第030話 お大尽買い
次の日の朝、僕は幸ちゃんと二人車に乗り込む。
「じゃあ、ステラ、お留守番頼むよ、遅くなった場合は、好きなカップラーメンを食べてていいから!」
「うん! わかった!」
好きなカップラーメンを食べてよいと言われて、ステラは満面の笑みを浮かべながら手を振って僕たちを見送る。
「じゃあ、出発するよ、幸ちゃん」
「あぁ、出してくれ」
僕は車を走らせる。
「それで幸ちゃん、どこから向かえばいい?」
「そうだな…食材の買出しは生ものもあるので一番最後にして、電化製品を売っている場所と、台所用品を売っている場所を回りたいな、後は日用品の小物を売っている店だ」
「じゃあ、先ず最初に家電量販店に向かうね、ホームセンターもすぐ近くあるから便利だよ」
そう言って僕は家電量販店に車を走らせる。
「はぁ~ 新聞やニュースで知っていたが、今の家電は街の小売店ではなく、この様な大きな店で売っているのだな」
店に到着して、その大きな店構えを見上げながら幸ちゃんが感心して言葉を漏らす。
「こちらの方が品ぞろえが多いからね、じゃあ中に入ろうか」
二人そろって入店する。すると何度も来ている僕でもここに来ると色々と目移りするが、初めての幸ちゃんは僕以上に辺りをキョロキョロと見渡して、まるで初めておもちゃ屋に連れて来てもらったような子供の顔をする。
「おぉ! 凄いな! 色々な物を取り揃えておるな! 目移りして困ってしまうぞ!」
「ハハハ、始めてきたのならそうなるね、それで何を買うつもりだったの? 幸ちゃんは初めてだし、広い店内だから僕が案内するよ」
「そうか! 最初はスマホを購入するつもりであったが、こんなに色々取り揃えておると、見て回りたいな」
「じゃあ最初はぐるりと一周しようか」
そう言う訳で僕と幸ちゃんはぐるりと店内を回る事にする。そしてテレビコーナーに差し掛かった時に幸ちゃんが立ち止まる。
「そう言えば、あの家にはテレビがなかったな、一つ購入していくか」
「うんそうだけど、アンテナ工事をしないとすぐに見れないよ」
テレビとアンテナ工事となるとかなりの金額になりそうなので、警告を含めてそう告げる。
「八雲殿、あの家には既にネットが通っているのだろ?」
「あぁ、そうだけど、それがなにか?」
「ではフレームスティックとやらを購入すれば、すぐに番組がみれるではないか」
そう言うものがある事は知っていたが、幸ちゃんがその事を知っていて、僕は少し驚いた。
「幸ちゃんはどうして知ってるの?」
「あぁ、四条家のものがそれで時代劇専門チャンネルを一日中好きな時に見ておったからな」
幸ちゃんはそう答えながら、大きなテレビを物色し始める。
「うん、これが良いな大きくて見やすそうだし」
そう言って60以上の大きさのあるテレビを選ぶ。
「…あの…幸ちゃん…このテレビ…結構高いよ?」
「そうか? 私にはお手頃価格に見えるぞ? もしかして支払いを心配しているのか? ならば大丈夫だ。私が支払うので」
そう言って幸ちゃんは手に持っていた信玄袋の中からぶ厚い財布を取り出し中身を見せる。
「えっ!? ちょっと! そのお金どうしたの!?」
財布の中身を見ると、一センチ以上の厚みのある一万円札が納められていた。
「私は富と繁栄の象徴である座敷童だぞ? ここに来る前に、様々な宝くじ売り場に立ち寄って、お金を手に入れてきたのだ。とりあえず今回はそんなに買い物をするつもりは無かったので、全財産の一部を財布にしたためてきたが、残りは家に置いてきている。だから支払いの心配は無用だぞ」
その言葉で僕の中の幸ちゃんはおもちゃを強請る子供から、お大尽様へとジョブチェンジする。
「なんでも好きなものをお会下さいませ、幸ちゃん様…」
「うふふ、八雲殿は面白い事を言うのだのう」
僕の反応に幸ちゃんはくすくすと笑みを浮かべる。
その後も店内を回り買い物を続ける。
「そういえば、家には乾燥機はあるのか?」
洗濯機のコーナーで幸ちゃんが聞いてくる。
「いや、洗濯機はあるけど、乾燥機はないね」
「では、乾燥機も購入しておくか、雨が続く時には洗濯ものが乾かせないのでな」
幸ちゃんは目星をつけた乾燥機に手を触れる。
「でも…家にある洗濯機は古いタイプだから…乾燥機を取り付けられないかも…」
「そうなのか、ならばこの際、乾燥まで出来る全自動洗濯機を買うか」
幸ちゃんは完全にお大尽様モードである。
結局、家電量販店では、65型のテレビにフーレムスティック、全自動乾燥洗濯機、もうすでに家にあるはずの炊飯器、ついでに食器乾燥機も購入し、スマホも最新のものを購入する。全てニコニコ現金払いだ。
「スマホの月々の支払いはちゃんと払うので、遠慮せず請求書を渡して欲しい」
幸ちゃんお大尽様はそう仰る。
「はい、分かりました…」
最初はスマホの月々の支払いで男気を見せるつもりであったが、ここまで家の家電を買ってもらった後では、そんな情けない男気を見せる事は出来なかった。
そして次にホームセンターへと向かう。幸ちゃんが真っ先に向かったのは調理器具のコーナーだ。ちなみに僕は幸ちゃんお大尽様の為にカートを押す係だ。
「あの後、どの様な食品を買い置きしているのかを確認しただけではなく、家にどんな調理器具があるのかも確認したのだが、鍋やフライパンが無いとはどういうことなのだ? 今まで本当に冷凍食品だけで過ごしてきたのか?」
「はい…ほぼ冷凍食品とカップ麺、パックのご飯とステラが漁をする小魚で暮らしておりました…」
僕は正直に白状する。
「あの小魚はステラがとっておったのか… しかし、豆アジをあのような食べ方をするのは初めて見たぞ… これからは私がちゃんと料理するから安心せよ」
「お願いします…」
実家にいる時も留学していた時も、自分で料理せずにずっと人任せだったからな… 正直幸ちゃんに食事を作ってもらえるのはありがたい。
そしてレジで膨大な量の品物の会計をする。支払いは幸ちゃんで、車まで運ぶのは僕だ。
「ふぅ…結構な買い物をしたね… 一度家に戻ろうか?」
「いや、このまま今日の食事の買出しも行うぞ、八雲殿、スーパーまで頼む」
「…イエス、マム…」
僕は偉大なる幸ちゃんお大尽様に敬礼して答えた。
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