番外編:ルイスの訪問

本日『病弱令嬢』コミックス一巻発売です!

コミックス一巻記念なので、一巻の内容に合わせて、ルイスの祖母に会いに行く前ぐらいのお話です。



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 とてもいい天気だ。


「こんにちはバジルちゃん。元気?」


 植物は話しかけて元気になると言うが、本当かどうか、話しかけていないものとしたと比べて作ってないからわからない。なんとなくちょっといい色艶してる気がする……?


「お嬢様」


 今日も今日とてせっせと畑仕事をしていたら、アンネが嫌そうな表情をしたがら話しかけてきた。


「どうしたの? 毛虫でもいた?」

「私は毛虫ごとき怖くありません。そんなの捻り潰します。毛虫ではなく……毛虫より邪魔な害虫が出てきました」

「害虫」


 毛虫より邪魔な害虫ってなんだろうか。

 いや、それより毛虫捻り潰すの? 刺すやつもいるからやめなよ……可哀想だからそっとどこか邪魔にならないところに移動してあげて……。


「害虫なのですが、私にはどうすることもできません」

「そんなにすごいやつなの? 駆除剤で何とかなるのかな……」


 私は手持ちの駆除剤を思い浮かべた。この世界、やっぱり現代日本より薬剤も揃ってないのよね……。不便……。


「いえ、薬ではどうにもならないかと……」


 アンネが首を振った。


「そんなに強い虫なのね」

「はい」


 駆除剤が効かないとなると相当厄介だ。できれば早めに退治したい。


「なんて言う虫? 私が倒せないか試してみるわ」

「コンヤクシャと言います」

「コンヤクシャね。今退治して……」


 ん? 待って。


「コンヤクシャって……」

「ええ、あの気に入らない銀髪野郎です」


 ルイスじゃん。


 絶対間違いなくルイスじゃん。

 私の現婚約者のルイスじゃん。


「アンネ……あのね……」


 どこから突っ込んだらいいのだろうか。とりあえず、アンネがルイスを嫌いなことはわかる。


「気に入らない銀髪野郎で悪かったな」


 聞き慣れた声が聞こえて振り返るとルイスが不貞腐れた表情で立っていた。


「また土いじりか」


 呆れたように言われてムッとする。


「何!? 悪いの!? 健全な趣味じゃないの! 文句言われる筋合いないわよ!」

「誰もそんなこと言ってないだろう」

「言ってるじゃない、顔が」

「顔!?」


 言いたいことが顔に出てるからうるさいのよね。


「で、何の用なのよ」


 ルイスの要件を聞こうと、畑仕事は中断して、手にはめていた軍手を取った。

 ルイスは「顔が言ってるってなんだ。俺の顔に何かあるのか?」とブツブツ呟いていた。

 ルイスの要件を聞いてやろうとルイスに向き直る。


「ん?」


 そのとき、私はあることに気付いてルイスの顔を両手で掴んだ。

 ルイスと目がカチリとあった。


「な、なんだ……!?」

「ルイス、あなた……」


 私はルイスの頬を撫でた。


「日焼けしてるわよ。赤い」

「え」


 私がルイスの顔から手を離すと、ルイスは自分の手を先程まで私が触っていたところに当てて撫でた。


「確かにヒリヒリする気がする」


 ルイスの白い頬が少しだが赤くなっている。


「アンネ、水とタオル持ってきてあげて」

「もうあります」

「早っ!」


 私が指示するより前にアンネが桶に入った水とタオルを持ってきた。

 アンネ、すごすぎる。以心伝心のレベルを超えてる。先読みしてる? 未来見えてる?

 私は桶とタオルを受け取りルイスの赤くなったところに当てた。


「お、おい……何して!」

「ほら、じっとして!」


 逃げようとするルイスを咎めると、ルイスは逃げるのをやめた。

 私はそのままルイスの頬を冷やしてあげる。


「ルイスは昔から肌が赤くなって痛くなる火傷タイプの日焼けの仕方をするんだから気をつけないと」

「……別にこれぐらい痛くない」


 ルイスが少し照れを隠しながら唇を尖らせた。

 そんなルイスに私はタオルを強く押し当てた。


「火傷を甘く見ない!!」


 火傷は恐ろしい。日焼けでの火傷というのも結構多く、痛い「日焼けとはこんなものか」と気付かないことも多いのだ。

 日焼けの仕方も人それぞれなのも気付きにくい一因だろう。


「火傷跡でも残ったらどうするのよ!」

「……別に構わないが」

「何言ってるの!」


 私は再び水をつけて絞ったタオルをルイスの頬に付ける。


「この綺麗な顔に傷が付いたらもったいないじゃない!」


 ルイスが一瞬ぽかんとした。

 しかし、徐々に気を取り直し、一度咳をする。


「……綺麗だと思ってるのか? 俺の顔を」

「? 当たり前じゃない。そうそういない綺麗な顔よ」


 自覚がないのだろうか?


「まつ毛は長いし、二重のぱっちりお目目だし、肌はきめ細かいし、唇もなぜかいつも潤ってるし、瞳の色はガラス細工みたいに綺麗だし、眉毛の形も――」

「もういい! もういい!」


 全部言い切れなかったが、ルイスに止められて口を閉じる。

 ルイスは日に焼けて赤くなった頬を更に真っ赤にしていた。


「今日はもう帰る! またな!」

「え、あ……」


 スタスタと去っていくルイスの後ろ姿と、たまに髪から覗く赤い耳を見ながら、私は「何のために来たのよ……」と呟いた。



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本日11/4

『病弱な悪役令嬢ですが、婚約者が過保護すぎて逃げ出したい(私たち犬猿の仲でしたよね!?)』

コミックス一巻発売されました!

描き下ろし番外編も収録されています。

特典など詳細は11/4の近況ノートをご確認ください。

よろしくお願いいたします!

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