ピース3


一緒に暮らす事によりホストを辞め

彼女も風俗を辞めて働きだす


穏やかに過ごす日々の中二人は結婚を意識しだし

将来を語り合っていた


そんなある日突然彼女が癌になってしまう

入院も長くなったが手術の末退院出来るようになる

術後も良好で二人は再び未来に向けて進みだす


順風満帆に見えた生活であったが

再び彼女に前回とは違う場所に癌が出来てしまう

今度も手術で治ると思っていた渡良瀬であったが

彼女は手術を拒否し、薬での治療を望む


そして渡良瀬が残業をしていた時に電話がなる

彼女の妹からであった


姉が今大きく息を吸って

そのまま息を引き取りました・・・と


もちろんお見舞いも頻繁に行っていて

経過は良好と聞いていたが

容体が急変し、家族が呼ばれたようだった


自分がもしダメになりそうな時は渡良瀬ではなく

家族を呼んでくださいと看護師に内緒でお願いしていたようだった


姉が最後に言っていた事として

前回の手術後かなりの痛みがあった事

生命保険などに入っておらず渡良瀬に手術費用など

殆ど出してもらっていたので今回の費用の事もあり手術を断った事

弱っていく自分を好きな人に見られたくない事

自分の死が重荷にならないように葬式には来ないで欲しい事

自分の事は忘れて、好きに生きてほしい事

そして本当に愛していた、幸せだったと・・・


涙は出なかった

感情のすべてがなくなっていた


何分経っていたかわからないが

電話越しに彼女の妹は待ってくれていた


そうですか・・・と電話を切ろうとしたが

一つだけ最後のお願いを聞いてください

彼女がお墓に入ったら1度だけ・・

1度だけお墓参りさせてくださいと

お願いして電話を切った


そして仕事中に

妹さんから連絡がくる


仕事は早退し、ろくに用意もせず墓地へとやって来た

ここへ来るまで、本当は嘘なんではないかと思っていた

自分を驚かせる為の嘘なんじゃないかと

普通に生活をしていれば

突然玄関が開き、ただいまーと言って帰ってくると


しかし墓石には彼女の名前が彫られていた

ああ、なるほど

彼女は本当に死んでしまったのか・・・


そう受け入れてしまった時

口から出てきた最初の言葉は

ありがとうだった


手を合わせ目を瞑ると

彼女との日々を思い出す

幸せだった日々

彼女の最後の言葉

そして自分への願い


先に行ってるから、ゆっくり楽しんでからおいで

そんな風に笑ってる彼女が見えた気がした

彼女ならきっとそういう風に言うだろう


タバコに火をつけ、一度大きく吸い吐き出す

煙が空へと向かい上っていく

今までありがとうという気持ちと共に

線香がわりでごめんな

急いでて買って来るの忘れたから

これでゆるしてなと1度だけ吸ったタバコを置いて

その場を去る


どこからか、まったくもう・・と聞こえた気がした








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