第3話 憑代ギン


「この子はね! あたしの一番弟子の憑代よりしろギンだよ。14歳の男の子。ギンって呼んであげてね」

 幽世エマ、えっへんといった感じで、それも意味不明な自信ありげに、その14歳の男の子、憑代ギンの肩に手をのせて、まあお姉さんぶった感じで御山ウネビにそう言った。

「……はじめまして。御山ウネビさん」

 ギン、ウネビに礼儀正しくお辞儀をした。

 性格は良さそうだ。でも、ちょっとおとなしい感じかな?

「ちなみにさ、あたしは17歳だからね」

 聞いてない。

「俺も17歳の高校生だ。同い年……って、そんなこと聞いてない!」

 ウネビ自身のツッコミである。


「そうそう! ウネビは伝説の盾治の言霊使い! 位はね……」


 八百万神族稲荷大明神盾治見習いの旅人

(やおよろずのかみぞく いなりだいみょうじんじゅんち みならいのたびびと)


 だから、なげ~よ。

「す、すごい! エマ姉さん、とうとう見つけたんですね! 伝説の盾治じゅんちの言霊使いを!」

 ギンが物凄い笑顔をエマに見せて言った。

「ええそうよ、あたしがわざわざ遠い日本という国に行って、探し回って見つけて来たんだから!」

 その笑顔がかなり嬉しかったのか、まあ長達からさんざんコケにされて、ほとんど期待もされずにその伝説の言霊使いを探しに行けって(しかも自費で)言われて。

 それで見つけることが出来たんだから、エマもこの時ばかりと喜んでいる。


「……おいエマ?」

 その二人の歓喜に横槍を入れるかのように、ウネビがエマの肩をチョンチョンと突いて話し掛けた。

「はいな!」

「位ってのはなんだ?」

 さっきの漢字が連なっているのが位である。

 で、それはウネビの位であるらしい。エマがそう言った。

 だから、ウネビは疑問に思ったのだ。

「ああ、ウネビのこの世界での肩書きみたいなもの、あたしが名付けた!」

「名付けた?」

 あっけらかんとしたエマの返事に対して、ウネビが眉をひそめる。


「今決めたの!」

「……おい、勝手に決めるな」

「そうじゃないってウネビ。この位ってのはね、こっちの世界では言霊と同じくらい重要なんだから」

「説明しろ……」

「言霊使いってのはね、言霊を言うことによって神族から力を得るってのは……」

「それは聞いた」

 ウネビの表情が真顔になってくる。

「……あはは。その言霊使いに霊力を宿すためにはね、位のある者からその資格を得るの」

「どういうことだ?」

「つまり、位のある言霊使いだけにしか、神族からの力は得られないってこと」

 ああ、そういうことですね。

 RPGの定番でよくあるやつですね――


 冒険者の集うお店で仲間を探したのはいいものの、まだジョブが未設定の段階で、これから神官のところへ行って――なんかいいジョブを貰ってきますっていうやつ。

 つまり、ステータス画面に魔法使い見習いと表示されていないと、魔法が使えないし覚えられないっていうRPGのお決まりです。


 しかし、そのお決まりよりも、ウネビは別のことに疑問をもっていた。

「……その位を、どうしてエマが付ける?」

「ま、まあ位ってのは格好をそれなりに身につけるための肩書きでしかないし、結局なんでもいいんだよ。先輩の言霊使いが後輩へ名付ける」

 なんか、エマが焦っている?

 ああ、そういうことか。あんた、喜びの延長線上でアドリブで、……勢いでその位をつけたんでしょ……?


「お前が俺の先輩? もう一度聞くけど先輩?」

「はいな、はいな、はいなー! 」

 なんか納得がいかなかった。なんでレベル1の言霊使いが俺の先輩なんだ? ねえ、そう思いませんか?

 いや思うよね?

