004 北怨-2
アテルイの斧が勢いよく振り下ろされ、少年
「
晴明は顔の前で新たな紙片を振る。それは瞬く間に青い炎に変わった。
炎から座禅を組んだ老僧の姿が浮かび上がった。
老僧は胸の前で印を結ぶ。
その身体から水面に生じた波紋のような波動が広がった。
アテルイの斧が晴明の頭上でぴたりと止まった。
斧を握る腕の筋肉に浮き立つ筋が見える。
老僧の身体から発せられた波動が、斧の動きをはばんでいるかのようだ。
アテルイの額から一筋の汗がにじみ出ている。
「うおおおおおおおおおっ!!」
激しい叫び声を上げ、彼は腕にさらなる力をこめた。
ピシリと音が鳴り、波動にヒビが入る。
ヒビはだんだん広がり、波紋の波動がくだけ散った。
老僧の姿がかき消えていく。
「
間髪入れずに晴明が叫ぶ。振った紙片の炎から、今度は男女一組の鬼が現れた。
男鬼は斧、女鬼は
男鬼がアテルイに斧を振り上げる。アテルイは自分の
斧同士がぶつかり合う激しい金属音が轟いた。
突然、女鬼の水瓶から何かの液体が噴射された。
「――!?」
アテルイは斧を横薙ぎに振り、その液体を払う。
斧の表面がジュッと音を立てた。強い腐食性を持った酸のようだ。
アテルイがひるんだすきに、男鬼が再び襲いかかった。
アテルイは戦斧でその攻撃を防ぐ。
再び水瓶から酸の液体が振りまかれた。
間一髪アテルイがそれをかわす。
酸が触れた髪の毛の先が音を立てて溶けた。
続いて男女の鬼がいっせいに襲いかかった。
アテルイは酸の攻撃を戦斧の刃の面を横にして防ぐ。
反対側の手で男鬼の斧の柄をつかむと、女鬼の頭をそれで容赦なくかち割った。
そのまま自分の戦斧を横薙ぎに振り、男鬼の首をはねた。
男女の鬼の姿がかすみのように薄れて消えていく。
「あー、もう、一気にたたみかけらンねぇのかよ!」
荒々しい声で男が
部屋は小規模な宴会が開けそうな大きさの和室だ。
壁一面には大型の液晶ディスプレイが設置され、十六個に区切られたそれぞれの画面にはあらゆる方向から見た戦闘の様子が映し出されていた。
部屋の中には十名ほどの人間が壁を向いて座っている。野戦服の男のようにあぐらをかく者、木製の折りたたみ椅子に座る者などさまざまな体勢だ。
「うう――。いまのハルアキくんの呪術レベルだと、呪符二枚以上の同時使用ができないんスよ――」
緑色の髪の女性が、くやしそうに唇をかんで言った。まだ二十代前半に見える女性だ。右目を隠すように前髪の半分だけをのばした髪型をしている。
「ちきしょう――。わかっちゃいるが、オレが出ていけないのがなんともはがゆいぜ」
野戦服の男が左の手のひらを右こぶしでバチンとなぐった。
「
野戦服の男を、黒スーツの細身の男がなだめた。細身の男は木製の椅子に座り、ヒザの横に日本刀を立てて持っている。彼は右手だけに黒の手袋をはめていた。
「わあッてるよ! しかしな、同じパワー系の格闘家としちゃあ、
野戦服の男の顔の表面にさあっとさざなみが走り、顔面に茶色の毛がわさわさと伸びてきた。耳が頭の上の方へと移動して三角にとがる。
「アンタ、顔、顔――」
男の隣に座っていた女性が男をヒジでつついた。さばけた感じの女性だ。へそを出した野戦服スタイルで、片方の
「おっと――、すまんすまん」
男の顔がすうっと元の姿に戻る。
「ところで、さっきから気になってたンだが――」男が緑髪の女性に問いかけた。
「ハルアキはなんで大小を腰に差してるンだ? あいつの剣技レベルはからっきしだったハズだが――」
「ふふ――。いざというときの
緑髪の女性がにやっと笑った。
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