第3話 生まれて初めての体験
まだ、人と話すことに慣れていない私は今回もしどろもどろだった。
「あるには、あるけど、早く夕飯作らないと遅くなるし……」
「少しだけ、うちに寄っていかない? 見せたいものがあるんだ」
断る理由がなかった。初めて人と放課後にどこかに出かけるという経験。喉から手が出るほどやりたかったこと。こんな私でも体験できるんだとドキドキした。しかも同級生の男の子の家。別に彼氏でもなんでもないけど、岩田君だからソワソワするのだろうか。
岩田君の家に行くと、お母さんが出迎えてくれた。彼女もまた、私のことをじっと見つめてにこやかに挨拶してくれた。なんだか魔法がかかったみたいに身体が治ったのかもしれない、そんな風に思ったけど、玄関脇の鏡に映る顔はいつもの醜い顔だった。夢かもしれないと頬をつねる必要すらない現実の姿を映し出していた。
「これ」
ダイニングのテーブルに招かれてちょこんと座ると、岩田君がアルバムを持ってきた。
私のように、皮膚が炎症でボロボロになっている男の子の写真だった。
「三年生の時の俺。転校が多かったから、ストレスだったのか急にこんな風になった時期があって。その時にクラスのやつらに陰で半魚人って呼ばれてた。だから、吉川さんが半魚人って呼ばれていたのを許せなかったんだ」
「治ったの?」
信じられなかった。写真の中で不機嫌そうにしている小さい岩田君は、今の面影がまるでなかった。私の小さい頃、と言った方が、あるいは信じてもらえたかもしれない。
「うん、治った。うちの母さんが、色んなこと調べてくれて、色んなことさせられた。嫌だったことも沢山あったよ。まずいものもあれば、好きなお菓子とかも食べちゃダメとか言われたりして、やめたいこともあったけど、良くなったんだよ」
「私も、岩田君みたいになれる……?」
「それは確約はできないけど……」
それでも可能性が1%でもあるならすがりたかった。時々、岩田君の家に寄って、彼のお母さんと肌のことを一緒に勉強する約束をして、家に帰った。岩田君の家からの帰り道の夕日は、いつもに増して輝いていた。
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