 レベル1って誰でも倒せるんだぞ。

 武器を持たなくても素手で倒せるモンスター並みのこいつが、俺の先輩って。

 スライムだぞ、こいつは。


 でも、ここは我慢する。みんな一石二鳥を思い出そう。

 しっかりと俺は思い出すことにした。

 ここは打算だ。

 幸い。歳は同じだから我慢できる範囲内だ。我慢しよう。


「姉さん姉さん、エマ姉さん。本当にすごいですよ」

 ギンはまだ喜んでいた。

「あはは~! ギン! あんたもあたしの一番弟子だったら、早くあたしみたいに活躍しなさいな!」

「はい! エマ姉さん!」

 おいギンよ、もしかして……お前は騙されているんじゃないか? 気が付こうね。

 こいつは見栄っ張りで虚勢を張っているだけの、ただのダメダメ言霊使いだぞ。


「ウネビさん! 凄い伝説の盾治と、こうして出会えて話が出来るなんて。ねえ、今までどういう修行をなさってきたのですか? 僕参考にしたいから、ぜひ教えてください」

 俺を見つける目が輝いている。

 ……この憑代ギンという男の子、はっきり言って純粋無垢だ。

「すごい! これが伝説の……」

 うわーって、こっちを凝視するなって。実は俺はウソをついているのだから。ダメな男なのだよ。

 俺は本当は伝説の盾治の言霊使いじゃないのだから……。ただの日本人なんだから。

 そこにいるお前の師匠のエマに、無理矢理に拉致されて連れて来られただけなんだから。


「伝説の盾って、こういう形なのですね、ウネビさん?」

 ギンのくいつきは続いている。

 だから違うって見りゃ分かるだろ。これはリュックだ。

 でも、こっちの世界には多分リュックなんてないんだろうな。


「ああ、そうか! 言霊を使う時に盾に変形するんでしょ? 凄いです!」


 何がすごいんだ? そんでもって、どんだけポジティブなんだ?

 憑代ギン。お前は無垢すぎるぞ。




       *




「じゃあ早速だけど、ウネビ」

「なんだ?」

「あたしとウネビで、チャチャっと闇蔵を倒しに行きましょうか!」

 神官のところでジョブをつけて、セーブポイントでセーブして、さあこれからっていう場面である。

「……ところでエマ」

 ウネビが手をあげてエマに質問する。


「はいな?」

「その闇蔵っていう破門言霊使いは強いのか?」

「ええ。闇蔵は地獄を守る言霊使い。闇蔵の扱う炎はすべてを灰にするんだから」

 その質問にエマはしっかりと答えた。ものすごく危なっかしい内容だけれど。


「あたしたち、言霊使いが追っている破門言霊使いの親玉のあいつのしもべ。闇蔵ってそういうやつだから覚えといてね」

 どう考えても危ない敵みたいだけれど、エマはそれでも明るい口調で、更に質問に答えていく。

 俺は想像した。

 ……ああラスボスみたいなやつの、中ボスみたいなモンスターか、と。

「もともとはあたし達、稲荷大明神の神族に属していたんだけどね……」

「地獄の使いが?」

「ええ、稲荷大明神の言霊使いはこう見えても津々浦々、どこにでもいるんだから。日本にも稲荷大明神を祀っている社がどこにでもあるでしょ? あれと同じ」

「……なるほど」

 一応、なんとなく納得することにした。

 それにしても、こっちの世界にも地獄ってのがあるんですね。

 地獄ってのは八百万じゃあないと思うんだけど。


「で、でも、そんなやつ倒せるのか?」

 質問が核心に近付いていく。

「勿論! 闇蔵が扱う炎は強力だけど、それさえ防ぐことが出来れば、あとはあたしのほこで一撃!」

「その炎を……どうやって防ぐの?」

「そのために! ウネビをここに連れてきたんじゃない! その盾でディフェンスよろしくね、ウネビ!」


「へえ、そ~なんだ。この盾が。うわ~、そりゃ頑張らないと~」

 俺の内心……どうしよう。今のうちに言っとくべきなのか?

 これはリュックと言って、荷物をこの中に入れて背負って歩けば楽ですよ~っていう旅の必需品。

 盾じゃないんだって、今言うべきかな。

 エマ落胆するかな?

