第68話 完全決着!?

「ぬおっ!ぐおっ!何だこの光の縄は!?俺の全力でもビクともしないだと!?」


 何とか拘束を外そうと身をくねらせている熊。

 しかしその体に巻き付いている魔法の縄はびくともしない。


「諦めろ……。これは私にも外せないんだ……」


 早くも諦めの境地に達してしまったお父さんは、それ以上足掻くことを止めて大人しくなってしまった。

 成程、この引き際が夫婦生活を円満にする秘訣なのかもしれない。


「お、おい!諦めるな!!アレはお前のつがいなのだろう!?何とか説得しろ!!」


「それが出来ないからこうしているんだ……。プーザンだったか、久しぶりに楽しい戦いだった。この続きは向こうでやるとしよう……」


 いや、その熊は向こうに逝かないからね。

 次に誰かがここに来たらリポップしてくるから。


「お別れの挨拶は済みましたか?」


 こちらに背中を向けているお母さんの表情は見えない。

 というか、沸き上がるオーラが真っ黒過ぎて、その背中すら見えない。


「な、なあ!おま、お前が強いのは十分すぎるほど解った!だから!せめて武人の情けとして最期に俺と――」


「武人では無いと言いましたよ?――『黒炎陣インフェルノ・サークル』」


「待て!待て!待ってく――」


「阿須奈……母さんたちのこと頼んだぞ……」


――ゴオォォォォォォオォォォォ!!


 阿須奈おとうさーん!!


 お父さんと熊さんは、遥か天井まで燃え上がる漆黒の炎の中に消えていったのだった……。




 あの時、私と鏡花ちゃんがコースターごと突入してきたこのダンジョンは、どうやらちょうど新しく発生したばかりのものだったらしい。

 その生成?段階に飛び込んだ私たちと苑子さんと康平さんは、本来の入り口であるはずの場所ではなく、拡張している途中の階層に迷い込んだのではないかということだった。これは世界でも例の無い事例なので、この考えはあくまでも仮説にすぎないのだけれど、その後に事態を把握した阿須奈たちだったけど、ダンジョンに入る為の入り口がネズニ―ランド内に出現するまで5時間ほどの時間がかかったとのこと。

 現在、ネズニ―ランドはダンジョン省によって閉鎖されており、ダンジョンの外では栗花落つゆりさんや連絡を受けて駆け付けたカレンダーズのみんなに東海林しょうじ先生。あと向田が私たちの帰りを待っているのだそう。

 向田いる?という疑問が湧いたが、あんなのでも一応は責任者ということで、新たなダンジョンの出現に加え、私たちや一般市民である苑子さんたちの救助という作戦上、阿須奈たちがダンジョンに入る許可を出す最終的な決定権は向田にあったとのこと。

 決定権はあった。ただし選択肢があったとは思えない。


 そして小鳥遊ファミリーによる救出ミッションが発動された。

 熊と出会ったこの場所は、おおよその予想通り地下8階だった。阿須奈たちの実力からすれば問題なく辿り着くことが出来る浅さだったのだけれど、やはり1階ごとの広さが桁違いに広かったらしい。それに加えて正規ルートの分からないダンジョンに迷いながらようやくここに到着。そして瀕死の私を見つけたという流れのようだ。

 私たちが6時間かけて同じ階層を彷徨っていたのに対して、迷いながら7階層半くらいを1時間あまりで駆け抜けてきたというとんでもないスピード……。


「お陰で助かったけどね……」


 今はそのことに畏怖するよりも、素直に阿須奈たちに感謝しておこう。

 そう、この階段を上がれば地上で出る。

 一度は死を覚悟したのに、こうして私も鏡花ちゃんも無事で帰還することが出来たことを喜ばなきゃだ。

 そうじゃないと尊い犠牲となった人が浮かばれないから……。


 長い階段を上がり、洞窟のようにせり上がった出口を抜ける。

 外はすでに夜。すっかりと暗くなった園内だったが、周囲を囲うように設置されていた照明が私たちの姿を照らし出す。

 正面にいた人たちの中から1つの小さな人影が走ってきた。


「りんぜんばいぃぃぃ!!」


 そのまま強烈なタックルをかまされて、空腹だったはずの胃の中から何かが喉までせり上がってきた。


「ごふっ!!……ゆ、め、ちゃん?」


「よがっだぁぁぁぁ!!いぎでだぁぁぁぁ!!」


 抱きついてきたゆめちゃんは、そのサイズ感からは想像出来ない強い力で締め付けてくる。

 生きていて良かった。トドメは私が刺すつもりだったから!って事かな?


「鈴。お前、ぼろぼろだな……。肩貸してやろうか?」


 破れまくっている服の事なのか、今まさにぼろぼろになりつつある体のことなのか分からないけど、いつものように男前なことを言ってくる空。


「会長がみんなに心配させるようなことしないでよね」


 目の周りを赤く腫らした顔で憎まれ口を叩いてくるみらん。


「鈴原さん。大変だったわね。でも無事で本当に良かったわ」


 いつも通り冷静な口調だったけど、そのトーンはどこか優しい宇賀神うがじん先輩。


 そんな私たちの様子を離れた所から見ている東海林しょうじ先生に栗花落つゆりさん。と、どこかに電話をかけている向田。上に何か報告してるんかな?


 ダンジョンに入って半日くらいしか経ってないのに、私の心の中はその光景を愛おしいという気持ちで溢れていた。

 これまでも命懸けのことをやっていたんだという事を気付かせてくれた今回の一件。

 阿須奈の家から始まり、配信や同好会の設立。流されるように続けていた自分の中でそういう気持ちが薄れていたことを痛感した。

 元々乗り気ではなかった私の気持ちは、もしかしたら最初から現実に向き合っていなかったのかもしれない。怖くなればいつでも逃げ出せば良いと。心のどこかでそう考えていたから。

 でも、もう逃げてらんないな。こんな中途半端だった私のことを、こんなにも本気で心配してくれているみんなの姿を見ちゃうとね。


「さあさあ、鈴ちゃんも疲れているから、まずはゆっくり出来るところに行きましょうね」


 阿須奈のお母さんが優しく微笑んでいる。


「お父さんにはまだお話がありますからね」


 その言葉に前髪が燃えてチリチリの髪になった阿須那のお父さんが震えあがる。

 その髪で明日からの仕事大丈夫そ?


 こうしてお父さんの社会人としての尊厳という尊い犠牲を払った今回の事件は終わりを迎えることになったのだが……。




――翌日――


「え……どういうこと……」


 昨日は疲れていたということもあり、詳しい事情聴取を受けることなく帰宅した私だったが、早朝から空の鬼電によって起こされた。

 とにかく国連のHPのランキングを見ろとのこと。

 半分寝たままで開いたその画面を見た途端、それまでの私の眠気は遥か時空の彼方へと消えていった。



ランク1  UNKNOWN

ランク2  UNKNOWN

ランク3  UNKNOWN

ランク4  ジョージ・ビシェット(アメリカ)

ランク5  トレバー・ガルシア(アメリカ)

ランク6  ルイス・ポープ(イギリス)

ランク7  李 震(中国)

ランク8  コリン・ブラッドリー(アメリカ)

ランク9  UNKNOWN



ランク10  鈴原 鈴(日本)




―― 第3章 カレンダーズ本格始動  完 ――


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【第3章完結】隣の席の美少女転校生の家がダンジョンだった件~謎の世界ランカーが一家揃って隣に越してきました~ 八月 猫 @hamrabi

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