第012話 やっぱり悪ガキ
ステラには本当は何者なのか? 祖父とはどの様な生活をしていたのか? 祖父はステラの事をどの様に思っていたのか? 様々な謎と疑問がある。それらの謎や疑問についてステラから気のすむまで聞き出したい気持ちはあるが、それらのことはこれからのステラとの生活の中でおいおい聞いていくことにして、先ずは目についた疑問から尋ねていこうと考えた。
「ステラ、電気が通った時に充電…」
「ちょっと待って!」
僕が話をしようとしたとたん、ステラが立ち上がって僕の発言を制止する。
「えっ? なに?」
困惑した僕がステラに尋ねるがステラは先程、充電していた携帯ゲーム機の所に駆け出し、電源アダプターを取り外すと、そのまま玄関の方へと駆け出す。
「えっ?」
もしかして、逃げ出したのかと思ったが、ゲーム機の電源アダプターはコンセントの所に刺したままである。逃げ出すにしても携帯ゲーム機だけを持って電源アダプターを持っていかない事は無いだろう…
だが、僕は突然の状況を理解できず呆然としていた。そして、ステラの行き先が気になってその後を追おうと腰をソファーから浮かせた時に、玄関にほくほく顔のステラが姿を現す。
「えへへ~♪」
「えっと…ステラ…何しに行っていたの?」
僕は再び腰をソファーに降ろしてステラに尋ねる。
「ログインボーナスを貰いに行って来たの♪」
「ログインボーナス?」
理解不能な返答に僕は再び困惑する。
「そそ、この時間ならゲーム機持っていても、誰にも見つからないから、ログインボーナスを貰いに回線の繋がるところまで行って来たの♪ 何と、今日は新しいキャラをゲットできたんだよっ!」
そう言ってソーシャルゲームの可愛らしい女の子が描かれたキャラクター入手画面を僕に見せる。
「…回線が繋がる場所って…どこ?」
「隣の家の敷地~ 前は家の中でも繋がっていたんだけど、敷地の所まで行かないと繋がらなくなったの」
強張った顔で僕が尋ねるとステラはあっけらかんとした顔で隣の家の方向を指差す。
「…隣の敷地で…ネットに繋いでいるんだ… もしかして、ここが通電する前からその携帯ゲーム機の電源が入っていたけど…」
「うん、夜にこっそりと外回りのコンセントで充電してた」
再び悪びれもせず、隣の家のコンセントで充電していた事を自白する。
「ダメじゃないかっ! そんな事をしちゃ!!」
僕は立ち上がって声を上げる。
「えぇ!? でもだって…」
「でもだってじゃないよ! それは盗電に盗電波だよっ! しちゃいけない事なんだよ!!」
ステラと一緒に暮らして養っていく以上、子供でも…いやステラの様な存在に大人とか子供とかの概念が当てはまるかどうか分からないけど、犯罪行為をさせてはダメだ! ちゃんと、悪い事は悪いといって躾をしていかないと…
「ご、ごめんなさい… 家でも充電できるようになったから、もう隣の家で充電はしない… でも、ログインボーナスだけは隣の家の電波を使わせてっ!」
どうやら犯罪行為という事をまだ理解していないようだ…
「ダメ! 絶対にダメ! そんな事をしたらご飯抜きにするからねっ!」
「えぇぇぇ~ じゃあ、また自分で魚やザリガニを取らないとダメなの?」
これはダメだ…ダメな事はダメと教えるのと同時に、別の手段を提示してやらないと…
「ちょっと待ってね…」
僕はズボンのポケットからスマホを取り出して設定画面を操作していく。そして、僕のスマホ経由でネットにアクセスできるように設定する。
「これでスマホ経由でネットに繋がるようになったはずだよ」
「あっホントだっ! 繋がってる!!」
ステラはゲーム機の画面を見て確認する。
「これでもう、隣の家に、充電しにいったりネットに繋ぎに行っちゃダメだよ! 悪い事なんだから! 今度、悪い事をしたらお尻ぺんぺんだよっ!」
食べ物に飢えていたステラに兵糧攻めが効かなかったので、僕が子供の頃に両親にされたお仕置きをステラに提示する。
「えっ!? お尻ぺんぺん!? ジョージにもぶたれたことが無いのに!?」
そう言って両手でお尻を隠す。
君はどこのアムロ君ですか…というか、祖父はステラに対して甘々だったんだろうな…
家事手伝いにしろ、こういった常識にしろ、孫のような年齢に見えるステラが祖父には可愛く見えて、ちゃんと躾や叱ることが出来なかったんだろうな…
今後、一緒に暮らす僕がステラをちゃんと普通の生活が出来るように躾て、悪い事には叱ってあげないと…
妹の時は両親がいたし、妹自身も聞き分けの良い子供だったから良かったけど…ステラの場合は大変そうだな…
後、隣の家に、電気や電波を盗んでいた事も謝らないといけないし、引っ越しの挨拶もしないとダメだな… 挨拶にいく時は、お金をそのまま渡すのは受け取ってもらえない可能性があるから、通常よりかなり高めのお菓子でも包んでいこう…
「まだ…怒ってる?」
僕が頭を抱えて考え込んでいると、ステラが僕の顔色を伺うように尋ねてくる。
「もう、怒ってないよ」
「ホント?」
「本当だよ」
そう答えると、ステラは安心したように再びソファーに座る。
「ところでステラ」
「…なに?」
また、何か言われると思い強張った顔で答える。
「さっき、また魚やザリガニを取るって言ってたけど… 一人で過ごしていた時は、ずっとそんな食生活をしていたの?」
先程の発言や、リビングのバーベキューセットを片づけていた時の小魚の骨やザリガニの殻の事を思い出して聞いてみる。
「ジョージが家を出てすぐの頃は、買い置きしてあったカップラーメンや冷蔵庫の中を物を食べていたけど、すぐに無くなっちゃって、その後は水を入れてボタンを押すだけで炊けるご飯を食べてた、でもその内炊飯器も使えなくなっちゃて、生のお米をかじってた…」
思った以上に大変な生活をしていたようだ。
「でも、お米はそんなに置いてなかったから、いっぱいある小麦粉でジョージのようにパンを焼こうとしたんだけど…」
「あぁ…それがあのプライパンや鍋の成れの果ての姿か…」
バーベキューセットを片づけた時にみた何かが焦げ付いたフライパンと鍋の事を思い出す。あれは小麦粉だったのか…
「そう… 旨く焼けないから仕方なく、水で溶いて食べたり飲んだりしてた」
想像以上というか…過酷な状態だ…
「それで小麦粉も無くなったから、魚やザリガニをとっていたのかい?」
「いや…もう小麦粉飲むの辛くなってきたから…」
「…確かに僕でも小麦粉を水で溶いたものを飲むなら、魚を取って食べるな… ザリガニは…ちょっと嫌だけど…」
「えぇ~!? でも、ザリガニが一番美味しいんだよ? マヨネーズつけて食べるのが一番御馳走だった!」
僕はそのステラの言葉で、躾や叱る事よりも、一番まず初めにちゃんとした食事を与えようと決意した。
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