第94話 フェーズ2

「ふははは〜〜——!! 本当にどうかしてるよ——この裏技! 解除状態バーミリオンのリロードタイムがいらないなんて! 装備時間にはどうしようかと思ったけど……武器って装備しなくとも、表(インベントリ外)に出しとけるとわね。だったら、初めからバーミリオンを表に出しておけばいいじゃないか——俺、この機関砲を4機所持してるからね! フッヘッヘ〜〜!!」



 現在——カエは、2機目のバーミリオンを乱射している。そして、そんな彼女の背後には更にもう2機のバーミリオンを控えていた——


 カエは、スタンピートが迫り来る瀬戸際に——更なる裏技を見つけていた。それは何気なく、投げ出すように装備項目からバーミリオンを外してみるとだ——何故かインベントリに仕舞われず、現実世界に残り続ける現象が確認できた。武器を装備すると——決まって装備者からは青いコードが戦闘服と武器と繋がり、武器は宙に浮くようになる。これを外すと、青いコードは切れ、忽ち武器は浮力を失い地面に落下する。バーミリオンも当然、黄金の絨毯を踏みつけにしデカデカとその姿を主張するように地面に伏したが……


 ふと、カエはこれを疑問に思った。



 何で消えてないのか? と——



 試しにもう1機……インベントリの肥やし要員のバーミリオンを取り出し装備すると——カエの横には浮いたバーミリオン……そして、目の前の地面にもバーミリオンが……



『おいおい……嘘だろ?』



 カエは目の前のバーミリオンに手を翳し……試しに『装備』と念じる。


 すると……


 彼女の左右にはそれぞれバーミリオンが浮いた状態になった。



『え? 武器って……装備しなくても取り出せるの??』



 これにはカエの心は衝撃を受けてしまった。普段ゲームでは武器は装備——か売却……分解(捨てる)の項目選択しか用意されていない。『取り出す』なんて選択は存在しなかった。


 だが……



『…………』



 カエはそのまま無言でオプションメニューを開き、アイテム——武器——機関砲>>>バーミリオン……と選択肢し、『取り出しますか?(yes / no)』との問いに、即刻「yes」と念じれば……



『ふ……増えた……』



 目の前にはバーミリオンがもう一機……『ポケットを叩けばビスケットが増える♪』てな勢いでバーミリオンが増殖する。まぁ……インベントリには肥やしとして4機ものバーミリオンがあって、それを取り出したにすぎない話だが……何故4機も所持しているのかはカエの収集家気質の現れ——プレイヤーはメインとサブとの2つの武器しか装備できないのにも関わらず、4機も所持するとは……この武器、制作までの過程が非常にめんどくさいのだが、全く呆れた話である。


 そこでカエの取った異世界流——スタンピート攻略法が……


 背後に置いたままの3機のバーミリオンだった。今は1機を装備しているため……残りは2つだ。そして……



 …………4.3.2.1.0——


——reload time——…120秒…119…118………



「リロードタイム……はい! 交換!!」



 また弾を打ち終え、背後に残ったのは1機となる——か、に思えたが……



『マスター……弾切れのバーミリオンをインベントリに回収。そして、致します。また、1機目のバーミリオン……です』

「了解フィーシア! ナイスアシスト!!」

『いえ……コレぐらい造作もないです』



 弾を撃ち終えたバーミリオンはすぐさまインベントリ内へと収納され——カエの背後には、何故かのバーミリオンが存在した。

 それと言うのも、これはフィーシアによる遠隔のアシストによる現象だ。現在インベントリを弄れるのはカエとフィーシアの2人だ。それは離れた位置とあっても、カエの任意でフィーシアの装備やアイテムを渡すもしくはインベントリから取り出す事が可能で……これは逆とあっても——

 そこでフィーシアには遠隔で使い終わったバーミリオンを一旦インベントリにしまってもらい、更に再出現させてもらっていた。こうする事でバーミリオンはリロードとの心配を一切度外視して撃ち続ける事ができてしまう。装備の瞬間、一瞬タイムラグは発生するもののそんなものは誤差の範囲であり、大した問題ではない。それよりも注目するのは2分間の出現時間が3機撃ち終えるまでに完了してしまうと言う事——つまり2人の阿吽の呼吸による『撃つ』と『補給』によるローテーションこそが、カエが用意したフェーズ2の骨頂であったのだ。


