教室の隣人と学校内捜索
「――これ、アンタのだろ?」
後ろからかけられた声。数日前にも聞いたその声がする方向を振り向くと、そこには色素の薄い茶髪と毎日種類が変わるバチバチのピアスが特徴的な端正な顔立ちの男が立っていた。そう、数日前に言葉を交わした鋼条 閃也である。
鋼条が片手に持っているのは一冊の本。それは、最近は毎日手にしている日記帳とデザインが酷似していた。一応持ってきていたのだが、もしかしていつの間にかどこかに落としていたのだろうか。
そう思い急いでバッグの中を探ると、そこに探し物は影も形もない。
「……多分、そうですね。拾ってくれてありがとうございます」
ここは普通に感謝をしてさっさと返してもらうに限る。中身を見られてないといいけれど。そう思いながら日記帳に手を伸ばすと、日記帳を持った手を私の身長では届かない位置にひょいと引かれる。
「まあ待てよ。アンタの探し物、俺にも一枚噛ませてくれないか?」
これは見られている。私の動作から探し物をしていると察することはできるかもしれないが、『一枚噛ませてくれない?』は日記帳を読んで何を探しているのか知っていると考えた方が自然だ。
でも一応一度しらを切っておこう。
「探し物とはどういうことでしょうか?」
「すっとぼけんなよ、これ返してやんねーぞ」
手が届かない。私の身長は結構高い方だと思うのだが手が全く届かない。
「手貸してやるって言ってるんだよ、大人しく言うこと聞け」
「とにかく、早く返してください」
「嫌だと言ったら?」
「三十秒後貴方の上に荷物を落とします」
「何だよそれ。……そしたら俺はこの日記帳の内容をクラス全員にばら撒くことにしよう」
鋼条はお手本のような嘲笑を顔に浮かべ私の肩に手を乗せる。
「大人しく諦めろ」
「――はあ、仕方ない……」
数秒ほどにらめつけた後、これは諦めるしかないと判断する。そしてため息を吐いて諦めの言葉を口にし、鋼条の手を引く。
「え、なん…………っ!?」
鋼条が立っていた場所に荷物が降ってきて、鈍い音を立てて転がった。先程から高い場所に積まれていた荷物がグラグラと揺れていて少しばかり気になっていたのだ。
「さっきの三十秒後に……ってやつこれかよ……。はは、おっかないな」
「助けてあげたんだから感謝して」
「はいはい。じゃ、まずは上の階からだな」
鋼条は私の手を引いて生徒は普通上らない屋上への階段を上っていく。
「可能性はなくはないけど屋上って普通入れないからないと思うんだけど…………鋼条……さん、話聞いてる?」
「さん付けしなくていい。あと俺は普通じゃないから入れる」
「ああそう、何それ……って、それ」
鋼条が私の腕を掴んでいない方の手をゆらりと揺らすと、パッと鍵が現れた。その鍵に付けられたプラスチックのプレートに書かれていたのは。
「屋上の鍵だ」
抑揚のない声色と全てを見下しているかのような嘲笑が妙に合っていて何だか不気味だ。
「どうやったの、それ」
「スった。俺、優秀だろ?」
「あーはい優秀ですね。スるのはいいけど先生に捕まらないでよ?」
「この俺様が捕まるとでも?」
そう言って鋼条は鍵穴に鍵を差し込み、屋上へと繋がる扉を開ける。
その瞬間視界に広がったのは、空を覆い尽くす一面の黒い雲。そして、小さい学校周辺の建物たち。
しかし、視界の範囲内に扉らしきものは見当たらない。死角になっている部分も見てみたが、それらしきものは全くもって見当たらなかった。
「これスった意味ないじゃねーか、はあ」
「ちゃんと戻しておいてよね、すぐに騒ぎになるだろうし」
「……そういや敬語外したな。俺はそっちの方が好きだ」
鋼条の聞いていて恥ずかしくなる言葉を無視して校舎内へ踵を返す。
「他に探すなら使われてない教室とかが中心か?」
「……ええ、人目のつく場所にあるとは到底思えない。一応普通の教室もパッと見て回ろうと思う」
「了解」
「学校にはなかったな。まあ学校にあるのは少し無理があるが……。駅周辺以降は明日にするかこのまま候補全部回るか、どうする?」
「駅周辺はこのまま今日回るけど家周辺は明日。というか早く日記帳を返して」
鋼条に向かって手を差し出すと、その手に置かれたのはスマホだった。
「はい、アンタのスマホ」
「はあ!? いつの間に……」
「俺の連絡先追加しといたから。じゃ、駅行くぞ」
「ああもう……!」
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