 どうしよう? どう言おうか?


 その前に、もう一つだけ俺の頭の中に疑問が残っていた。

「……ところでなんで闇蔵がラスボス側に寝返ったんだ。稲荷グループに居続けても問題なかったんじゃ?」

「まあまあ……それは置いといて」

 エマが言葉をにごした。

「まあまあ……、とにかく、ウネビのその盾があれば、チャチャっと倒せるから心配しないでくださいな!」

 そう言って、きつねポーズを俺に見せた。


「ギン!」

「はい、エマ姉さん」

 あっ、質問から避けた。

「早速! 闇蔵は何処に行ったの? あたしが日本へ行っている間にも、あいつの悪さをしてたんでしょう。ったくしょうがない闇蔵ね! 食い物の恨みは恐ろしいっていうけれど、でどこ? さあ、教えてくださいな!」


 ……エマ姉さん。さっきから後ろにいます。


「死ねーい! 幽世エマ!!」


 俺は後ろを振り向いた。

 エマも後ろを振り向いた。

 振り向いたらそこに中ボスがいた。

 闇蔵がいた。

 奈良の大仏×牛みたいな姿をしている。

 まさに中ボスみたいだった。


「ははーん!」

 エマはそう言って、闇蔵が振り投げてきた拳を、ひょいと身軽にかわした。

 すかさず!


 ドガーーン!!


 闇蔵の拳が地面をえぐって、物凄い轟音を響かせた。

「おい、幽世エマ」

「は、はいな!」

 闇蔵がエマを睨み付けている。

「お前、今まで何処に行ってた?」

「ど、どこだっていーじゃないさ!」

「よくないぞ、お前。だいたいお前……」

「はいはい、はいなー! ほ~んと食い物の恨みは恐ろしいって、このことね闇蔵!」


 食い物の恨みって?


「死ねーい! エマ!!」

 再び闇蔵が拳を振り上げて、それをエマに目掛けてパーンチ! してきた!

「あたしは死ななーいって!」

 その拳を、エマは再びヒョイと身軽にかわす。

 またまた、


 ドガーーン!!


 闇蔵の拳が地面をえぐって物凄い轟音を響かせる。

 ――睨む闇蔵、んで、


 ……何故だか、闇蔵と視線を合わせようとしない幽世エマ。


 ここまでをまとめると、つまり、いきなり戦闘が始まったのである。

「あんたの拳なんて、所詮この程度の攻撃力しかないんだから、身の程を知りなさい! 闇蔵!」

「黙れ! エマ! お前のせいで俺は……」

「あたしのせいで破門されたとでも言いたいの? とんだ言いがかり。闇蔵、あんたから望んであたし達と……言霊使いと決別したんじゃないかしら? それをあたしのせいにする。あんたバカじゃない?」


「……お前だけは許さん。だから死ねーい!!」


「ちょっとちょっと、先攻の次は後攻の攻撃なんだから……ちゃんとルールを守って……よ…ねっ!」

 エマがそう叫ぶなり、両手を胸前に合わせて合掌。

「あたしは八百万神族稲荷大明神矛治の巫女、幽世エマ! 冷めた揚げとは破門言霊使いの闇蔵、お前のことだ!あたしとの手合わせ? 婚活婚礼の前に受けて立つぞ!」

 目を閉じて両足をバッと仁王立ちスタイル!

 そして、神経を集中させて言霊を言い放つ!



 こんがり揚がった揚げがたりない 困ったあたしは神頼み

 霊魂遺恨の言霊使い お前が食ったか食われたか?

 なになに あたしと手合わせしたい? 揚げの恨みは根比べ

 あたしは合掌いただきますと 今度来るときゃ揚げをくれ!



 ――幽世エマの身体が光りだした。

 なんで光り出すのかは……原理は分からないけれど光っている。

 エマは合掌していた両手をゆっくりと広げて……その両手の間から何かが召喚されてくる。

 武器だ!

