第57話 下される死神の審判

 あれから都合3度、召喚されたキラーマウスを全滅させた。

 そしてまたまた鬼ごっこ中の私。

 相変わらずボスの周りをくるくるとネズミを引き連れて回っているだけ。

 さすがに少し疲れてきたし、未だに突破口を見い出せないでいる。

 多分一対一ならジャイアントキラーマウスも何とかなるような気がしてるんだけどなあ。


「ねえ、りんおねえちゃん」


「ん?なあに、鏡花ちゃん」


「あのおっきなネズミさん、まだ退治しないの?」


「そうしたいんだけど、後ろの小さいネズミさんが邪魔で近づけな…い……」


 隣を見ると、鏡花ちゃんが私と同じスピードで走りながら話しかけてきていた。


「ええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


「わあ!びっくりした!」


「え?!何?!どういうこと?!」


 何で鏡花ちゃんがボス部屋に入ってきてるの?!

 てか、その走るスピードおかしくない?!鏡花ちゃん5歳だよね?!何でそんなに足が速いの?!


「うしろのネズミさんが邪魔なんだったら、そっちはわたしがお掃除してあげる!」


「い、いや!鏡花ちゃん何を言って――てか、何で入ってきてるの?!危ないでしょ?!」


「え?だいじょうぶだよ?」


 鏡花ちゃんはにっこりと笑うと、くるっと後ろ向きになって走り出した。

 私と同じスピードで……。


「ネズミさんたちー。こっちだよー」


 そんな言葉をキラーマウスにかけると、周回コース上から外れて真っすぐに抜けていき、キラーマウスも鏡花ちゃんの方を追っていった。


「ちょっ!!鏡花ちゃん!!」


 私は突然のことに驚いて急ブレーキをかける。

 何で鏡花ちゃんを追っていったの?小さいから食べやすそうに見えた?

 私の方が無駄にお肉がついてるから美味しいよー!!

 ――って、うるさいわ!!無駄ちゃうわ!!期待値じゃい!!

 いや、そりゃあ鏡花ちゃんは食べちゃいたいくらい可愛らしいけど……ネズミになんぞ喰わせてたまるかあぁぁぁ!!


 地面を力の限り蹴り、鏡花ちゃんに向かっていたキラーマウスの方へ走り出し――は?え?ほ?


 走りだそうとした私の目に映ったのは、立ち止まってキラーマウスを迎え撃つかのように仁王立ちしている鏡花ちゃん。

 その手に持っているのは小さな鏡花ちゃんよりも大きな刃渡りの死神の大鎌デスサイズ

 柄の部分だけでも私の身長くらいあるその巨大な鎌をにこにこした顔で構えている鏡花ちゃん。

 こんな可愛らしい死神ならば、最期の時は是非お迎えに来ていただきたい。


「えい」


 そんな可愛らしい掛け声と共に、重そうな大鎌を軽々と振る。

 瞬間に細切れになるキラーマウスたち。

 そして巻き起こった突風が私の突進しようとしていた身体を僅かに押し戻す。

 もう少し早く走り出してたら、私も細切れになってた?


「鏡花……ちゃん……それは何?」


 巨大な鎌をバトントワラーのようにくるくると回している鏡花ちゃん。


「これから家の中のネズミさんは、鏡花が退治する係さんだからって、サンタさんにおてがみと一緒にもらったのー」


『お菓子とかおもちゃは入ってるけど』


 そんな物騒なおもちゃがあってたまるかあぁぁぁ!!

 サンタさんが子供にそんなもんをプレゼントしてたら、世界中が大パニックに陥るわあぁぁぁ!!


『武器?あすなおねえちゃんが使ってるようなやつ?』

『うん、そうそう。ああいう剣とか刀みたいなの』


 私か?!私の武器への認識が甘かったのか?!

 いや、鏡花ちゃんだって見た目は小さくて超かわいい女の子だけど、あの常識外れの小鳥遊家の人間だった!!

 認識が甘かったのは鏡花ちゃんに対してだ!!


「チュイィィィィィ!!」


 一瞬でキラーマウスが全滅したので、ジャイアントキラーマウスが次の召喚を行う。


「えい」


 しかし、その姿が見えたかな?って瞬間に、突風と共にバラバラになって地面に落ちる。

 そして私の前髪が2、3本、はらりと斬れて舞った。


「こっちはわたしが……くじょ?しておくから、りんおねえちゃんは、かっこよくあのおっきなの……くじょ?してー」


 鏡花ちゃんは死神の鎌を肩に担いで私にリクエストしてくる。


「え……かっこよくって……鏡花ちゃん?」


「りんおねえちゃんがんばってー」


 その目は私の活躍するところを見たいという期待に溢れているようだった。

 今だけはその笑顔が悪魔の――いや、死神の微笑みに見えるよ。


 殺らなきゃ殺られる!!

 何かそんな気がする!!


 私が振り向くとジャイアントキラーマウスと目が合った。


 どうする?


 全身真っ黒なのに青ざめているように見えるジャイアントキラーマウスは、露骨に怯えたような目で私にそう訴えかけていた。

 何故か私はネズミと意思疎通が出来るようになったようだ。

 そして私も奴と同じような目をしているだろう。


 やるしかない。


 私が目でそう伝えると、ジャイアントキラーマウスはコクンと頷いた。

 お互い引くわけにはいかない。

 鏡花ちゃんの重すぎる期待から逃げられない私と、死神よりも私と戦う方がマシだと考えたジャイアントキラーマウス。

 あいつ、絶対に私に勝った後は逃げるつもりだな。


 お互いに負けられない戦いがここにある!!


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