第55話 知らない方が良いこともある
「鏡花ちゃんお待たせ。ちゃんと待っててお利口さんだね」
2人を連れて戻ってくると、鏡花ちゃんは宝箱の上で足をぶらぶらさせながらチョコクッキーを食べて待っていた。
ぷらぷらのあんよ可愛すぎる!!
「その人たちは?」
私の後ろで怯えるような視線で辺りをきょろきょろしている2人。
「えっと、この人たちもネズニ―ランドからここに飛ばされちゃったみたいなの。だから一緒に行っても良いかな?」
「うん、良いよ!」
「ありがとう。じゃあ行こっか。まずは上に上がる階段を見つけないとだね」
さっきのカニの強さからしても、ここはそれほど下の階層だとは思えない。
それならどこに出るかは分からないけど、とりあえず上を目指していけば外には出られるはず。
素人2人と鏡花ちゃんがいても、私1人でやれないことはない、というかやらねばならぬ!
でも……出来れば武器が欲しいな……。
魔物を素手で触りたくないよね。
「あ、そうだ。お2人の名前を聞いてなかったですね。私は鈴。こっちが鏡花ちゃんです」
「ああ…ごめん。ええと、俺は
ん?ソノコ?アクアマリンて呼んでなかった?いや、ラピスラズリだったっけ?
「ソノコさん?あの、さっき別の名前で呼んでませんでした?」
「あ、いや、あれはその……」
急に落ち着きが無くなるコウヘイさん。いや、落ち着きはさっきから無かったか。それまで以上に挙動不審なくねくねした気持ち悪い動きになる。
「私ね、ラピスラズリって名前でVTuverやってるのよ」
「お、おい!」
「いいでしょ?命の恩人にそんなこと隠しても仕方ないじゃない?どうせ登録者だって1000人ちょっとなんだから、バレたところで誰が喜ぶの?」
「そ、そうかもしれないけど……一応、形式上中の人のことは……」
「ああ!うるさいうるさい!どうしてあんたは配信ではあんなに俺様キャラなのに、現実に戻るとこんなに女々しいのかしら?」
「だ、だって、あれは顔が見えないし……」
見た目は結構しっかりしてそうなのに、中身は草食系というか食われる草?
「コウヘイも一緒にカップルVTuberとして活動してるから、そっちの名前で呼ぶことが多いから癖になっちゃってるのね。あの、あらためてお礼を言うわ。鈴ちゃん、さっきは助けてくれてありがとうね」
見た目は派手なソノコさんだけど、中身はしっかりとした大人の人みたい。
VTuberの中の人の中身ってややこしいな……。
まあ、知らない方が良いことだってあるよね。
「いえ、助けることが出来たのはたまたまですし、本当にもう少し遅かったら……」
私が言葉の先を言うのをはばかると、2人は自分の身体を抱きしめて身震いしていた。
「とりあえずここから出る方法を探しましょう。まずは上に行く階段を探さないといけないので、少しこの階層を歩くことになりますけど良いですか?」
「えっ!俺たちも?その小さい子も?あの魔物がいるところへ戻るって言うのか?!」
「そりゃそうでしょ?それともあんた1人だけここに残るって言うなら止めないけど?」
「い、いやそれは……嫌かな」
「じゃあつべこべいってないで覚悟決めなさい!!」
「は、はい!!」
ソノコさんつえぇぇ。
女は度胸、男は愛嬌の時代なんですかねえ。
「この人たちって芸人さんなの?」
鏡花ちゃんが2人のやり取りをぽかんとした顔で見ながらそう言った。
「うーん。まあ、似たようなもんかな?」
さ、出口出口っと。
さっきカニを倒した先でコースターのレールは途切れていた。
そしてそこには岩で囲まれた学園の体育館くらいの広さの空間。
前方に通路の入り口が見える。
私は嫌な予感がした。だってそうでしょ?何でここにこんなスペースが必要なの?これ、今までに何度か見たことあるよ?
先頭を歩いていた私はその空間の入り口で足を止める。
「どうしたの?」
突然止まった私にソノコさんが声をかけてきた。
「ここ、多分ボス部屋ですね……」
それ以外考えられない。むしろそれ以外だったら、最初から通路繋げとけって話。
「ひっ!ボ、ボス?!」
何故こんな中途半端な場所にボスがいるのか分からない。
行き止まりから歩いてきたのだから、ダンジョンの本筋は向こうの通路から入ってくるのが正しいはずだ。しかしボスを倒したとしても、その行き止まりにしか行くことは出来ないというのはおかしい。
でも一本道だから進むしかないんだけど……。
「鈴ちゃん、ボスに勝てるの?」
ソノコさんが不安そうに聞いてくる。
「……分かりません」
さっきのカニがこの階層でどのような位置にいる魔物なのか。
浅い階層なのであればそれほど差はないけど、ある程度の階層、7,8階あたりから出現する魔物は上の階層でもいそうな強さの魔物から、その数段強さが上がった魔物まで一気に多種に及ぶようになる。
つまりカニがこの階層の中でどの程度の強さなのかによって、今いる階層がどの辺りなのか判断することも出来るんだけど……あいつしかまだ出会ってないからなあ。
それに今の私は完全な素手だ。
そうなってくると余計にボスと戦うのは分が悪いとしか思えない。
「りんおねえちゃんどうしたの?」
立ち止まって黙り込んでいた私を鏡花ちゃんが覗き込んでくる。
そうだ、この子の為にもここから脱出しないといけない!!
「ううん。なんでもないよ。鏡花ちゃんは心配しないで良いからね」
私は出来る限りの作り笑いを浮かべてそう返事をした。
ま、結局はやるしかないよね。
救助を待つにしても、私たちがここにいることを知らせる手立てもないんだし。
私は3人にここで待つように言ってから、ボスが現れるであろう場所へと足を踏み入れた。
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