ニートシルキー ~僕とステラの不思議な生活~

にわとりぶらま

第001話 不思議な日常

 僕が目覚めて寝室から出て、一階のダイニングキッチンに向かうと、その階段を降りる途中から、目的地のダイニングキッチンより騒がしい声が響いてくる。


「これ! ステラ! さっさとゲームを止めて朝食をとらぬか!」


 黒髪和服の日本人形のような少女が割烹着を脱ぎながら、ダイニングキッチンとつながるリビングのソファーの上で、大画面の液晶テレビでゲームを続ける、金髪碧眼でブカブカのシャツを着込んだ、ぱっと見アンティークドールの様な少女に怒りの声を上げる。


「もうちょっと! もうちょっとだけだからっ!」


 金髪の少女は黒髪の少女に怒られても振り返りもせずに、ゲームを続けながら答える。


「何がもうちょっとだ! 昨日の晩からずっと続けておるのであろうっ! 我は食事の後片付けを済ませた後、ゆっくりとして八時より始まる『子連れわんわん』を見るつもりなのだ! さっさとせい!」


「えぇ~ そんなの録画して見ればいいじゃないの~」


 金髪少女は再び振り返りもせず、口をとがらせて不満げに言い返す。


「其方がそのようなつもりなら…いつぞやのように、電源を抜いてしまうぞ…」


 まったくいう事を聞かない金髪少女に、黒髪少女がドスを利かせた声で告げる。すると、電源を抜くと脅された金髪少女は、驚いたように一瞬で、背筋とアホ毛をピン!っと張り詰めたように伸ばす。


「セーブするっ! すぐにセーブするから電源は抜かないでっ!!」


 金髪少女は前に一度、10時間程掛けてレアドロップ収集していたのを、黒髪少女を怒らせてセーブする前に電源を抜かれた事があったので、慌ただしくゲーム内の戦闘を終了させ、急いでセーブポイントに向かう。


