第35話 フィオナの条件
本日別作品ですが、
『負けヒロインに転生したら聖女になりました』
コミカライズ開始されました!
読んでいただけると嬉しいです!
(リンクなどは近況ノートにて)
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ルイスはまっすぐ国王陛下を見つめて言った。
「フィオナは長時間労働ができません」
…………。
ん?
みんなが目が点になってしまったが、ルイスはそのまま止まらず話し続けた。
「フィオナは身体が弱く、長く働けません。一日何度も休憩が必要です。二時間働いたら一時間はゆっくり休ませてあげないと倒れます」
いつの間にか私の身体の状態を把握しているルイスが私の病弱さを国王陛下にマシンガンのように語り出した。
「さらに働いた次の日は動けなくなりますし、立ち仕事や長時間歩くことがあると筋肉痛で寝込みます。それから」
「わ、わかったわかった!」
長々と説明するルイスを慌てて国王陛下が遮った。
「フィオナ嬢が病弱だという噂は本当なようだな」
「はい。常人の十分の一ほどの体力だと思ってください」
「そんなに……」
ちょっと国王陛下に哀れみの視線を向けられた。
そこまで同情してくれるなら、面倒なこと頼まないでくれないかな……。
「わかった」
国王陛下がルイスの言葉を聞いて頷いた。
「一日二時間労働とし、無理をさせないことを約束する。どうだ?」
どうだじゃない。
私はこの話自体なかったことにしてほしいのに、国王陛下は何がなんでも私を取り込みたいらしい。
「そういうことじゃないんです」
ルイスが再び国王陛下に突っかかった。
「そもそも身体が弱いフィオナが外出など以ての外、彼女には家でのんびりしてもらいます」
「フィオナ嬢か身体が弱いことは理解した。だがどのみち公爵夫人になったら外に出なければいけないんだぞ。家にずっといるなど不可能だし、慣れるためにもこの仕事を受けて――」
「出しません」
ルイスがキッパリ言った。
「結婚後も家にいてもらいます」
え……え!?
「フィオナが公爵夫人として外に出なくても何とかなるように俺がその倍働くから問題ありません。家にいてもらいます」
ええー!?
何、待って、結婚後の計画立てられてる!?
しかものんびり家で過ごすことになってる!?
いや、助かるんだけど! 楽だけど!
「フィオナが快適に暮らせるように寝具や家具も最高のものにし、着る衣類も肌触りのいいものを中心にし、屋敷の庭もフィオナ好みに整えます。俺との共同経営なども屋敷でやれることをやれるようにし、家で過ごせるようにします。フィオナに負担をかけないように暮らしていくのでご心配なく」
やだ、すごく快適そう……。
ルイスの考える暮らしを思い描いて、私は思わず「そうします」と返事しそうになって、慌てて首を横に振った。
うっかりちょっと心惹かれてしまったが、私の未来計画にはルイスとの婚約破棄があるのだ。そもそもヒロインが現れたらルイスはそっちにいくはず……。
ズキン、と一瞬胸が痛くなった気がした。なんだろう、身体は弱いけどまさかついに心臓に何かあったり……!?
しかし痛みはすぐに消えてしまったので私は首を傾げた。
「そもそもただの令嬢に手伝わせようというのが――」
「だが彼女の発想は我々にはないもので――」
いけない、私が一瞬意識をよそに向けている間に、国王陛下とルイスが言い争いをしている。
「ですからそれが――」
「これは我々とフィオナ嬢の――」
言い合いがどんどんヒートアップしている。このままでは収拾が付かなくなってしまう。
二人にどうしようかとオロオロしていたら、言い合いをやめて、二人はハアハアと荒い息を吐いた。
「いいでしょう」
「ああ」
なにやら同じ結論に達したらしい二人が、バッと私を振り返った。
「「君はどうしたい!?」」
「え……」
突然二人から意見を求められ、私は返答に窮する。
先程断ろうとしたが、下手な理由では国王陛下は納得してくれない。納得しないままこの場を辞しても、親に話がいって、結局やることになるだろう。ルイスにおんぶにだっこで逃げ出しても、ルイスに負担を強いることになる。
熟考した結果、私は手を挙げた。
私の出した結論は――。
「手当をいただきたいのですが」
労働に対する対価をもらうことだった。
◇◇◇
結局引き受けることになってしまった。
ガタンゴトンと多少揺れながらも、さすが天下のハントン公爵家の馬車、最高の乗り心地である。
国王陛下との謁見も終えて、今は家に帰るところだ。
「まあ高額な手当を約束してもらったし」
労働に金が発生しないなどありえない。
だがそのありえないがありえるのがこの世界なのだ。
なにせ貴族中心社会。貴族のご令嬢は仕事をすることはない。孤児院への慰問などすることはあるが、それはボランティア活動。その家はそうした行動をする慈悲深い家なんですよというアピールに繋がる、家のための行動だ。
よって、今回のことも何も言わなければ金が発生しないと睨んだ。
事実、手当を主張した私に、国王陛下はまったくそのことを考えていなかったようで面食らっていた。
「これはボランティアの域を超えたものであり、立派な労働です。それこそ家長が行うべきレベルの責任のある重労働になります。なので私自身への賃金を約束していただきたいのです」
私の言葉に、国王陛下がハッとした様子で頷いた。
「そうだな。その通りだ。しっかり払うことを約束しよう」
当然の主張をして、私の望み通り、いや、それ以上の金額を約束してくれた。
これで万が一私の追放ルートになっても、一人で生きていけるはず……!
いや、病弱な身体をなんとかしないとやっぱり厳しいかな……。
「フィオナ、本当によかったのか?」
私の前に座るルイスが心配そうにこちらを見る。
「うん、お金はもらえるし」
「だが、身体に負担になるだろう?」
「無理しなくていいとも約束してもらえたし」
「ストレスがかかるだけで病気になることもあるんだろう?」
「なるけど……なんでそんなこと知ってるの?」
ルイスなんかちょっと私の身体について詳しくなってる?
あ……!
私はルイスの隣にいるエリックに視線を向けた。
「報告してるよ、そりゃ」
エリックがケロリと言った。
「雇い主はこの人だもん。報告するように言われてるし、言うよそりゃ」
「個人情報!」
「何それ」
うああああ! 元の世界との危機管理意識の違い!
「いいわ……せっかく意識改革できる環境が整ったんだから、その辺りもきちんと盛り込んでやる……」
個人情報保護してやる……。
「フィオナが無理をしないように、必ず俺もついていくから」
「え? でもルイスは忙しいでしょう?」
公爵家の跡取りとしてやることがたくさんあるはずだ。
「問題ない」
「いやでも」
「問題ない」
「はい……」
ルイスからの圧を感じて私はそれ以上何も言えなかった。
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