第80話 あの朝食のあと…

 カエとフィーシアの2人は、エル・ダルートの街へと戻ってきていた。


 今朝早朝からA級冒険者【清竜の涙】の2人とはちょっとした騒がしい朝食を終えて……しばらく……


 カエは早急にセーフティハウスを撤去すると、件の冒険者の2人をお構いなしに力を解放——全力で振り切っていた。


 アイン、レリアーレに関しては、セーフティハウス撤去時の建物消失イリュージョン(ただ、インベントリ内にしまっただけ)と、ハイスピードダッシュ(力隠す気ゼロ全力逃走)には驚かれてしまったが、彼らはカエの力に関しては風潮しない旨を約束してもらったので、カエは最早自身の力を全く包み隠さず解放して見せた。

 約束をもらったと言っても、ここまでアクティブに公開するのは如何なモノかと思うが……これは彼らに対しての誠意である——と、言うよりはカエは既に考えるのをやめていた。


 それに……アインは……



『カエちゃん、フィーシアちゃん! 俺たちと一緒に街に戻ろうぜ! 君達はこの俺が護衛してみせるよ!』


『『『…………』』』



 と豪語するモノなので、速攻で振り切って来た。



 どの口が言うんだって話である。



 そして……



 街に戻ると——どうやら、シュレインは無事に約束を守ってくれたようで……その証明とばかりの、ある人物と出くわす。



『『……あ!』』


『『……!?』』



 街中を歩いていると、昨日散々に追いかけられた女冒険者と鉢合わせしたのだ。


 だが……



『『——ッごめんなさい!!』』


『『……ッ!!』』



 彼女達は、カエとフィーシアを昨日の黒外套の2人だと気づくや否や、速攻で腰を折って謝罪を口にした。



『私達てッきり——あなた達が竜の鱗を盗んだと勘違いしちゃって……!』

『寧ろ、あなた達が被害者だったって聞いたわ。災難だったわね』

『そう!! だから、勘違いで追いかけ回しちゃってッ——ゴメンなヒャッイ!!』

『私からも……ごめんなさい』


『あ〜〜……分かってもらえたのなら私は十分ですので……頭を上げてください』


『うう~……ありがとう〜……』

『ありがとう! そう言ってもらえて、ホッとしたわ』



 あまりにも必死に深々と謝る姿に、カエは2人の冒険者の頭を直ぐ上げさせた。カエ自身、真実が明るみに出たならそれで良く、安念がカエのものになるなら、それ以外に求めるものはない。

 だったら、彼女達を許してあげる事など……確りと自身の間違いを反省して誤って貰えたのなら、それで十分であった。


 それにしても……



『情報が早いな。はどこでその話を……?』


『……それは、今朝冒険者ギルドで……ね?』

『そう、ギルドの掲示板に2人の黒外套の少女の無実の情報が張り出されてたのよ!!』

『それに、レミュとへリスの2人には降格処分と謹慎が言い渡されたらしいから……君達が盗んだって話しも嘘だったって〜〜信憑性が出てきて……』

『ねぇ〜〜でも……あんな事しといて、随分甘い処分よね? 冒険者資格取り上げて、1からまたやり直させればいいのよ! あんなビッチ!!』

『まぁ〜あんな人でも、一応実力だけは本物よ。高ランク冒険者は貴重だから……致し方ないんじゃない?』

『ふぇ〜〜え?! 納得いかなぁ〜〜い!!』


『ふむふむ……なるほど……』



 カエには、いくら何でも情報が早すぎると思ったが……既にギルドではカエとフィーシアの——“黒外套少女”の無実が情報として開示、張り出されているらしい。

 シュレインはあれから休む事なくギルドへと戻ったと言うのだろうか——? 仕事のできる素晴らしい奴であるとカエは関心する。



『あれ? そういえば、昨日は3人でしたけど……もう1人は……?』



 と、その時——ふと、カエは目の前の2人を見ていると、1人少ない事に気づいた。昨日は確か3人に追いかけられていたが……内、“明らか魔女っ子”の姿が見当たらない。純粋に別行動と見て取ればそれまでだが……カエは思わずその事を2人の女冒険者に質問をする。



『ああ……あの“魔女っ子”? アイツって、私達と同じパーティーメンバーじゃないんだよね』


『同じパーティーじゃない?』


『うん、臨時に雇った子』

『ええ、普段私達は2人チームなのだけど、今は魔物の繁殖期で稼ぎ時とあったからギルドで緊急募集したの。短期間でね』

『私達だけだと、2人とも近接職だから魔物に囲まれると厳しくて……だから火力要員の魔法使いを雇ったの……でも……』

『今朝になったら「急用ができたの! 探さないでなの!」と書き置きがあって……』



 ふと、気になり——咄嗟に口から出た質問だったが、ちょっとした冒険者事情を知る事となった。カエとしても「へぇ〜」と素っ気なく返答してしまいそうなほどどうでもいい情報である。


 ただ……



『ちょっと心配よね。何か変な事に巻き込まれてなければいいけど……』

『別にいいのよ! あんな奴……私のこと“デブッ”とか言うし!』

『ええ……でも昨日の夜——彼女、部屋で騒いでて「私を汚そうとして最低」とか——』


(…………ん? 男女トラブルかな?)


