに宿を早めに出ていた。カエとフィーシアとは別行動、後に合流予定だった。
カエは少女達より2人を優先し、足早に町の玄関口をただ目指す。
「あ!? カエちゃん達が来たわよ! アイン?」
「……ん? あぁ、本当だね。フラワーズも一緒か……」
「お〜い! カエちゃん。こっちよ!」
カエが街の入り口まで足を運ぶと、既に2人の姿があった。街の景観を担った煉瓦造りの建築物に背もたれている。レリアーレは、集まる少女に手を振って笑顔で出迎える。
「リア。その〜〜待たせちゃった?」
「うんん。私とアインもさっきついたところ。全然待ってないわ」
「ふぅ……ならよかった」
「ふふふ…………ッあ?! フラワーズのみんなはどうしてここにきたの? まさか見送り?」
後から来たカエはとりあえず、待ち合わせの謳い文句のような質問をレリアーレに問う。だがしかし、彼女は笑顔でカエの不安要素を否定する。アインとレリアーレも、ここへは到着したばかりのようで、カエはホッと一安心したように吐息を吐く。
そして、レリアーレはカエに微笑みを見せた後、何かに気づいたかのようにカエの背後に視線を移す。そこにいたのはフィーシアに群がるフラワーズの面々だ。
「はい……私達は見送りにきました……その、リア……お姉ちゃん……」
「——ッ!? うん! ありがとう!」
フラワーズを代表して、前に出たのはアカネだ。この時のレリアーレの質問に照れるように彼女の名前を口にして、ここにきた理由を喋る。
『リアお姉ちゃん』と発した瞬間、レリアーレは一瞬驚くように目を見開いたが、頬をうっすら薄紅に染めるとどこまでも嬉しそうに謝意を伝えた。
「アイン様……この度はご迷惑をおかけしてすいませんでした」
「ん? あぁ、そのことか? アカネちゃん。それにみんなも、ちゃんと反省したんでしょう? もう無理なことしちゃいけないよ。今回はカエちゃんが助けてくれたけど……無理な冒険は冒険者にとってはすぐ死に繋がるんだから、いっぱい勉強して、いい冒険者になるんだよ?」
「——ッハイ! 肝に銘じて、ラピスちゃん、ヴェールちゃん、シーちゃんと一緒に立派な冒険者になります!」
「うん。頑張ってね」
次にアカネが意識を向けたのはアインだ。数日前の愚行についての謝罪を織り交ぜた丁寧な挨拶を交わす。
「あのぉ〜〜カエお姉様?」
「……ッん? どうしたの、えっとぉ〜〜アカネちゃん?」
そして、振り返ったアカネは、カエの顔を真剣な眼差しで捉え、彼女の名を呼んだ。これによりカエの意識は引き寄せられ、当然視線は交差する。
すると……
「お別れの前に……ひ、1つお願いがあります!」
「……ッえ?! お願い??」
この一言——カエの身体が跳ねた。
「私達、フラワーズをお姉様のパーティーに加えてください!!」
「——ッえ!?」
「図々しいのは承知してます。でも……私達は、命を助けてもらって、お姉様のことがみんな大好きになりました! だ、だから……い、一緒に旅をさせてください!!」
カエが、この次の言葉を出しあぐねていると……アカネはこの隙に言いたい事を言い放ち、深く頭を下げた。顔を紅潮させている事からも、余程勇気を振り絞って発言しているとみた。
「……えっとぉ〜〜」
カエもすぐ答えを出せない。
試しに振り返ると、アインとレリアーレはニヤニヤしながらカエを見つめている。フィーシアは相変わらず無表情だったが、目のハイライトが消え虚無の視線で見つめ返すばかりだ。アカネへの返答はひとまずカエに一任すると、3人からはそんな感情が伝わってくる。
「う〜〜ん……そ、それはみんなで決めた事なの?」
「——はい!! みんなお姉様のパーティーに加わりたいと言っています! ねぇ、みんな!」
「……は、はい……ぜ、是非! お、お願いします!」
「今の推しは姉様しか勝たん。一緒に旅したい」
「あはは〜私達はみんな、カエ姉様が大好きになったんだよ!」
アカネの決意表明に、ラピス、ヴェール、シトロンも続く。
「でも、私……冒険者じゃないんだけど?」
「それはフィーお姉様から聞いています。それをわかった上です」
「う〜〜ん……」
これにカエは困ったように腕を抱える。少女達に好意を寄せられることには嬉しく思う。カエは別に『ロリ好き』と言うわけではないが……尊敬に思われること自体は嫌な気はしない。それに、アインとレリアーレのこともある。2人の同行を認めた手前……
だが……
「——なら、こうしよう! まずは立派な冒険者になること! そして大きくなったら……これでどう?」
「「「「——ッ!?」」」」
フラワーズはまだ子供で、見習い冒険者だ。この子達を外の世界に連れ出すことを尻込んだカエは、条件をつけた。
「大きくなって、世界を巡って私を探しにくる。そして見つけられた暁には、一緒に旅をしよう? その時になっても、私達と旅がしたいと思ってたらだけど……」
「——はい! それで構わないです!!」
「「「——やったァア!」」」
子供とする約束にしては、些か卑怯な気もするが……ここまでの条件にも関わらず、それでも見つけにくる熱意があるのなら、一緒に旅をするのも吝かではないと、カエは真面目に返答したつもりである。
だが……それでも、少女達は嬉しそうに身体を跳ねさせて、カエの答えに大いに喜んだ。この調子であれば、本当に探しにきてしまいそうである。
が……その時は、喜んで彼女達を迎え入れようと……カエは心に決めたのである。
これがカエの答えだ。
すると、その時——
「……あ!? もう一つだけお願いが……」
アカネが思い出したかのように、カエに近づいていく。
「——ん? 何かな?」
「お姉様。しゃがんでくださいますか?」
「……? いいけど……」
「耳を貸してください」
「……?」
カエは少女の頼みに従った。何をされるかは全く知り得ないが、流石に悪戯の類ではないだろうと……無理のない程度に聞いてあげようと考えた。「耳を貸せ」と言うあたり、何かをカエに伝えたいのだろうと、しゃがみアカネに耳を向けて静止した。少女の言葉をまった。
しかし……
——チュッ——
カエに降りかかった感覚とは、決して声として鼓膜に伝わることはなかった。頬に触れた柔らかい感覚。
「……え?」
「——むふふ♪」
これに驚いて、アカネの顔を伺うと、嬉しそうに頬をピンクに染めたアカネの笑顔が飛び込んで来た。
次の瞬間……
「「「「——あぁぁあああああ!!!!!」」」」
少女達の悲鳴が鳴る。
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