「ふぅ…なんとかセーブ済ませた…」


 そう言ってゲーム内でセーブを済ませた金髪少女はほっと胸を撫で降ろす。


「ほれ、ステラ、せいぶとやらは済ませたのであろう、さっさと朝食を食わんか」


「はーい」


 セーブを済ませ、テレビとゲーム機の電源を切った金髪少女は、座っていたソファーから立ち上がって、たたたと食卓テーブルに駆けていく。


 二人の騒動が終わって、姿を現しやすい状況になった僕は、自身の存在を二人に示す為、コホンと咳ばらいをしてから階段を降りる事を再開する。


「おや、八雲殿、おはようございます」


 黒髪の少女が僕の存在に気が付き、丁寧に座席から立ち上がって朝の挨拶をしながら頭を下げる。


「やくもぉ~ おはよぉ~」


 黒髪少女とは対照的に、金髪少女はテーブルにつきながら、子供っぽくこちらに手を振ってくる。 


「幸子、ステラ、二人ともおはよう、朝から元気だね」


 僕は心無し苦笑いを浮かべながら階段を降り切り、食卓テーブルへと向かう。


「八雲殿、今ご飯とお味噌汁を継ぐので暫し待ってくれ」


「ありがとう、幸子、ところでステラ、また夜通しゲームをしていたのかい?」


「うん、完璧装備を揃えたいからオリハルコンを集めていたの!」


 ステラはにっこりと微笑みながら答える。確かゲーム自体はクリアしていたはずなのに、そこまでやり込むのか…  


「八雲殿、ごはんとお味噌汁だ。今日のお味噌汁は豆腐と油揚げだぞ」


 そういって、黒髪の少女、幸子は僕の目の前にほかほかの炊き立てごはんと、鰹節の香りが立ち昇る美味しそうな味噌汁を差し出す。


「ほれ、ステラの分も」


 次に金髪の少女、ステラにもごはんとお味噌汁を差し出し、自分の分も配膳して席に着く。


「それでは朝食を頂こうか」


 皆の準備が整ったところで、僕は声を上げて食事に手を合わせる。


「頂きます!」


「「頂きますっ!!」」


 二人の声がハモって響く。


「さっちゃん! そこのマヨネーズとって」


 食事が始まるなりステラが幸子の目の前にあるマヨネーズを要求する。


「ステラよ、また其方は朝漬けにマヨネーズを掛けるつもりなのか? 朝漬けはサラダではないと何度も言っておろうが…」


「でも、美味しいよ、さっちゃんも一度試してみたら?」


「いや、我はその様な気色悪い食べ方をしとうない… 其方だけですればよかろう…」


 そう言って幸子はいやいやながらステラにマヨネーズを手渡す。


「ハハハ…」


 そんなステラの奇妙な食べ方に僕も苦笑いしながら食事を続ける。


「ところで八雲殿」


 幸子が僕に声を掛けてくる。


「なんだい、幸子」


「八雲殿は午後から時間があるか?」


「今日は日曜日で仕事は休みだから、時間はあるけどどうしたの?」


 僕はお茶を一口すすって尋ね返す。


「食材の買出しに行きたいのだが、またすぅぱぁとやらに連れて行ってもらいたいのだ」


「えっ!? スーパーに行くの!?」


 幸子のスーパーという言葉にステラが反応する。


「じゃあ、ちょこタマゴ買ってきて! ちょこタマゴっ! 英雄ユニバーシティーの奴! まだフルマイトが集まってないの!」


「ステラ、我は食材の買出しに行くといっておろうが、そのようなおもちゃを買いにいくのではないぞ」


「でも、さっちゃんだって、こっそりとちょこタマゴの角部屋くらしを集めてるでしょ…」


 叱られたステラは口を尖らせながら、幸子もこっそりと、ちょこタマゴを買い集めている事をばらす。


「い、いや…あれはじゃな…家事で疲れた時に糖分を取る為に買っただけで、その集めている訳では…」


 幸子はステラに言い返されて、少しキョドりながら答える。そんな二人のやり取りを見ていると自然と笑いが込み上げてくる。


「フフフ、分ったよ、二人の分のちょこタマゴも買って帰ろうか」


 僕が二人にそう告げると、二人の顔が花が咲くようにぱっと開く。


「いいのか! 八雲殿!」


「やくもぉ~! ありがとうっ!!」


 二人は声を上げて喜ぶ。


「じゃあ、さっさとご飯を食べて、午前中の用事をすませてしまわないとねっ」


 僕も笑顔で二人に答えた。



 さて、僕はこの様に、黒髪和服の日本人形のような姿の幸子と、そして金髪碧眼のアンティークドールような見た目のステラと三人一緒に暮らしているが、彼女たち二人は僕の妹ではなく、親戚や姪っ子でもない。将又、近所の子供を預かっているという訳でもない。


 そもそも、二人は人間ですらないのだ。


 では、人間ではないというのなら何だというと、妖精、もしくは妖怪とでも言うべき存在であろう。


 先ず、黒髪和服の日本人形のような少女の正体は、日本の妖怪、座敷童という存在で、もう一方の金髪碧眼のアンティークドールのような少女の正体は、西洋の亡霊というか妖精のシルキーだ。


 だが、シルキーは本来、古い家に現れる女性の姿をしており、シルクのドレスを着た家事を手伝う存在と言われているが、ここにいるステラは男用の綿のワイシャツを着ており、年齢も女性というか、中学生になるかならないかぐらいの少女で、そして、シルキーの一番の特徴である家事手伝いを行わない。


 近年、家事を行う家電道具が増えたので、人手を借りるほど家事に労力を掛ける必要がないが、ステラは人手がいるいらない以前の問題で、一日中、ゲームをしているかゲームに疲れて寝ているかのどちらかである。


 つまり、世にも珍しい…ニートなシルキーなのである。


 この物語は僕と不可思議で奇妙な存在シルキーのステラと座敷童の幸子との数奇な出会いと、そのおかしな生活を綴った物語である。


 では、これからその二人の出会いについて語って行こうと思う…



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