私は勇者に下賜される我儘王女である~ならば私が勇者になります~
桃月とと
第1話 賞品
私はアリステリア王国第1王女のリディアナ・アリステリアである。王である父、優しく美しい母、妹が2人に弟が2人の5人姉弟だ。この世界では大国の部類に入る我が国は、長い間平和な時代を謳歌していた。
妹たちは既に優秀な父の部下や、他国の王に嫁いでいるが、私は18歳になっても縁談が決まらない。
どうやらあちこちで『ガサツな我儘王女』と噂が立っているらしい。
(噂っていうか……否定はできないな……)
その噂の原因はわかっている。私は前世の記憶を持っているのだ。こことは違う、魔法ではなく科学が発達した世界。剣と魔法の中世ヨーロッパ風異世界の価値観に合わせるつもりは毛頭なく、そのくせ今世の王女という立場をいいことに、主張! 主張! たまに実行! した結果、鬱陶しがられているのだ。
「リディアナ! また兵の練習場に潜り込んだらしいな!?」
「ダメですか?」
「自分が王女だとわかっているのか!? 王女が剣や魔法の訓練をするなんておかしいだろう!?」
父であるジェフリー王は顔を真っ赤にしているが、まあいつものことなので私には響かない。父が見ていない隙にベロベロバーをする精神年齢クソガキである。人生2回目だろうが人間なんてこんなものだ。
王である父は前から家族を政治の道具としか見ていない。それはまぁ父の立場を考えれば仕方のないことだ。不満こそあれ、そのことに私は傷ついたりはしないが、下の妹と弟が時々寂しそうに笑うのが嫌なのだ。もっとうまくやれよ、と思うのである。
だから私は生まれた時から反抗期だ。
「どうしてです? 歴代の王女の中には兵の一員として魔王を倒しに出兵した方もいらっしゃいますし。別に王女だからといって武を磨いて悪いとは思いませんが」
「今はそんな時代ではない! ダメなものはダメだ! だからいつまでも結婚相手が決まらないのだろう……」
父は大袈裟に嘆いて見せる。
(それが狙いなんじゃん)
今の立場じゃ堅苦しい相手と結婚が決まってしまう。これ以上窮屈な生活はしたくない。ならば才能を生かして自立した生活を送りたいのだ。端的に言えば、1人で生きていきたい。王女としてではないく。
(前世だったら褒められこそすれ、こんなに怒られることはないのにな~)
前世の方が自立したいなんて思わなかった。働かずに給料が出るなら万々歳だとどれほど思ったか。だが女王として生まれ育ち、身に着けているもの全てが国民からの税金だと思うと、豪遊する気にはなかなかなれない。
(給与明細の税金の欄を見て毎度イラついたわよね~……)
社畜として馬車馬の如く働いていた前世の日々が今は懐かしい。
「聞いているのか!!?」
「はーい。聞いてますよ~」
その後はこのふざけた態度についても雷を落とされ、あまりにも興奮状態の父の為にお偉い家臣まで出てきてなんとか落ち着かせていた。
母も母で私の顔を見てため息を吐く。
「せっかくこんなに美しく生んだというのに……」
「いやはやまったく……それには感謝申し上げます」
おかげさまで母に似た白銀の真っ直ぐな長い髪と、父譲りの高貴な紫色の大きな瞳を持つ今世の私は、本当に見た目だけでそれなりに食べていけそうなくらいだ。下の妹弟達も軒並み見た目が美しいので、国内外から婚姻を結びたがる声は後を絶たなかった。悪評の目立つ私を除いて。
(まぁでも、王女で美人で剣も魔法も才能があるって設定盛り過ぎ!)
これだけあってもまだ自由に生きることが難しいのだから、異世界も大変だ。
「姉上は少し父上達を舐めすぎです。あまり調子に乗ると痛い目を見ますよ」
だが末の弟から呆れながら言われた言葉が、その内現実になるとは思ってもみなかった。
父の怒り爆発からしばらく、何故か兵達の訓練に参加しても父や教育係から怒られることはなかった。理由が気になりはしたが、これ幸いとばかりに乗馬の練習に手を出したり、自分専用の剣や防具をあつらえてもらったりとやりたい放題に過ごした。
(ついに諦めてくれた!?)
