第74話 フィオナの反撃
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フィオナがいなくなった。
戻って来ないフィオナを心配して劇場の許可を得てトイレを探したが、フィオナはいなかった。
「一人でどこかに行かれたのでは」
「そんなはずはない。フィオナは身体が弱くて本人もそれを自覚している。勝手に一人で行動するリスクをわかっている」
だから俺がそばにいないときは、アンネと一緒にいた。一人で倒れたときが大変だからだ。
これは誘拐だと判断した俺は、すぐに王家に協力を依頼した。
「フィオナ様がいなくなったというのは本当ですか!?」
王城に行くと、もう話を聞いたらしいカミラが取り乱した。
「わ、わたくしがチケットをあけたばかりに……フィオナ様……!」
「落ち着けカミラ」
ジェレミーがカミラを支える。
「兵士たちを総動員して探させている」
「ああ、助かる」
「必ず見つかる。大丈夫だ」
ジェレミーの励まそうとしてくれる言葉に、俺は静かに頷いた。
「フィオナ嬢はここ最近健康だったから、きっと身体も大丈夫だよ」
「ああ、そうだな」
エリックもこちらを気遣ってくれているのがわかる。それだけ俺は憔悴しているのだろう。しかし、落ち込んでなどいられない。今この時も、フィオナは不安なはずだ。
フィオナ……必ず見つけるから、無事でいてくれ。
「殿下! こんなものが!」
兵士の一人が駆け込んできた。手には何かを持っている。
「劇場の近くに落ちていました。犯人が落としたのではないかと」
「これは……国旗?」
見覚えはある。
「待ってろ。今思い出すから」
ジェレミーも見た覚えがあるのか、頭を手で揉んだ。どこだ。どの国のものだ。
「……リビエン帝国だ」
誰も思い出せない中、エリックがポツリと言った。
リビエン帝国……そうだ、リビエン帝国だ。
この世界で一番進んだ国だが、他国とあまり交流を持たない謎の国。
「すぐに国外に繋がる道、海路を封鎖! フィオナ嬢を探せ!」
「了解です!」
ジェレミー殿下の命令に、兵士たちが返事をしてすぐさま行動に移す。
リビエン帝国……そんな国がフィオナを……? なぜだ……?
「あいつら……また……」
考え込んでいる俺の耳に、エリックの言葉は届かなかった。
◇◇◇
このままじっとしているわけにはいかないわ。
このままだと向こうの国に送られてしまう。なんとかしないと。
それにこの倉庫は寒い。このままでは病弱な私の体ではすぐに動けなくなってしまう。動くとしたらまだ体力がある今だ。
私は床に座りながら考えていると、太ももにあるものに気付き、一か八か賭けに出ることにした。
「うっ……苦しい!」
胸を押さえてばたりと倒れる。
「……おい、冗談はよせ」
私はハアハアと荒い息を吐き出す。
フードの男は相手にしなかったが、ミリィが心配そうに口を開いた。
「……ねえ、本当に苦しいんじゃない? この子、身体が弱いのよ。もしこのまま死んじゃったらどうするの? 私、さすがに殺人犯になりたくないわ」
ミリィの感覚がわからないが、彼女の中では誘拐はセーフで死なすのはアウトらしい。いい情報を得た。
ミリィの心配する言葉に、フードの男は深くため息を吐いた。
「……俺も今死なれたら困る。どうすればいい?」
「知らないわよ。なんか薬とかあげたら? お医者さんとか呼べないの?」
「こんなところに呼べるわけないだろう」
「使えないわね!」
「それはこっちのセリフだ」
「なんですって!?」
――今だわ!
二人が言い争っている隙に、私は太ももに巻き付けていたあるものを抜き取った。
そして、それを彼らに突きつける。
気付いたミリィが大声を出した。
「あ、あなた、演技だったの!?」
「騙して悪いわね。でも、そちらのほうが悪いことをしているから、謝らないわよ」
短剣がキラリと光る。
以前、アリスが手紙とともに送ってくれたものだ。
『護身用にどうかと思って買っちゃいました! かっこよくないですか!? 私とお揃いです!』
と手紙には書いてあった。呆れたが、私の中の中二心を刺激されてしまって、外出のときは密かに持ち歩いてた。
まさか実際に使う日が来るとは。アリスに感謝だ。
私の行動に、ミリィは慌てた表情をしたが、すぐにニヤリとした笑みを浮かべる。
「ふん! そんな短剣でどうしようっていうの? こっちは長剣があるのよ?」
フードの男が、剣を私から見えるように動かした。無駄なことはやめろということだろう。 長剣と短剣、リーチが違う。経験の差もあるし、私では勝ち目がないだろう。
「そうね。争うのは無駄でしょうね」
だが、これでいい。元々戦う気はない。
「さあ、観念して――」
「でもこれならどう?」
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