 幽世エマはそれをまるで“三国志の武将”のように、縦横無尽にビュンビュンさせた。


「さあ闇蔵! かかって来ん“コン”か!」


 闇蔵に向けて立つ。

 両手に持つその武器はほこだ!

「さあ闇蔵、今度はあたしが攻撃する番だからね。覚悟しなさい!」

 エマが闇蔵へ飛び掛かって行く。

「おい! エマ! 俺を見くびるな!!」

 今度は闇蔵が、胸前で両手を合わせて目を閉じて言霊を言う!


「俺は――」


 八百万神族阿鼻地獄炎鶏使い筆頭

(やおよろずのかみぞく あびじごくえんけいつかい ひっとう)



 地獄に落ちて道に迷って 三途の川では六文落とす

 神明無名の言霊使い お前はどうして泣いている?

 なになに 俺を成敗できない? 鬼が笑うよ鬼門愚問

 正月明けても おとそが抜けない そんなお前を食ってやる!



 ――今度は闇蔵の身体が光り出した!

 相変わらずどうして光るのかは、分からないけれど光っている。

 闇蔵は口を大きく開けた!

 なんか口の中が明るくなってきているぞ? ……ああ、これが例の炎なんだろう。

 この炎にエマは手こずって……そんで俺を見つける旅をして日本へ。

「闇蔵、覚悟しなさいな!」

「死ねーい! 幽世エマ! お前には、この炎は防げまい!!」


 ヴオーーン


 っていう感じに……まるで“ヤマタノオロチ”が火を吐くように、エマ目掛けて闇蔵が炎を吐いたのだった!

「あ、やっぱ無理……」

 急転直下――

 エマが引き返して? こっちへ来るぞ。


「やっほーウネビ! じゃあ、あの炎をよろしくね♡」

「意味が分からん……」

 俺は心の底から言った。

「言ったじゃない! あの炎を防げるのは、ウネビの背負っている盾だって。じゃあ改めて御山ウネビさん、よ・ろ・ぴ・く・ね!」

 エマが言うと、なぜか胸の前で両手をハートにして、メイド喫茶のメイドの萌えポーズをした。

 どこで覚えたんだ?


「だから意味が……」

 そう意味が分からないのだ。

「あいつはね、一度口から炎を吐いたら、しばらくは吐いてこないから、ウネビが炎を防いでくれれば、後はあたしがあいつを成敗することが出来るの!」

 なんなんだそのシステムは?

 どこかのRPGでキャノン砲が発射されるまでカウントダウンされるから、そのスキに魔法使いの魔法で、出来れば電撃系でやっちゃってくださいな!

 っていう感じの、そのシステムは?