それがただのぬか喜びであることはすぐにわかることになる。
「魔王が……復活した」
集められた私達に緊張した顔で父が告げた。
魔王は約1000年前、この世界の1/3を支配下に置いた魔物のボスである。こいつの何が厄介かというと、存在するだけで同族である魔物に力を与えてしまう。たとえ離れていても。その為魔王復活後すぐに各地で魔物達が暴れ始めたのだ。長らく平和だった我が国は後手後手の対応になってしまっていた。
(大変なことになっちゃったわね……)
まさか自分が生きている間にこんなことになるとは。おそらくそう思ったのは私だけではないだろう。
魔王が復活して数か月経っても状況は悪くなる一方だ。各地の治安は悪化し、今日も犠牲者が。
「お父様! 私も討伐へ行かせてください! 魔王とはいいません。せめて近隣に出る魔物だけでも……!」
そのくらいなら私だって役に立てる。何より得意分野だ。私がやらずに誰がやる!
「……お前にはお前の役目がある」
何やら意味深な言葉を吐いて、父はそそくさと去って行った。
「勇者はまだかって話が出始めているようです」
1つ下の妹が教えてくれた。彼女はこの国の若き宰相とすでに結婚している。色々と市井の情報も入ってくるらしい。
人々は望んでいたのだ、1000年前と同じように勇者が現れるのを。
「ということだ。お前を魔王討伐の褒美にすることにした」
「は!?」
王の間で突然告げられた事実に叫ばない王女がいるだろうか。
「はぁぁぁあぁ!!?」
どうやら私のいい利用方法があったと気が付いたようだ。父はとても満足そうな顔をしている。やっと生意気な娘に一矢報いることが出来て気分がいいのだろう。
「なぁにが、ということだ。ですか!? そんなこと承諾した覚えはありませんが!?」
「そんなものは必要ないのだ。何故ならお前の父はこの国の王だぞ!」
今度は父にベロベロバーをされている気分だ。
(このクソオヤジィィィ!!!)
「それに、魔王を倒すほどの勇者であればお前も満足であろう?」
「なんでですか!?」
「だって前に言っていたではないか。『私より弱い殿方はちょっと……』って」
(い……言ったけどっ!)
以前他国の王子と結婚させられれそうになった時に言った言葉だ。だまし討ちでお見合いをさせられたが、相手の武功自慢とナルシストぶりに嫌気がさしたので軽く揉んでやったのだ。
(あの時は外交問題にならなくって本当によかった……)
相手の王子が、あまりのぼろ負けっぷりが恥ずかしかったようで、この話を口外しない約束でなにもなかったことになったという過去がある。
いや、それよりも気になることが。
「逆効果じゃない!?」
「む? 何がだ?」
「私の噂です! 我儘王女っていう!」
だが、国の役人たちはこんな日に備えてあらかじめ策を練っていたのだ。
『穏やかで愛らしく大変美しい第1王女様は、お父上であられる王に溺愛され、嫁にも出さず手元で大切にされている。我儘王女と噂を流してどこにもやらないつもりでいるらしい……』
そんな噂を国内外に流していた。噂を上書きしたのだ。
「いつの間に……!?」
「フハハハハ! あまり親を馬鹿にするでないぞ!」
大変な時期だというのに、父はとても愉快そうに笑っていた。国難のレベルがヤバすぎでストレスたまってるんだな……なんて考えるとちょっと同情する。
この噂によって、実際の私に会ったことがある人以外は、いったいどんな姫だろうと想像を膨らませあっちこっちでたくさんの勇者候補が誕生した。
「でかした!」
生まれて初めて父が嬉しそうに私を褒めたたえた。勇者志望の冒険者が増えたおかげで各地の魔物の討伐数も増えている。
「やばっ……いよいよわけのわからん男と結婚させられる……!」
焦った私が出した結論は1つ。
「私が勇者になればよくない?」
ぽんっと手を打った。我ながらいい考えだ。
「そうなれば私は自由よ!!!」
またとないチャンスだ。自分と結婚する権利を自分でゲットすれば、もう私が何をしても父は文句を言えないだろう。
そう決めた翌日、私は城を抜け出した。置手紙だけ残して。
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