第014話 家電のチェックとステラの衣服
ちゃっちゃと昼食を済ませた後、予定通りに僕は家電のチェック、ステラは自分の衣服の洗濯を行う事になる。
「さてと…」
僕が今まで避けてきたキッチンの家電と立ち向かう時だ。何故、今まで避けてきたのかと言うと、それはステラがキッチンで何かを料理しようとした痕跡の為である。パッと見、一見して何かやらかした痕跡のある冷蔵庫や電子レンジ、オーブンである。
元々、この家は祖父の遺品を整理した後、売り飛ばすなり解体するなりを考えていたので、キッチンの家電を再利用しようとは思っていなかった。
だが、いつまでになるか分からないが、祖父と一緒に暮らしてくれたステラが成仏するその日まで、ここで暮らそうと覚悟を決めたのであるから、短い期間かも知れないので家電を買い直すという選択肢はあまり取りたくない。
だから、確認してメンテナンスを行い再利用するつもりなのである。正直な気持ちで言えば、こんなぐちゃぐちゃになった家電など使いたくない。だが、買い直すというと結構な金額になる。
父であればその買い替えを負担してくれるかもしれないが、そこまで父に負担を掛けたくないし、僕も負担したくはない。
そんな覚悟で望むが、正直、最初の電子レンジで心が折れそうになった。
電子レンジの確認窓に、明らかに、何かが付着しているのが見えるのである。しかもちょっとやそっとの汚れではなく、まるで塗りたくったようにべっとりと…
僕は覚悟を決めて電子レンジの扉を開く。
「くさっ!! うわっ! めちゃくちゃくさい!!!」
電子レンジの蓋を開けた途端、何かの腐敗臭が一気に広がる。それも呼吸困難になるほどだ。
僕は急いで換気扇の紐を引き、この腐敗臭を外に追い出す。そして、息を止めながらすぐさまキッチンから離れてリビングの所まで逃げてから、息を整える。
「臭い…臭すぎる… 何をやったらこんな臭いが電子レンジの中から出てくるんだ…」
知らず知らずのうちに、僕は腐敗臭の為に涙目になっていた。臭いの爆心地から離れてもまだ落ち着かないので、手拭いを使って口元にマスクをする。
そして、確かめるような足取りで、一歩、また一歩と電子レンジに近づいていく。
素早く換気扇を稼働させたお陰で、キッチン周辺の悪臭汚染は緩和されつつあるが、やはり電子レンジに近づく度に、腐敗臭は増してくる。
そして、涙目になりながら腐敗臭を我慢して悪臭の爆心地である電子レンジの中を覗き込む。
「ん? 殻? これは…卵の殻の破片?」
電子レンジの中に卵の殻の破片を発見する。そこで僕はステラが何をしようとしていたかようやく理解をした。
ステラは電子レンジで茹で卵を作ろうとしたのである。恐らく、生卵を電子レンジで温めれば茹で卵が出来ると考えたのであろう。しかし、結果はこの通り、電子レンジの中で卵が爆発したのである。
その後、ステラは恐ろしくて電子レンジを開ける事が出来なかったのであろう…そして今に至る訳である。
「…説明を読み込んだり、人から話を聞かないと生卵が爆発するなんて知らないだろうしな…」
なんとかして生卵を茹で卵にして食べ物を確保しようとしたステラの事情も分かるので、怒るつもりは無いが、問題はどの様にして片づけるかである…
「…これは無理してキッチンで掃除しようとはせず、電子レンジごと外に持ち出して、洗うか…」
そう決めると、僕は電子レンジの蓋を閉め、コンセントを引き抜き、できるだけ体に電子レンジがつかないように持ち上げる。
そして、外へ持ち出そうと振り返った時に、二階から何か布の束を引きずって降りて来るステラを目撃する。
「ステラ…それは何を運んでいるんだい?」
「ん? これ? これは私の服」
そう言ってステラは引きずっていた布の束のような物を持ち上げて見せる。
「えっ!? それって…」
ステラが持ち上げて僕に見せたのは、アンティークドールが来ている様な豪華なドレスである。しかもフリルが一杯ついており、布地も光沢から察するに綿ではなくシルクに見えるとても高そうな代物だ。
「…それを…ステラが着ていたの?」
「うん、ジョージがいる時は着てたよ、でも、ジョージがいなくなって一人になってからは、自分で食べるものを取ったり、料理で火をつかったりしなくちゃいけないから、動きやすいジョージのワイシャツを着ていたの」
確かにあんな服装でバーベキューなんてしたら、火がドレスに燃え移って、今頃、ステラの焼死体…というか家が焼け落ちていたかも知れない…
それは兎も角、一般家庭の洗濯機であんな豪華なドレスが洗えるのか? いや、ここは冒険をするべきではない。あんな高価な物を洗おうとして台無しにしてしまってはステラが成仏しきれず悪霊になってしまうかも知れない…
「ステラ… それは洗濯機で洗うのは難しそうだから… こんど別な方法で洗濯しよう… それよりも他の服は無いのかい?」
「無いよ」
「一枚も?」
「うん、一枚も」
ステラはあっけらかんと答える。
「いやいや、一枚も無いって事は無いでしょ、寝る時も着替えなくちゃならないし、下着の替えも必要だろ?」
「うーん、この服を着ていた時はこの服のまま寝ていたし、ジョージがいなくなってからはジョージのワイシャツしか着てないし…」
「もしかして…下着を替えてないの?」
友人のスティーブが一週間同じ下着を付けていたことがあったが、女の子が…しかも祖父がこの家から出てから半年もの間、同じ下着をつけている事は考えられない…
「ん、替えが無いから履いてない」
「ぶっ! いや、履かなきゃダメでしょっ!」
ステラの見た目がいくら子供だといってもノーパンはマズイ。というか、今までノーパンでウロウロしていたのか…
「でも、替えの下着がこれしかないの…」
そう言って、ドレスに付随するかぼちゃの様なパンツ…確かドロワーズを掲げて見せる。そのドロワーズもフリルが一杯ついており、尚且つシルク製である。家庭用洗濯機でちゃんと洗えるかどうかは僕には判断がつかない…
「兎に角、履いてないのはマズイから、祖父のパンツでも履いててっ! 後、その服はちゃんとしたところで洗濯してもらうから仕舞っといてっ!」
「…分かった…」
そう言って、ステラは再びドレスを引きずって二階へと戻っていく…
ステラの普段着と…下着を何とかしてやらないと…
まだまだ色々と問題は多いのであった。
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