 そして、フェーズ2のもう一つの要——それが、カエの左側で唸る(チャージ音)機関砲だった。



『マスター……敵勢力……ばらけて来ます』

「了解——! じゃあ、コイツの出番だな——」



 すると……戦場には変化が訪れる。先頭を駆けてきた魔狼の群れは、バーミリオンの裏技によってあらかた始末をつけた。ついで突撃してきた魔狼は、先頭の死骸に躓きこれまたバーミリオンの餌食——だが……魔物といえども、アイツらには知能があり、そこまで馬鹿ではない。次軍に控えていた魔物は……先頭の状況を見て悟ったようで、死骸の山を避け左右へとばらけてカエへと迫り来る。いくらバーミリオンが物量を売りとした兵器だとしても……あくまで正面に対しての強みが大きい武器だ。左右にバラけるもしくは小さなターゲットを攻撃するには些か強みが薄まる。ここで慌てて左右に射線を移そうとすれば結局どちらか片方が疎かになってしまう。正面であっても死骸を跨いで魔物が押し寄せないとも限らない。

 

 では、この状況——一体どうするのか?



「雷球——!!」



 カエはバーミリオンを正面から右へ射線をずらすと、左に構えた青く長細い機関砲から青い球弾を撃ち出した。心なしかチャージによって砲身に走っていた筈の青白い稲妻はその勢いを失い、一際大きなチャージ音を発して輝きを蓄え始める。

 今、打ち出されたのはサブウェポン【幻夢ニブルヘイム—天音色—】特殊技『雷球』——その効果は、弾丸の着脱地点に半径5m程の“スタンエリア”を発生させる。内部に侵入する者は決まって状態異常値が蓄積していき、やがて麻痺状態となる。

 カエはこの特殊な弾丸をバーミリオンとは逆——左方向に目掛け数発を乱雑に打ち出した。この時、『雷球』を打ち出すには機関砲に溜め込まれたエネルギーを消費する為、表明に纏った雷電はその勢いを失った。

 そして、稲光を内包する青い球体は魔狼を目掛け並行曲線を描くと、その手前の地面に落下する。

 何があるかも分かっていない魔狼の群れは、やがて『雷球』が落下した地点へと差し掛かると、そこで——



——バアリィッイ!!


「——ッッッグア!?」



 地面より舞い上がった青い光に包まれ体にまとわりつく。すると、狼の毛は瞬時に逆立ち身体は小刻みに震え疾走していた筈の体は青く荒い糸によって地面に縫い付けられるように止まる。


 カエは、それを確認すると……



「ハイ——麻痺ったら〜〜チェンジ!」



 右と左の腕を目の前で交差させる。これに呼応し、バーミリオンとニブルヘイムは宙で捻るように切り替わり攻撃方向をシフトさせた。すると、麻痺により動きを封じられた魔狼をバーミリオンが骸と変え——弾幕が晴れて手薄となった方向をニブルヘイムの『雷球』が地雷と化して敵を地面へと縛りつけた。

 カエは両手に構えたバーミリオン《攻撃》とニブルヘイム《停止》を巧みに操作し攻撃方向をシフトさせる事で、左右にばらける群れの進行を抑止してみせる。腕を振り武器を操るカエの姿は、さながら戦場をコントロールする1人の指揮者のようで、奏でる音はどれも死を一頻りにばら撒く鎮魂歌レクイエムに他ならなかった。

 


『マスター大型の反応——正面来ます』

「ああ……分かったよ、フィー!」



 ただ、左右の対処に追われていれば、中央を横断する大きな影が躍り出た。フィーシアに促され、視線は自然と正面を向く。



——キシャァァァァァーーーー!!!!



「……ッ!? おっと、の登場? またオマエか……」



 それは、森で一度切り倒した経験のある巨大なカマキリ——【ジャイアントマンティス】だ。魔物の巨体は狼の体をもろともせず、死骸を跨ぎもしくは踏み付けにし中央から臆することなく躍り出る。



「あの巨体……数匹に渡って来られると少し厄介だな。俺は今、左右の対処に追われているのに——」



 カエはその状況に顔を少し曇らせた。森で対峙した時は、大した脅威を感じなかったが、何メートルにもなる巨体の魔物が固まって進行してくるのは少し厄介であった。これをバーミリオンで迎撃すれば、おそらく容易く倒すことは可能だ。しかし狼とは違い「一撃」では難しいことだろう。“巨大”であることもそうだが、虫というのは基本生命力が強く小さな風穴では致命には繋がらないとカエは考えた。頭を潰す——もしくは森でしたように真っ二つにすれば、話は違ってくるだろうが……カエの装備は2機の機関銃で刀剣の類じゃない。それにバーミリオンは連射力は優れても命中性能は低く、小さな頭を狙うのは現在のカエとの距離では難しい。

 今は、大量の魔狼を捌くので手一杯……ここは少しでも時間ロスは避けたい。カマキリの数は目視ではざっと10——あの巨体だ。例え先頭のカマキリを倒したとしても、その死骸が盾となり背後の奴までは弾丸が届きづらい。かと言って、『雷球』で足止めしようとも、麻痺の蓄積は巨体であるほど遅く——あの虫にどれほど効果があるかが分からない。