『それに……「汚れ仕事」が、どうとか……』


(——ッえ? 殺し屋??)


『それから——泣き叫びながら「お尻のくびれたセクシーなナス!!」って——』


(…………大丈夫なのか? その“魔女っ子”……情緒不安定過ぎないか??)



 聞かされた“魔女っ子”についての経緯は、とてもカエの想像に収まりきる内容とは違った。


 それに……



『別にいいでしょ! 今更!! それに“探さないで”って言うんだから……別に探してなんて、あげないんだからね! フン!!』

『——あと〜〜アナタに言った言葉は「デブッ」ではないわ。「甘いモノ食べ過ぎて太った」——よ? これは事実だから、彼女を責めるのは違うわ。重く受け止めてダイエットなさい』

『はぁあ…………え? ナニ? ケンカ売ってるの??』


『あッ……ああ〜とぉ〜……わ、私たちは失礼しますねぇ〜〜そ、それでは……』



 目の前に居る2人の女冒険は、ナニやら怪しい雰囲気を構築しつつあった為——カエは巻き込まれてしまう前に足早に別れを告げ彼女らとは別れる事となった。





 その後——





 カエが、エル・ダルートに戻ってきて真っ先に向かった先は、宿屋『孫猫亭』——その理由は、昨日の門前広場での1人の男との約束に準じたが為だ。


 

 宿を訪れるとすぐ、目の前の受付カウンターには2人の人物がいた。



 1人は、この宿の女将の【ミュアン】


 そして、もう1人が……



『ああ……良かった! 君たち無事だったんだね!』


『ラヌトゥスさん!? なんでここに?』



 門前にて、カエに声を掛け問題解決に協力を提案してくれた門兵の男【ラヌトゥス】であった。

 カエが入り口の扉を開けると、宿カウンターにて振り向いたラヌトゥスと目が合い、彼とカエは互いの存在に驚き思わず声を漏らしてはエントランスにハモり声をこだまさせる。

 ラヌトゥスはカウンター手前に立っていたことから、直前まで女将のミュアンと会話をしていた様子が伺える。



『“なんでここに”——か……それはこっちのセリフさ。君たち、野営地を目指した筈だろ? 約束の日までまだ1日早い……と、その前に無事で良かった——野営地に頻繁に巡回していた友人から、君たちの事を尋ねたら該当する人物に心当たりがないと聞いて心配してたんだよ』


『それは、まぁ……申し訳なかったです。ちょっと道に迷ってまして……』


『道に迷った? 街道は野営地まで一直線だったろうに……一体どこに?』


『え〜〜とぉ……あははは……』



 ラヌトゥスはカエに近づくと、すぐ慌ただしく心配を口にする。カエはこれに笑って誤魔化してみせた。あれだけ危険だと言われたにも関わらず、まさか危険地帯に“竜を討伐”しに行っていたとは口が裂けても言えないからだ。



『とりあえず無事だったのは良かったけど……それで、迷って結局エル・ダルートに戻って来たと?』


『そんなところです。ところでラヌトゥスさんはなんで宿屋に?』


『ああ、それは君たちとの約束だからね。ここの女将さんに2人が明日戻ってくると伝えに来たんだよ』



 ここで、カエがなぜラヌトゥスが居るのかを自身の事情を誤魔化すかの様に問うと、彼は昨日の門前での約束を守ってくれていた事実を語る。ここ(孫猫亭)の場所は事前に伝えていたが……ちょうど知らせに来たタイミングで鉢合わせたのは、実に運が良かったと思える。



『ときに、もうギルドの知らせは聞いたかい?』


『ええ……ついそこで、昨日追いかけて来た冒険者に事情を聞いて、謝罪もしてもらえました』


『そうかい。疑いが晴れて良かったね。おふたりさん!』



 この時のラヌトゥスは表情は笑みを浮かべ、純粋にカエとフィーシアの無事、そして疑いが晴れた事実を喜んでくれている様であった。昨日知り合ったばかりだというのに……カエはそんな彼の親切心に感銘を受ける思いである。



『ラヌトゥスさん……私達の為に奮闘してくれたみたいで、ありがとうございました』


『いやいや……俺は特にナニも、今朝になったら知らせが張り出されてただけだしね』



 これにカエが謝意を伝えると、彼ははにかんで笑って見せ、謙虚な姿勢を見せた——が、それでも……カエ達の事を思って動いてくれていた彼の優しさに感謝しているのは本当だった。



『じゃあ……俺はもう行くよ。この後すぐ持ち場に戻らなくてはいけないんだ。それじゃあね。エル・ダルートの街を堪能してくれよ』


『はい。そうさせてもらいます』



 そして、ラヌトゥスはそう言い残すと、会話もそこそこに自身の職場へと戻っていった。




 






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