第032話 ステラって何者?

「ただいま~ ステラ、ちゃんとお留守番していたかい?」


 色々と買い物をして回っていたので、家に戻ったのはお昼の三時を回っていた。僕も幸ちゃんもスーパーでの買い物が終わった後のアイスしか食べてないのでお腹がペコペコであるが、ステラの事も心配である。


「あっ、八雲にさっちゃん、おかえり~」


 そのステラはリビングでPCでアニメを見ながら、ゲーム機でゲームをしていた。だが、その周りには食べ終わったカップ麺の容器や、ジュースの空のペットボトルがそのまま置いてある。


「ステラ、ちゃんと後片付けしないとダメじゃないか」


「あっ! ごめんなさい、今…いや、後で片づけるから…」


 どうも今ボス戦のようで手が離せないらしい…


「ステラよ、今すぐに片づけるのだ、さもないと… 電源を落とすぞ…」


「はいっ! 今片づけるっ!!」


 幸ちゃんに電源を切ると言われて脅されると、ステラは慌ててゴミを片づけ始める。


「またっく… 子供というものはどこでも似たようなものだな…」


「ハハハ…」


 ステラと同じような背丈の幸ちゃんがそう漏らすが、僕は苦笑いしか出てこなかった。


「八雲殿もちゃんとステラを躾しないとダメだぞ」


 不意に僕にも火の粉が飛んでくる。


「いや~ ステラは祖父の命の恩人でもあり、一人暮らしをする祖父の寂しさを紛らわせてくれた人物だから…」


「ふむ、何か事情があったのだな? しかし、そうだとしても言わなければならない事をちゃんと言ってやらねば、ステラの為にはならんぞ、八雲殿」


 ステラはいずれ成仏する地縛霊だと思っていたから、今まで好きにさせてきたけど、そうでないのならば、幸ちゃんの言う通りかも知れない。


「分かったよ…僕もステラが悪い事をした時にはちゃんと注意するようにするよ」


「分かればよい…では、八雲殿、買ってきた食材を仕舞うのを手伝ってもらえるか?」


「うん、お米もあるからね」


 僕はお米を担いでキッチンに向かう。


「米の次は炊飯器も運んでもらえるか?」


「そう言えば、どうしてもう炊飯器があるのに新しい炊飯器を買い直したの?」


「同じ米でも炊飯器が違えば、全く味が異なる。やはり、米を炊くには良い炊飯器を使わねばならぬ」


「そうなんだ…」


 なるほど、幸ちゃんはご飯に深いこだわりがあるのか… 僕にはたかが炊飯器に15万円も出せない…


「今日はお昼を食べてないのでな、少し早めの夕食にするので、早めにご飯を仕込まねばならぬ」


 幸ちゃんはホームセンターで買ってきたエプロンを身にまとうと、炊飯器の箱を開けるとおひつを取り出し、早速米を入れて研ぎ始める。


「私はご飯の研ぐので、八雲殿は買ってきた食材を冷蔵庫に入れてもらえるか?」


「うん、分かった、しかし説明書を読まずにいきなり使い始めているけど、大丈夫?」


「あぁ、四条家で使っていたものと同じものを買って来たからな、使い方は心得ておる」


 さすが金持ちの家は違う…


「よし! これで30分程浸してから炊飯を始めればよいだろう、次は出汁をとるか」


 幸ちゃんはスーパーで買ってきた昆布を適度な大きさに切り、それを固く絞った付近で軽く拭く。その後水をはった鍋に昆布を入れる。


「これでキッチンタイマーを30分に合わせて、時間になれば、炊飯器のボタンを押して、鍋に火を掛けたらよいな、それまでの時間にアレを処理するか…」


「アレって?」


「ステラが獲ったという豆アジだ… 塩焼きなどせぬように、私がちゃんと調理する」


 幸ちゃんから二度と豆アジの塩焼きをさせないという強い意志を感じる…


「この程度の豆アジなら、包丁を使わず手でえらと内臓を取り除けば良いだろう、後はポリ袋に放り込んで…」


 幸ちゃんはホームセンターで買ってきた台座に乗りながら、テキパキと豆アジの処理をしていく。僕はそんな幸ちゃんの姿を感心しつつも、一人で任せて大丈夫かなと思って眺めていた。


 すると、不意に幸ちゃんが僕の方を振り返る。


「八雲殿…」


「なんだい? 幸ちゃん」


「その…新婚夫婦の夫が、新妻の炊事を心配するように見るのは止めてくれぬか… 私もちと恥ずかしい…」


 幸ちゃんは頬を少し染めてはにかみながら言ってくる。


「あぁ、ごめんごめん、そんなつもりは無いんだけど…」


「では、食事が出来るまで、リビングでステラと一緒に遊んで待っててくれればよい」


「うん、分かった…」


 そう答えるとリビングに向かい、ステラの隣に腰を降ろす。


「八雲、一緒にゲームする?」


 そう言って、ステラがゲームのコントローラーを差し出してくる。


 しかし、ここで受け取ってしまえば、本当に台所から追い出されて子供の面倒を見る父親状態である。


「…いや、ちょっと部屋に戻って仕事をしてくるよ、ご飯が出来たら呼んでくれるかい?」


「うん、いいよ!」


 僕は自室に戻りPCを起動する。ステラには仕事をするとはいったものの、スーパーで幸ちゃんと話したステラの事を思い出す。


「海外の妖怪って言ってたな…」


 僕はブラウザを立ち上げ思いつくワードで検索してみる。


「えっと… イギリス人の祖父と一緒にいたのだから、イギリスに絞って調べて見るか…」


 『イギリス・妖精』で検索してみると、イギリスの妖精の様々な検索結果が出てくる。そこに一番よく出てくるのはピクシーやフェアリーなどの、所謂日本で良く知られている妖精である。


「うーん… 可愛い所はステラと同じだけど、そもそも大きさや翅のあるなしが全然違うな…」


 画面をスクロールして他の検索結果を調べて見る。


「ボギー? これ何だろ…」


 クリックして内容を見てみると、悪戯好きの妖精のようであるが、姿が小さく黒くて毛深いとされているのでこれも違うだろう…


「エルフ…まぁ、ファンタジーに良く出てくる種族だけど…ステラとは違う気がするな…ステラは耳が尖ってないし… でも弓を使う所はステラもクリーチャーハンターで弓使っていたし… ちょっと候補に置いておくか…」


 他の検索結果を調べる。


「ブラウニー… 民家に住み着つく妖精、家の人が寝ている間に仕事をしてくれるか… ステラにゲームのレベル上げやアイテム稼ぎを頼んだら喜んでやってくれそうだな… 実際、僕が眠っている間もずっとゲームをしているし… これも候補に入れておくか…」


 僕は次の検索結果を見る為に画面をスクロールさせる。すると部屋の外から階段を駆け足で昇る音が聞こえてくる。


「八雲~ さっちゃんがご飯できたって」


 部屋の外からステラの声が響く。


「はーい! 今行くよー!」


 僕はPCをスリープにして一階に降りる事にした。





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