 相当、上手くやればスムーズに倒せる可能性はあるが、そんな賭けや乱数を引く様な行動選択は『愚行』としか思えない。


 だが……その事にカエは一瞬表情を顰めたが——次の瞬間には考えるのをやめたのだろう。



「めんどくさい——チャージショットでも喰らっとけ!!」



 ゲームにて、めんどくさい手合いと相対する時——大体プレイヤーは簡略を求め、強力な兵器で焼き払ってしまいたくなるもので——



「ニブルヘイム——! チャージショット!!」



 カエは左手の青い銃口を正面に向け叫びを上げる。すると、砲身を伝う青白い稲妻が機械の中に吸い込まれる。そして、一旦は鳴りを潜めたかに思えたが——次の瞬間には銃口から眩い光を発した……ズドッン——と、けたたましい爆音と同時に、ニブルヘイムは蓄えたエネルギーを一気に放出——エネルギーの奔流は一直線にジャイアントマンティスを目指して飛んでいく。その間、可視化されたエネルギーは周囲に稲妻を解き放った。黄金の草原を刹那で焦がし、ニブルヘイムの射線は黒い焼け跡を残して内包エネルギーの脅威を証明してみせた。

 


『マスター、大型個体撃破——近くに同じ個体は確認されません』



 そして、引き起こした結果は……


 列となってきたジャイアントマンティスを貫き、文字通りの風穴を開けてその命を奪い去る。カエのいる地点からでもよく分かる、丸く空いた焼け跡とその奥の景色が覗け見える光景は、視界を通して悲惨な結果を伝えていた。



『現在フェーズ2に突入してからの撃破数——おおよそ800……計2000体の敵生命体の撃破完了。レリアーレの情報では群れの総数はおよそ3000——残るは1000体。マスター、そろそろではないでしょうか?』

「ああ……フェーズ3だね。フィーシア準備は?」

『既にピックアップは完了。出現に数秒いただきますが、マスターの合図1つでいつでも開始に以降できます』

「了解——じゃあ、機関砲の権限はフィーシアに譲渡……あとは手筈通りに……ね?」

『はい……ではします。マスターはその場を動かないでください』



 ニブルヘイムはエネルギーを出し切ったのか表層には白い煙が漂う。それが確認できるのを皮切りに、フィーシアからは新たな提案が飛んだ。



 作戦コード フェーズ3



 カエは、フィーシアから言われた通り、バーミリオンを連射するでもなくその場を動こうとしない。視界の遥か先では、今も魔物の群れが千もの骸が転がる赤と黄金色の草原を駆け、カエを目掛けて一直線……それでも、彼女から慌てる素振りは微塵も感じることはできない。

 すると……カエの左右に控えた2機の機関砲は、ピピッ——との機械音を発するとカエの戦闘服と繋がる青いコードが切れ、銃身に赤い光の輪が巻きついた。そこで、機関砲は地面に落下することはなく浮遊状態……いや、むしろカエを離れ巨大で重厚な機械の塊は遥か上空に飛び去っていった。だが、そのすれ違いざま……空からは金属光がカエ目掛けて飛来する。やがてそれらは、彼女の周りに落下し、地面に突き刺さった——




 それは、刀に大剣——槍に短剣と……刃を持った多種多様な近接武器の数々。だが、どれも異世界RPGにはそぐわない機械仕掛けの厨二SFの体現が立ち並ぶ。

 カエはその内、紫紺の槍と漆黒の刀を地面から引き抜くと——刃まで黒々と染まった鈍く輝く刀の切先を魔物の群れへと向け……


 そして……



「フェーズ3……いざ——ッ参る!!」



 と——叫ぶ。





〜〜あとがき〜〜


さてさて、1章ラストスパートも中盤に差し迫りまして、ここで少し『2章』のお話——


前からうっすらテーマを変えると言ってたのですが……


そこまで変化は加えず——


《剣と魔法のRPG》✕《SFアクション》


ここに要素を追加します。




で——肝心のそのテーマですが……








“+《ホラーゲーム》”



と……させてください。


とは言っても……ガチの恐怖系にするつもりはございません。いつもの笑っていただける作風に『こんなホラーゲームあるよね?』的な感覚で、主人公の“カエちゃん”を驚かせるだけです。


当然『ゲームのジャンル違うじゃねぇえかよぉお!!』ってなるはず。


あなたなら、ホラーゲームの世界に入ってみたいですか?


因みに私は、嫌ですwww


と、言うわけで、今後とも私の作品をどうか、よしなに〜です。


『2章も気になるわ』と思って頂ければ幸いです♪




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