「へえ~。ああ、そうなんだ……、じゃあ、いっちょ俺が……」


「って、無理だよ! 俺には!」

 無理ですよ。

 ただの日本人で……そんでもって極度の人見知りの俺には。

「無理無理!」

 言ってやった。

「無理じゃないってウネビ! ウネビの背負っている盾を使えば、ウネビのその盾は無敵なんだから防げるって!」

 エマが熱意を込めて俺にそう言ってくれるけれど、……でも無理でしょ。

 普通に考えて――


「エマ姉さん! ウネビさん! 炎が!」

 俺とエマに向かって走ってきて、そんでもって体当たりしたのは憑代ギン。

 ギンの体当たりの反動で俺たちは吹っ飛んだ。

 その後、俺達がいた場所へ闇蔵の炎がヴァーって火を噴いたのだ。


「チッ!」

 闇蔵の舌打ち。


「ギン! こ、こら闇蔵! 危ないじゃないの!」

「バカかエマ? 俺はお前を許さないって言ってるだろうが!」

「ちょっと闇蔵! だまっててば!」

 エマが慌てているのは自分の一番弟子である憑代ギンのことを思ってである。

 ウネビとエマを体当たりして闇蔵の炎から守ったギン。

 けれど、守ったはいいけれど、肝心のギンに炎が迫って……。

 でもね、ギンもその炎を上手くかわしたんだな。


「闇蔵! エマ姉さんの前に僕が相手をしてやる! よくもエマ姉さんを困らせたな!」

 君は素晴らしい弟子だよ。

「ギン! 落ち着きなさい! あんたがかなう相手じゃあないんだからさ!」

 その弟子を諭す師匠。これを師匠らしいと言ってもいいのかもしれない。

「エマ姉さん! いいえ師匠! ここは僕にまかせてください!」

「ギン! あんたには無理だって!」

 冷静に考えれば師匠が逃げている炎を、弟子である君がかなうはずないのだけれど。

 今度は憑代ギンが両手を合わせた。

 その後に続くのは、もちろん言霊だ!


「僕は!」


 八百万神族稲荷大明神弓治見習いの禰宜

(やおよろずのかみぞく いなりだいみょうじん きゅうちみならいのねぎ)



 ほくほく揚げをつまんで食べてりゃ とんびにさらわれ驚いた

 霊魂遺恨の言霊使い とっぴな物言い勝敗無敗

 なになに僕と手合わせしたい? こんな僕にも雨が降る

 僕は柏手春よこいこい 初恋目覚めて浮世月



 憑代ギンの身体が光りだした!

 両手をゆっくりと広げて、出てきたのは勿論武器! それは弓だった!


「バカか小童こわっぱが! 死ねーい!」

 闇蔵の拳がギンに目掛けてブッコんでくる!

「あぶないって、ギン!」

 弓を引くギンへ闇蔵の拳が! ――しかし、エマがギンに覆いかぶさって、すかさずとんずら。

 結局、逃げの一手か?

 んで、そこら辺の岩陰に身を隠して、間一髪で闇蔵の拳をかわすことができたのだ。

「だ、だから危ないじゃない闇蔵ってば!」

 その岩陰から体半分くらい身をのりだして、エマが闇蔵へ猛抗議!

「バカなのか? エマよ! だったら、その小童を俺の前に差し出すな!」

 見ると闇蔵半笑い……。

「だ、だれも差し出してないじゃない。あんたこそバカじゃないの??」

 岩陰からエマの反論。


 俺はというと……。

 身を隠す暇もなくって。さっきからずっと野原に突っ立って……つまり相手にされていない?

「もとはといえば幽世エマ! お前だろうが!」

「は~? だからさ、あたしじゃないってば!」

「ウソをつくな!」

「ついてないってばさ!」


 戦闘が膠着状態? いったいなんなんだ?

「え、エマ姉さん……」

 ギンが岩陰で倒れている。さっきの場面でちょっと足を痛めたみたい……。

 何もしていないのにね。

「……エマ姉さん」

 おいたわしいぞ……。


「ウソをつくな!」

「ついてないってばさ!」

 ……こいつらまだ言っているし。

 俺は幽世エマの肩にチョンチョンっとして。

 こっちに振り向いたエマに聞いた。

「エマ。ところで、あいつが暴れている理由って何なの?」

 そしたら、エマ……なんて言ったと?


「……揚げがたりないって」


「揚げがたりない?」

 俺は再度聞き返した。

「揚げがたりないって、どゆこと?」

「……あ、あたしがあいつの揚げを摘まみ食いしたから、だから、あいつが怒って」

「怒って??」

 俺は聞く……。


「あ、あいつの晩御飯のきつねうどんの揚げをさ……、あたしが」

「あたしが?」

「……あ、あたしが食べたの。だから闇蔵が怒ってさ」

「……怒ってさ?」


「は、はいな……」

 幽世エマの……今までで一番弱っちい返事だった。


「……おい! だったらあいつが凶暴化した原因て、お前じゃないのか?」

「そっかな……」

「ああ、そっかなでしょうか!」

「…………」

 無言になった幽世エマ。

「幽世エマさん……、なんとか言いなさいな!」

 俺はキレる。そしたらこいつ……、

「まあ……揚げだけに、お手上げ~かな?? てへっ♡ 」


 おいおい。この場面……笑い事じゃないってば!!





 続く


 この物語は、フィクションです。

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