第62話 アンタッチャブル!!

 半ば強引に2人を探索者としたことで私たちの進むペースは一気に上がった。

 ドレッドダックを1羽ずつしか倒していないはずなのに、思ったよりも2人の能力は強化されたみたいだね。ここが8~9階層だとしたら、そこにいた雑魚でも結構な経験値が貰えていたということかな?

 それでも武器も持たない2人に戦わすわけにはいかないので、私が先頭で露払いをしながら進んでいるんだけどね。


「よいしょー!!」

 潰れるクリスタルもどきスライム(角ばった見た目の柔らかいスライム)


「こらしょー!!」

 吹っ飛んでいくチキンドッグ(飛べない羽のある犬型の魔物)


「どっこいしょー!!」

 拡散して消えていくファイヤースモッグ(炎のような見た目をしているだけの霧)


 特に見栄えしない魔物を倒しながら進んでいく。

 使いまわしなどではないよ?


「ねえ鈴ちゃん」


 ハンマーを振り回している私に苑子さんが声をかけてきた。


「どうかしました?」


「あのね、どうして鈴ちゃんが倒した魔物は、綺麗に消えていくの?私たちが倒したアヒルみたいなのは、なんか、その、ぐしゃってスプラッターな感じになってから消えていったじゃない?でも鈴ちゃんが倒した魔物は、こう、ぐしゃっとなる前に消えていってるような……。最初はそういうものかと思ってたんだけど、自分で倒した後に見ると、ちょっと違うような気が……」


 潰れたクリスタルもどきスライムは潰れて爆散する前に消え、吹っ飛んでいったチキンドッグは空中で消え、拡散していったファイヤースモッグは文字通り霧のように消えていった。

 何故って聞かれても私にだって分からない。


「ふしぎだよねー。うちのパパもふしぎだっていってたよ」


 オーガパパでも分からないんだ!?

 いや本当にどうなってんのか教えて欲しい。


「鏡花ちゃんのお父さん?えっと、その人も探索者なの?」


「たんさくしゃってなにー?」


「え?鏡花ちゃんも探索者なんだよね?」


 苑子さんの質問に首を傾げる鏡花ちゃん。

 うーん、可愛すぎる!!


「苑子さん。ええとですね、ちょっといろいろと事情がありまして、それを説明するわけにはいかないんです。すいません」


「あ、ああ、ごめんなさい。そうよね。いくらダンジョンに疎い私でも、あなたたちが普通じゃないことくらいは分かるわ。配信者の人のアーカイブを見たことがあるけど、あんなでっかいネズミと戦ってる人なんていなかったし」


 苑子さんは何かを察してくれたのか、それ以上聞こうとはしてこなかった。

 んだけど――


「ええー!こんなこと聞ける機会なんてそうないんだし、聞いとかないと勿体ないって!」


 空気の読めない男ランキング入りを狙っているのかと思う程の空気の読めなさで康平さんが追撃してきた。


「康平!あんた馬鹿なの?脳みそ腐ってんの?腐った脳みそなんだったら、さっきのネズミにでも食わせてきなさいよ!」


 おお……辛辣ぅぅ。

 でも、私の戦友に変な物食べさせないでくださいね。


「康平さん」


「は、はい!」


 おい、何でそんなに怯えるんだ?

 あ、このハンマーか。ごめんごめん。

 私は無意識に振り上げていたハンマーを下ろして康平さんへ話しかける。


「別に私たちのことを話しても良いんですよ」


「え?本当に?」


「え?鈴ちゃん?」


「でもね、知ってしまうと、ここを無事に出られたとしても、今後一生あなたの周囲に監視が付きます」


「監視!?誰の!?何で!?」


「誰のかは話を聞き終わったら分かります。そしてその監視は、あなたがここで聞いたことを誰かに、またはネットなどで漏らさないように、24時間体制で監視されます。当然ネットも監視されます」


「もし、誰かに話たら……」


「余にも恐ろしいオーガに、足の先から、じわじわと、地獄の苦しみを味わあせられながら喰われます……わあっ!!」


「ひいっ!!」


 腰を抜かしてへたり込む康平さん。

 あ……。

 いや、そんなつもりは無かったんですよ?


「康平……」


「ああ……」


 ズボンの股間の辺りに広がっていく染み……。

 そういや、さっきトイレ行きたいって言ってたの忘れてたね。

 ほんと、ごめんて。



 枝分かれした道を勘任せで進み、行き止まりなら引き返しの繰り返し。

 スマホの時計を見ると、ここに迷い込んでから6時間が過ぎていた。

 いくらなんでも広すぎることに違和感を感じながらも、私たちには進んでいくしか脱出する方法が無かった。


「2人ともお腹空きません?」


 苑子さんと、パン1になって付いてきている康平さんに聞いた。


「腹減った!」


 その恰好でそんなこと言ってると、昔のわんぱく小僧にしか見えないな。


「私も少し空いたかな?でも食べるものなんて……」


「鏡花ちゃん。さっきのアレ出して」


「ん?あ、はーい」


 鏡花ちゃんの肘から先が空中に消え、その先で何かごそごそと探している。


「鈴おねえちゃん、これー?」


「そそ、ありがとう。2人ともこれ、食べます?」


 私は最初のカニを倒した時に手に入れた、でっかいカニの脚を2人に見せる。


「え……これって……」


「あのカニからドロップしたカニの脚です。火が無いんでお刺身になりますけど、多分美味しいですよ」


「それ……食べれるのか?」


「毒のあるカニって聞いたこと無いんで大丈夫じゃないですかね」


 カニはすべからく美味しい!


「いや鈴ちゃん。毒のあるカニはいるわよ?」


「何ですと!!カニに毒があるなんて、それはカニへの冒涜でわ!?」


「そんな神へのみたいに言われても……。確か、フグと同じような毒を持っている種類がいくつかいたはずよ」


 知らなかった……。

 海にいるカニはどれもそのまま美味しくいただけるものだと思ってた……。


「じゃあ、これは一旦保留ということで……」


 帰って鑑定してもらってから1人で食べようっと。


「鈴おねえちゃん……」


「ん?どうしたのかな?」


 カニの独り占め計画を企んでいた私の服の袖を引っ張る鏡花ちゃん。

 どしたん?急に寂しくなった?抱きしめてあげようか?


「このさきになにかこわいのがいる……」


 そう言った鏡花ちゃんの小さな手は、その何かに怯えているように震えていた。



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